美術の教養を身に付けて絵画を見る目や自身のクリエイティブに役立てようという主旨の美術の時間。第5回目はフランス革命期、新古典主義以降の西洋美術史を流れを分かりやすくまとめました。19世紀の西洋美術史は色んな潮流が平行して存在しており込み入っているのが特徴です。
目次(Contents)
新古典主義ってなんだっけ?
ここで新古典主義のおさらいです。新古典主義はフランスの絶対王政末期、貴族趣味のロココ様式のアンチテーゼとしてフランス革命期に自身も革命に参加したダヴィッドが提唱しました。ナポレオンはローマ皇帝に倣い、自身を古代ローマ皇帝の再来として絵画の背景にローマ風の石柱やモチーフを描かせたりしました。新古典主義の特徴である画面に平行な設定や平面性を重視する姿勢はアングルに引き継がれていきます。
アングルに引き継がれた新古典主義と彼の生きたロマン主義全盛の時代
ドミニク・アングルは新古典主義の画家として活躍しましたが、アングルの生きた時代はロマン主義全盛の時代でした。そうした時代背景の中でアングルの新古典主義もロマン主義的な要素が入り交じってきています。異国趣味を取り入れた「トルコ風呂」のような作品が描かれました。
ロマン主義(ロマン派)はどういうものかというと、心の旅や情緒、異国趣味をテーマとしたものです。元々はバロックの系列ですが、時代は交易が盛んに行われ、世界がだんだん異国趣味に染まっていった時代。貿易で富が増え、西洋から見て東洋に世界が開かれていった時代です。ちなみにロマンという言葉は元々小説から取られています。
ロマン主義絵画とドラクロワ
ロマン主義のロマンとは小説(文学)から引き出したもの。これはどういうことかというと、物語のような世界を描くということです。ありのままの日常を描くのでは無いのですね。
アングルがアカデミー(画家組合)の新古典主義の流れであるならば、ロマン主義絵画はドラクロワが画壇の中心となりました。
アングルの古典主義とドラクロワのロマンチシズム、この両方を統合しようとしたのがギュスターヴ・モローやシャセリオーです。
そしてこれらのアンチテーゼとして絵画の近代化に繋がったクールベ、そしてモネに見られる印象派が出現します。
クールベによる絵画の近代化とモネら印象派の登場。過去を描くのでは無く今を描く!
ロマン派にしても新古典主義にしても、どちらもルネサンスの古典・古代を引きずっていました。古代ギリシャ・ローマ、ルネサンス、シェークスピア、ダンテに絵画のモチーフの元となるイメージを置いていました。
ここで登場したのがクールベです。彼は絵画の近代化の元の流れを作りました。というのも、彼は自分の目の前にある現実とその時代しか描かないとした(リアリズム)からです。ここから印象派というスタイルが登場してきます。
新しく出てきた印象派はロマン派に対抗軸を持ちました。クールベが出てきたことで今この時代、今の現在という同時代性を描く機運が生まれてきます。この同時代性を描くを一歩進めたのがモネたちの、自分たちのいる今この瞬間や時間、瞬間を描いた作品です。
モネは最後まで印象派で通しました。印象派はサロンに出品したモネの絵を指して名付けられたといいます。
印象派とリアリズム
印象派にはモネの他にもマネや初期のルノワール(途中から古典に傾倒していく)、シスレー、ピサロがいます。印象派にも色んな姿勢があり、完全な印象派はモネだと言われています(モネと似たような姿勢で描いたのがシスレーやピサロ)。
クールベはリアリズムの画家でした。リアリズムとは目の前のそのままを描くと言うこと。クールベのリアリズムがあって、マネがいてドガが出てきます。クールベは田舎育ちだったので田園風景を切り取り、ドガは都市風景をバレエの絵で切り取りました。マネも同時代を描き、一大スキャンダルとなった「草上の昼食」を描きます。
マネは現実の都会生活と絵画を同居させようと都会の公園に裸婦を描きましたが、下品であると批判を受けました。これに感化を受けたのがドガでした。
クールベの同時代のミレーは曾祖父世代の時代(50~60年前)を理想として描いた作品を残しています。
光とか時間、表現の意味での印象派はモネで、テーマの印象派(リアリズム)はマネであるとしたり、印象派は印象派でも微妙な区分があります。(マネとモネは名前は似ているものの、借金などで仲はそれほど良くなかったと言います。)
印象派を批判したセザンヌ。印象派のアンチテーゼとしての「プッサンに帰れ」
印象派は大衆に囚われすぎている、時代や現実といった対象そのものに全てが囚われていると主張したのがセザンヌです。セザンヌは描く側の造形性を重視しました。彼の言わんとするところは一言で言うと「プッサンに帰れ!」というもの。プッサンは新古典主義の理想とされた画家でもあります(その特徴は構成美にありましたね)。
19世紀の西洋美術は新古典主義があり、異国情緒のロマン主義、それらのアンチテーゼ(過去や古典ばかり描くことからの解放)としての印象派や目の前の現実そのままを描くリアリズムなど平行して錯綜しています。
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参考・出典
・「美術史の基礎概念―近世美術における様式発展の問題」ハインリヒ・ヴェルフリン(Heinrich W¨olfflin)
・「美術の歴史」H・ジャクソン&カウマン著 木村重信・辻成史訳 創元社 (1980/01)
・「絵画の見かた」ケネス・クラーク(Kenneth Clark)
・「芸術と文明」ケネス・クラーク(Kenneth Clark)
・他、それぞれの画家に関する参考書・書籍(Taschen出版社など)