今回紹介するのは、『NASU本』というナスの形がユニークなアートブックです。これは任天堂から独立したグラフィックデザイナーの前田高志さんがクラウドファンディングで資金を募り世に出したもので、独特の形は「為せば成る」(為す・成す)を意味しているのだとか。私は彼の著書「勝てるデザイン」を読んで本書の存在を知りました。今回入手できたので気づいたことや感想などをまとめていきます。
世界初のナスの形をした本がユニーク。確かに手に取って見たくなる。
本書の前半はデザイン作品のポートフォリオとなっている。
本書の構成は前半が彼の作品集、後半が彼のデザイン論考を兼ねており、前田さんの考えをまとめた後半のパートは、後に出る書籍「勝てるデザイン」の元になったエッセンスが凝縮された内容となっていて多くの気づきが得られます。
「自分にとっての当たり前が、だれかにとっての気づきになる」
自分にとって当たり前と思えることでも、他の人にとっては学びがあることがあるので、発信とアウトプットはとても大切であるとのこと。前田さんはブログで職業デザイナーとして発信していく中でいろんな交流が生まれたり、発見があったと言います。
「アートの力を借りて問題解決するのがデザインなのだ。」「デザインは問題解決する“動作”で、アートは良いデザインのための“手段”」
アートとデザインは混同しがちですが、デザインとアートを比較するのは意味がないとのこと。そもそもアートとデザインはまるで違うもので、いかに商品を訴求し、製作者のストーリーを伝えるのかであり、そのデザインの目的に叶うものとしてアートを利用している感覚にはなるほど、と思いました。デザインの中での魅力となるポイントがアートであることは間違いないのだけれど、デザインはクライアントと向き合い、その商品の内側のストーリーを表現してエンドユーザーに届ける役割があるのです。
デザイナーズマンションという言葉に見られるように、世の中にはデザイン=なんとなくおしゃれというイメージがありますが、世の中に出ているものは全てそれぞれの業界のデザイナーが設計したものだから、全てがデザイナーズ○○という指摘にも納得です。
目的や機能美を果たしてこそデザインの役割があるわけで、おしゃれさを優先し不便さを押し付けるのはデザインとしてどうなのだろうか?という問題提起もされていて、のちに出版される「勝てるデザイン」に通じる濃い内容が続きます。
どこか優しくて親しみやすいデザイン。
想像していた以上に後半の内容が刺さる内容だった。
本書の後半は前田さんのデザイン論なんだけど、かなり刺さる内容が多い。
ユニークなアートブックとして本書を紐解いていったわけですが、後半のデザインに関しての論考がなかなかに深く、数年後に一般書籍として本を出されるのも納得といった感じです。
個人的には主観的なセンスの問題として片付けられてしまいがちなデザインの良し悪しについての明確なヒントがもらえたのが大きいです。
本当に良いデザインは一瞬で伝わる。老若男女に良いと伝わる。Appleの製品のデザインを悪くいう人は見かけない。
誰もが一致する「良いデザイン」は確かに存在しているので、多くの良質なデザインを大量に吸収し、分析しどこが良かったのかを言語化してみることの重要性を実感します。
他にも印象に残ったテーマとして、
・ものづくりは伝える力であり、自分のことがわかっていないと良いものは作れないから、心の解像度を上げて自分への理解を深める話。
・固いデザインという概念の話(配置などが考え抜かれたこれ以上修正ができない、動かしようのないデザインのことを固いデザインと定義づけられています)。
・自分の中でのOKレベルを高めることで、より良い作品作りに妥協しない姿勢を磨く話。(そのためには、良いデザインをたくさん眺めて、考察して、どこが良かったのか分析し言語化することが必要)。
などなど、クリエイターにとっての大切な気づきが満載の本でした。
ナスの形で読みにくさはあるものの、背表紙は結構丈夫に作られていました。この本の形状自体が話題になっただろうと思いますし、ユニークさだけで終わらないデザインの本質に迫る論考など内容の濃さもあります。作っている側が本書の企画製作を楽しんでいることが伝わる、そんな一冊でした。
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