美術の教養を身に付けて絵画を見る目やクリエイティブなヒントを美術作品から得られる知識を得よう!という目的で始めた美術の時間。第3回目はバロック様式の後のロココと言われる美術様式についてまとめます。一言で言うと、ロココ様式というのは絶対王政の元で進んだ自国の画家を育成する機運にのって各国で発達したバロック絵画ということになります。
目次(Contents)
そもそもバロック様式って何?古典主義との対比としてのバロック様式の復習!
さて、ここで再びバロック絵画についてまとめてみると古典主義とバロック絵画は美術史において交互にせめぎ合っているとする見方が美術史家のハインリヒ・ヴェルフリン(Heinrich W¨olfflin)によって提示されました。両者は平行して存在しています。
扱う題材も対照的です。バロックはリアリズムの系統であり、人間の本性にあるものはすべて題材になります。バロックの目的として、字の読めない人達に向けての分かりやすい表現が追求されました。絵のすごさ、注文主(パトロン)の凄さ、豪華さを字が読めない階級の人でも一目で理解するように表現したのがバロック絵画です。
ヴェルフリン曰くバロックがシンフォニー絵画と呼ばれるのも、パッと見て驚く形がそこにあるからです。画面の統一やテーマを誰が見てもパッと見て分かる、感情で理解できるのがバロック絵画です。
一方で古典主義は人間の英雄的な側面や人としての尊厳、品格、典雅さを目指した貴族的、知識階層に向けたものでした。古典主義に特有の、要素を平等に対等に配置するポリフォニー的な趣味は貴族的でしたが、音楽で言うバッハの音楽が当時あまり人気が無かったのと同様に、こうした趣味は時代が進むにつれて徐々に後退していきました(バッハはオルガン弾きとして有名で、作曲家としては全然人気が無かった)。
なお、美術のバロックと音楽のバロックは全然違うので、そこは留意しておきましょう。
一般の人達の経済力がつくにつれて、バロック絵画の人気が向上してきた。
絶対王政の時代の時代になり、アカデミーと呼ばれる画家組合はラファエロの古典主義絵画を理想としました。ラファエロが属する前期ルネッサンスの古典様式の作品が素晴らしいとされてきたのですが、一方でバロック絵画の流れがありました。バロックも古典主義も元は古代ギリシャ・ローマの芸術から来ています。
バロック絵画は分かりやすいため一般市民の支持が高く、市民の経済力が高まって行くにつれて彼らのの要望が通るような、理解しやすく一目見ただけで理解できるような絵画が徐々に主流になっていきます。時代は流れ、貴族のものだだった絵画はバロック絵画によって一般の人にも親しまれるようになりました。
絶対王政の中で、王様は自国の画家を育成したいと思うもの。市民にバロック絵画が人気となると、最初はラファエロの古典主義を良しとしたアカデミーも徐々にバロック様式の絵画の流れに向かっていきました。(アカデミーは最初ラファエロを良しとしたが、プッサンになり、徐々に市民に人気なバロック絵画を認めるようになった。)
バロックはリアリズムに基づく面白さやファンタジーを画面に構築していきます。バロックと呼ばれた時代の後は、各国のバロック絵画としてそれぞれ分裂して発展して行きます。これがロココ様式と言われるものに繋がります。
バロックの分裂 カラヴァッジョに傾倒した画家達とルーベンスの流れを引き継いだ画家達 教皇庁のカラヴァッジョと宮廷画家のルーベンス
バロックは絶対王政の中で各国それぞれ分裂して発展して行きます。
特に大きなバロックの系統の一つには明暗で画面を統一するカラヴァッジョニズムといわれるカラヴァッジョに傾倒した画家達がいます。その中にはベラスケスやフェルメールなど、17世紀を代表する画家達が含まれます。フランスだとジョルジュ・ド・ラ・トゥールが有名で、明暗で画面を分けていきます。
もう一つのバロックの系統はルーベンスの流れを汲むものですが、ルーベンスの複雑で高度な技術力に彼の遺産を継承できた画家は一部しかいませんでした。ヴァン・ダイクやヨルダーンス、フランソワ・ルモワーヌが一生懸命ルーベンスの技術を引き継ごうとしました。ルーベンスの遺産を最も引き継いだ画家はアントワーヌ・ヴァトーだと言われています。
社会的地位としては宮廷画家のルーベンスの方が影響力が高かったそうです。一方でカラヴァッジョは宮廷では無く市民のための絵を描きました。彼は殺人も犯し波乱の人生でしたが教皇庁のバックボーンがあったといいます。
ちなみに画家レンブラントはルーベンスとカラヴァッジョの両方の要素を備えています。明暗も使いますが、カラヴァッジョニズムの明暗とはちょっと違います。
ルーベンスが人気画家に。ロココとは各国それぞれでバロックが発展して行ったもの。
ルーベンスが人気画家となり、ヨーロッパ中の宮殿にルーベンスの絵が配られるようになりました(その数なんと2500枚!)。
ルーベンス最大のパトロンはフランスのルイ13世の母親マリー・ド・メディシスです。ルーベンスが広まったのも彼女の存在が大きいとされています。しかしルイ13世の時代になり、絶対王政体制となると産業育成として自国の画家を育成しようという機運になります。
フランスではルーベンスやヴァン・ダイクを排斥しようという動きになり、ヴァン・ダイクはルイ13世に仕事をお願いしましたが、断られてしまいイギリスに渡ります。これがイギリスの絵画に大きな影響を与えたと言われています。ルーベンスの流れはイギリス絵画の基礎となり、イギリスのアカデミーが成立していきます。
時代の流れの中でバロックは発展して行く。古典主義を引き継いだプッサンの作品もあるが、ルーベンスのバロック絵画が人気の中心に。
時代としては、ルーベンスのように分かりやすく直接感情に訴える作品が人気となっていきます。この流れと対比となる古典主義の流れをくむのはプッサンで、古典主義のセオリーどおり同じ図形を繰り返したり、幾何学的構図、哲学的なストーリーを絵画に含ませています。
プッサンの作品は日本で言うと禅画のようなもので、何か深遠なことを考えて、小難しいことをテーマにしています。
これまで宮廷文化とされた絵画はバロックにより各国のバロック、地方のバロックとしてそれぞれ発展して行き、市民の絵画となりました。美術史上でロココと呼ばれるものの実体は各国のバロックとなります。ポストバロックとは、パトロンに依存する絵画では無く、市民のものとしての絵画の誕生の過程だとも言えます。ロココとは宮廷のバロック絵画から市民のバロック絵画に移り変わった時代です。
このロココと呼ばれた時代の後にフランス革命が起こり、また美術のあり方も変わっていきました。
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参考・出典
・「美術史の基礎概念―近世美術における様式発展の問題」ハインリヒ・ヴェルフリン(Heinrich W¨olfflin)
・「美術の歴史」H・ジャクソン&カウマン著 木村重信・辻成史訳 創元社 (1980/01)