【書評 まとめ 考察】「マネジャーの最も大切な仕事」 要約レビュー 前に進んでいる感覚を持ち、小さな前進を実感することが人のやる気を高める

マネジャーの最も大切な仕事 要約 まとめ レビュー

やる気を高め、創造的な仕事をするには何が大事なのか?についての知識が学べる「マネジャーの最も大切な仕事」を読了しました。著者は心理学者のスティーブン・クレイマーとテレサ・アマビール。1万を超える日誌研究からどういったときにやる気は低下し、どういう行動をすればやる気が上がるのかについて、豊富な心理学の知見から分析した本です。

マネジャーの最も大切な仕事とは部下のやる気を高め、生産性を最大化すること。

邦題にもなっているマネジャーの最も大切な仕事ですが、これは部下のやる気と生産性を最大化する事です。そのためには昇進や報酬と言った外発的動機付けでは無く、働く本人の内から湧き出る内発的動機付けが重要になります。実際にその仕事をしている人の内面を充実させ、鼓舞させることができるかが重要です。管理職向けに書かれた内容でちょっと堅い文章が続きますが、本書で説かれるモチベーションについての知見はどの人でも応用できます。

やる気を高めるには前に進んでいる感覚が重要。

原著タイトルは「The Progress Principle」。progressとは進捗(しんちょく)進歩という意味で本書の内容も「進歩の原則」を重視したものとなります。本書では感情、認識、モチベーションという人間が持つ3つの要素をインナーワークライフと名付け、このインナーワークライフを充実させる事が組織と個人の創造性や生産性を高めるのに重要だとしています。

ビジネス書にありがちな堅い文章に加え、インナーワークライフというなじみの無い用語が出てくるので読みづらいですが、私なりに何が重要でどう日常生活に落とし込んでいくかを考えてみると、やる気や生産性を高めるには前に進んでいる感覚を持つことが重要であるとまとめられます。

人は機械では無く感情の生き物。外からでは分からないその人の感情面を大切にする事が生産性を高める。

なぜやる気は下がるのか?生産性は下がるのか?という問題は多くの人が抱えていますが、それは目に見える成果ばかりを追い求め、内面を大切にしていないことが原因であると本書では指摘しています。例えば強いプレッシャーや解雇(不安定な雇用)が身近に感じられるような職場では創造的な成果物など出来る訳がありません。成果ばかりを求め、実際にその仕事に就いている人の内面を考えないでいると、やる気や生産性は低下していきます。

小さなネガティブに人は敏感に反応する。

99の良いことがあっても1つの欠点があるとそれに意識が向いてしまうように、人はネガティブなものに強く反応する性質を持っています。小さなネガティブな感情や関心事があるとそれが後になって大きな生産性の低下をもたらします。小さな不快やしこりの根を解消しないでいると長期的に大きな悪影響をもたらす。この知見から、普段から小さなネガティブ感情に気づきそれを解消できるような仕組みを持つことが重要です。

■小さなネガティブの具体例
・同僚や上司とのコミュニケーション不足、意見の食い違い
・フィードバックの欠如、進捗が見えないこと、仕事の意義がわからないこと、目標目的不在の行動
・不安や失敗、心配事
・寝不足や食べ過ぎなどの体調不良

■対処法
・努力を目に見える形でフィードバックする、励ます、結果を示す
・仕事仲間と良好な関係を気づく、仕事への関わり合いを高める、仕事の意義を再定義してみる
・良質な睡眠や適度な運動をしたり、適切なストレス対策をする

前に進むための仕組みづくり

人が最も生産性を出せる状態は以下の三つに現れます。

高い集中状態を維持できている
自分が仕事へ関わっている事を認識出来ている(エンゲージメントできている)
困難な課題を乗り越えるための意欲が高められている

集中と関わりと意欲、これらを高めるためには自分が仕事をしたことによる進歩を自分で認識出来ている事が最も重要で、そのためには仕事の意義を自分で理解し、周囲の人からの励ましや応援といったプラスのフィードバックが与えられ、プレッシャーにならない充分な時間が与えられていることが重要とのこと。

要するに人をモチベートするにはその人の自己効力感を高め、心配事や悩み事を解決し、仕事を意義のあるものとして認識でき、取り組みの結果が実感できているかどうかということです。ちょっと考えれば当たり前のことなんですけれど、これを実際にどう落とし込むかは考えていく必要がありますね。

考察1 ゲームから進歩の法則を学ぶ。動機付け研究はゲーミフィケーションと相性が良い。

私なりに本書でいう進歩の法則について考えてみると、「進歩を自分に見える形で示すことが前に進んでいる感覚を刺激し、モチベーションアップに繋がる」、これはまさにゲームデザイナーの得意分野だと思いました。なぜ私たちがゲームに夢中になるのか?現実に置き換えると非常に困難な仕事を夢中になって取り組むのか?についての知見はゲームから学ぶことができます。

参考→【書評と要約】幸せな未来は「ゲーム」が創る ジェイン・マクゴニガル ゲームで得たものを現実世界にどう活かすか ゲームデザインとポジティブ心理学からの知見 人が本能的に求める持続的な幸福とは何かを知る

正直な話、私としては本書よりも上記の「幸せな未来は「ゲーム」が創る」の方が得るものが大きかったですね。

考察2 ソーシャルゲームは小さな達成感を提供する

本書で言われている小さな進歩の原則は電車の中でも見る事が出来ます。多くの大人がパズルゲームやソシャゲに夢中になっていますが、それは小さな達成感を得ているのではないか?と考えられます。仕事では自分のした行動が成果として目に見える形でフィードバックされることは少なく、日常生活の中で鬱屈とした毎日や退屈した仕事を送っていると何かしら達成感を感じたいもの。スマホゲームは日課やデイリーボーナス、周回による成長やアイテム報酬などで細かな積み重ねが小さなご褒美(行動に対してのフィードバック)を提供してくれます。その小さなご褒美に人々は感情報酬を得て夢中になるのかもしれません。

まとめとレビュー

著者の二人。コツコツとした調査と研究の積み重ね。

膨大なエビデンスに基づいた大量のデータや参考文献があるので信頼性はかなり高い本です。しかしその反面、文章が硬く冗長に感じる箇所も多い本です。しっかりとした研究が積み重ねられていることは実感できますが、事例の要素を細かく分析して考察が延々と続くので読み疲れてしまう時がありました。後半はどのように調査研究をしたかが詳細に記述されているので、どういう実験デザインで何を考慮していたのか研究者向けの資料として参考になるでしょう。研究者ではない一般の人が読むのにはお堅い本です。
 
総じて、私たちに出来ることとしては日々の日常生活の中で小さな勝利や達成感を感じる仕組みを作ることが肝要といえます。あとは周囲と良好な関係を持ち、自分が仕事に意義を感じていること。考えてみれば当たり前と思うことを、心理学研究として大掛かりな調査をして裏付けを取った本ですね。

私としてはモチベーションや仕事のやりがいに関しては元任天堂社長の故・岩田聡さんが仕事のやりがいについて言っていた「ごほうび回路」という概念がぴったりきます。ごほうび回路とは、自分でその仕事自体にやりがいや楽しみ、喜びを感じ、それが他人の役に立つような状況が理想というお話です。

ストレスやプレッシャーが多いとされる経営者や決定権をもつ立場の人ほど仕事にやりがいを感じるのも納得だと思います。自分で状況をコントロールできることは、行動の成果や進歩の実感を強くもたらします。高いエンゲージメントで働ける環境では自己重要感・自己肯定感も高まりやすく、ストレスもプラスに転じて生き生きと働けるのでしょう。一方で派遣やアルバイトなどで単純労働をしている人がやりがいを感じられないのも当然ですね。

非正規や中小企業、年功序列型の企業など多様な環境で働く人がいるので、本書の内容をどれだけ素直に実践できるか疑問になる点も残りますが、モチベーションについての知見を幅広く知るには良著です。自分の生活を分析し、より良い毎日を実践して行くためのヒントを得られます。

■日本語版「マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力」英治出版 (2017/1/24)

■原著「The Progress Principle: Using Small Wins to Ignite Joy, Engagement, and Creativity at Work (English Edition) 」

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