ジャンプ流vol.10 附田祐斗&佐伯俊 食戟(しょくげき)のソーマ 要約&まとめ

ジャンプ漫画家の創作の秘訣を探るジャンプ流。今回は「食戟(しょくげき)のソーマ」の作品で原作を担当した附田祐斗さんと作画を担当した佐伯俊さんについて、彼らの創作の秘訣を探ります。彼らの創作活動・クリエイティブ活動のヒントとなる知識をまとめました。

書誌情報 
「ジャンプ流 vol.10 まるごと 附田祐斗&佐伯俊 食戟(しょくげき)のソーマ」 集英社 2016/05/19

デビュー秘話

附田祐斗(つくだ ゆうと) 原作担当

・病弱で、幼い頃から家でゲームキャラクターなどをノートに描いていた。
・鉛筆書きでマンガを続け、大学進学後に賞を獲った漫画家志望の友人が作品を絶賛してくれた。そこで初めて原稿用紙とペンで作画し、ジャンプに投稿を始めた。
マンガが好きだからこそプロの漫画家は自分には無理だと感じていた。天才同士が向かい合って、真の天才しか残らない世界だと思っていた。でも、自分が作品に込めたメッセージを誰かに届けたいという思いはあった
・最初に投稿した作品は最終候補一歩手前に残った。悔しくてもう一度描いた作品がジャンプの12傑新人漫画賞で新人賞を受賞する「牙になる」だった。この受賞は出会いを呼び、大学の先輩の佐伯さんがアポなしで附田さんの家を訪れることに。
・プロになれるとは思っていなかったので、大学卒業後はイベント会社に就職した。担当は諦めず、時々電話が掛かってきて、マンガを続けるように励ましてくれた
・担当さんが、「連載を狙えます。あとはいつ会社を辞め、プロになるかですよ。」と背中を押してくれて、会社を辞めプロになることを決意した。周囲に後押しされる形でマンガ家になった。
・「少年疾駆」で初連載を果たすも短期間で終了。バトルやファンタジーも描いてみたけれど全然ダメで。昔から群像劇を描くのが好きで、誰もが幸せになれるような、誰かを倒す物語ではなく生きていて良かったというメッセージを伝えたいんだと再確認した
・連載が獲得できず、就職活動しなければと思っていた頃に、佐伯さんから企画の提案を受けた。佐伯さんが引っ張り上げてくれた感じ。
・最初はお互いどこまで口出ししていいのか分からず、でもチェックする領域を決めてからはメリットしか感じていない。自分に足りない表現の濃さを補って貰えるのはとても大きい
・大学で学んだマーケティングの知識や会社勤めをしてビジネスメールが打てるようになったことが「食戟のソーマ」でも生きていると感じている。料理学校の取材依頼も丁寧に出来るように。
・満腹になると眠くなるので、ネーム作成中は料理マンガを描いているのとは思えないほど素食になる。
・ストレス解消法は銭湯に行くこと。お湯と水風呂に交互に入ることでリフレッシュできる。
・ネーム制作中は同じドラマの同じ回をずっと流し続けている。気分転換にちょうど良いし、知っている話だから意識が持って行かれすぎることもない。
マンガ以外の勉強も絶対に必要。マンガに関係なくみえることも、マンガ作りの役に立つ!いろいろ経験して欲しい

佐伯俊(さえきしゅん) 作画担当

・芸大に在学しており、絵を描ける仕事に就こうと漠然と考えていた。ゲーム会社などいろいろ考えたが、朝起きるのが苦手で社会人は無理だと感じていた。自分のペースで働けるマンガ家になろうと決めた
・それまで趣味としてマンガを描いていたが、マンガ家になろうと決めてからは真剣にマンガを描き、投稿するようになった。芸大なのでデビューを目指す仲間も多かった
・マンガ家を真剣に志した佐伯さんのもとに、後輩附田さんの受賞の報が。自分はボツを貰っていたので、これで悔しくなり、他誌でデビューを果たした。
・担当が附田さんのところに置いてあった佐伯さんの単行本の絵柄に惹かれ、附田さんを通して佐伯さんと連絡をとるように。
・縁が続き、「キミと私の恋愛相談」がジャンプnextに掲載された。
・次の企画として料理マンガを思いつくも、料理監修は必須。詳細な取材も必要で、原作を誰かにお願いしようと担当は判断。そこで白羽の矢があたったのが附田さんだった。附田さんなら自分の言いたいことも配慮してくれる信頼感があった。
・食戟のソーマの連載が決まると貯金をはたき、仕事場の環境を整えた。
迷ったらとりあえずやってみる。最初の単行本が出るまでは不安だったが、1巻を出すことが出来たとき、なんとかこれでやっていけると自信を持った。
・他の人より負けたくない部分を持ち、自分の他の面をカバーできるぐらいの武器になっていると逆境に強くなれる。自分の場合は顔の造形。もちろん自分よりうまい人はたくさんいるが、そういう人の作品を見る度に自分の絵もこうすればもっと良くなるかも?と試行錯誤しながら描いている。モチベーションよりは、そこが負けたら少なくとも近づくために修行しないと自分を保てなくなるという感覚。それが外部からの様々な意見にさらされても自分の心を支えてくれる。
・マンガ家になる前にやっておいて良かったと思うことは、画塾でデッサンの勉強をしたこと。逆に他のマンガを勉強することをしなかったので、早くやっておけばよかったと思っている。
・かなり寝付きが悪いが、奥さんに耳かきをして貰うとコロッと寝られるので欠かせない。
・タッグでのマンガ連載作業は自分以外からの刺激をもらえるのがとてもいい。

技術面

・ペパーレス、紙がない最先端のデジタルな制作環境
ネームからペン入れ、着色まですべてがデジタルで行われ、作画資料すらもスタッフの共有サーバー上にデジタルデータで管理されている
・お互いにアイデアを交換し合って作品を作り上げていく。
・料理対決では先攻後攻どちらが勝つのか分からないようにして、リアクションバトルといえる攻防を描き、飽きさせないようにする。
・手ぬぐいやエプロンなどの小道具も重要。なびかせることで絵に動きを持たせ、決めのシーンでは決めぜりふと合わさり、少年マンガらしい勝利の演出が出来る。直接闘わない料理対決という舞台でバトルマンガのようにキャラが映える工夫をしている。
・目の描き方で性格を表現している。目は最重要なパーツ。明るいキャラには上側にハイライトを持たせ、そうでない者には下側にハイライトを持ってくるか、ハイライト自体を入れないことも。もしくは瞳孔をひらかせることでも違いを出している。

料理マンガとして

資料を徹底的に観察し、シズル感(美味しそうな感じ)を出す。デジタルの利点を活かす
料理マンガは料理を大きくドーンと見せることが命。美味しそうな料理はバトルに説得力を与える。
・料理を書く上で重要なのが、資料をしっかりと観察すること
・オリジナルの料理が多いだけに、そのままの資料が存在することは稀。さまざまな料理や素材を観察し、組み合わせて書いている
資料そっくりに書いてもマンガの表現にはならないデフォルメして強調することでマンガらしい絵ができる
・おいしさの表現にはとことん手を入れられるデジタル作画ならではの利点を活かしている。焼き物なら焦げの部分を黒でしっかり表現したところにハイライトを足してジューシーさを加える。
・食べ物の自然なテクスチャーを表現するために、1ストロークでその複雑さを表現できるブラシを用意する。
・料理の登場シーンはその料理をつくったキャラ自身と一緒に出すことで料理の期待感を煽っている。
・第5話から料理研究家の森崎友紀先生に協力を依頼し、料理のアイデアを提供して貰うことで料理のリアリティがさらにアップ。
・キャラクターはその生活が見えてくるほど作り込むことで魅力のあるものになる。
味の視覚化ともいえるリアクション表現
・書き込みはじめは目から。顔のバランスが崩れないように。
・手前の絵は線を太くして力強く表現する。デジタル作画でも線に強弱をつけることでアナログ感が出る。
・動きのある場面や登場人物に不安のある場面ではコマの枠線は斜めにし、逆に落ち着いた場面では直角、平行にコマを割り安定感を出すことを意識している。

DVDより

・まずはアタリをつける。
・表紙の作業。はみ出すように描く。枠内にどう収まるかはある程度見ておく必要がある。
・ショートカットを使いこなすのはスピードアップに欠かせない。身体でどんどん覚えていく。色んな作業が早くなる。
・不透明度を下げてやればアナログで言うところの薄く描いた下書きやトレースするための台の用紙の下に置いた感じができる。
・何度でもトライアンドエラーが出来る。
・デジタルはまだアナログほど直感的に思った線を一発で引けない。誤差が出る。それを埋めるためにトライアンドエラーは必須。
・カラーは線質にはこだわらない。モノクロは線が目立つ。勢いよく引いて、綺麗な線を心がける。
・クリップスタジオ(clip studio)で色を塗っている。

モノクロ600dpi、カラー400dpiで描いている。カラーは350dpiでも大丈夫だと言うが、念のため大きい解像度で作業している。
・過去に描いた画像を持ってきて、そこから色を引っ張っていく。
・光源は途中でどこにあるのか分からなくなったりするので、余白に矢印で描いておくと間違えたりしない。
・ソーマは髪の毛がとげとげしてるので髪の流れを掴んで描くのが難しい。明るいところと暗いところの差が明確になるように、完全に二つに分かれているよりは中間色をもう一個設けて複雑さを出す
・黒目の下地を作り、これにクリッピング機能を使うとさっき置いた下地の範囲しか塗れなくなる。はみ出しとか気にせずガリガリ塗れる便利な機能。
肌を塗るときに光源との間に(髪と肌の間の影)落ちる影をまず描く塗るときは一番濃い影から塗っていく。全体の印象がまず一番強い色なので、ハーフトーンを書く前に印象をだいたいこんな感じかな、と分かりやすく示す
・レイヤー機能。階層があって、影に対して上に一個作って、黒とかで塗ると、したの色には反映されず塗りつぶすし、入れ替えると別な色合いになる。どっちが前に来るかによっていろいろな効果が使える。最終的にはレイヤーは整理していくが、描いている時はワンストローク1レイヤーのつもりで描いている。塗っては透明な色で透かして混ぜ合わせるというか、透明な色で消して、なめらかな肌とかを描くようにしている(不透明度の設定)。ワンストロークずつ編集できるようなやり方をしている。
・塗り残しをなぞると勝手に塗りつぶしてくれる最強に便利な機能をフル活用している。閉領域フィルという機能(囲って塗る機能)。虫食い穴をバケツツールで塗りつぶすのはめんどくさすぎる。上をパッとなぞったら全部塗りつぶしてくれる最強の機能
・色を考えるときに意識していることは、暗いところはただ暗い色じゃなくて、色相をちょっと変えてやることを意識している。そっちの方が変化が見える。そのまま暗くして塗ってやると、ちょっと紫寄りになる。下地の色と影の色を変えることで変化が生まれ綺麗になるのかな、と感じている。
・クリップスタジオのいいところの一つに、色んな素材が自由に使えるというのがある。
・黒い線だとちょっと浮いちゃうので、なじむように線の近くを隣接する色に近い色で描いていく。シワとかはもっと薄くしてなじませる。
・画面に動きが出来るように、ハチマキに動きをつけたりしている。
色とかも実際に置いた後どんどん変えることも出来るので、恐れず、ガシガシ塗りつつ、いい感じになるところを模索していく

・3dとかも使って作画したりもしている。
・全ての作業はオンラインで繋がっている。
・ネームから原稿に落としていく。
・デジタルはいくらでもやりなおしができる。定規とか、プログラムで成業してくれるおかげでアナログで大変な作業がやりやすい、トーンにもお金を使わなくて済む
デジタルの悪いところは落としどころが分からなくなる、どこまでやってもこだわりづけてしまう
・全員でスマブラをやって、負けた人が掃除を請け負う。
・アシスタントさんにご飯を。みんな好きに食事をアレンジ。作画の資料としても料理は大事。
・紙の資料は少なく、パソコン上に資料を保管収集している。
・小畑健さんにあこがれている。気さくでいいかた。
・モノクロ原稿ではコミックスタジオ。カラーはクリップスタジオ。塗りつぶしも閉領域フィル機能でワンクリックで出来るのが最高。
・反転してデッサンの狂いとか確認したり、拡大縮小回転自由自在にできる。
・描いていると画面に寄りがちになる。同じ画面のパソコンを2台用意している。ある程度離れたところから絵を確認したい。
・タブレットやモニターを駆使して、色んな用途で活用している。
・ジャンプ連載については締め切りを一生懸命こなしているだけ。自分がジャンプで連載していることをびっくりしている。ジャンプでは普遍的なものを描きたい。ジャンプは読者に普遍的な面白さを提供する場。あんまり独りよがりすぎることを描いても意味が無いのかもなぁ。それがジャンプ。
昔読者だった当時の自分が読んでも、面白い、格好いい、カワイイと思えるような絵を描いていきたい

マンガ家を目指す人たちへ

本は読んだ方がいい。かつて頑張って好みでもない本を読んでいた時期が合って、今でもその時読んだ本一冊一冊が自分の中で活きている
・早い段階で自分のコア、絶対負けられない部分を強く意識しておくことが大事。そうすればそこにひっかかるものは全部闘争心が湧いてきて、絶対に負けてられないと歯を食いしばって頑張れる。そこさえあれば他の部分は後からでも大丈夫。ファンがついたり、魅力的だと思ってくれる人がついてきてくれる。

感想

私は「食戟のソーマ」の作品自体は知らないものの、デジタル作画環境やデータとして資料を整理しているところなどは共感できるところもありました。フォトショップではなく、セルシス社のコミックスタジオやクリップスタジオを活用していて、むかーしセルシスの新卒採用に応募して落ちた経験のある私としては、こうしたプロの作家さんがフル活用している現場を見ると凄いなぁ、という気持ちになりました。

デジタルの長所を活かし、絵が綺麗でお互いの長所を活かしている印象。今度機会があったら二人の作品も読んでみようと思います。

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