続 デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 感情、ムード、ストーリーテリング【アート参考本レビュー】

本書は感情をテーマにしたデジタルペインティングの参考書です。複数人のアーティストが参加し、それぞれのやりかたを紹介しています。感情をテーマにしている割には表情や解剖学といった知識は無く、「それぞれのアーティストが感情をテーマに作品を作りする」その各の過程・アプローチを特集した本です。

◆書誌情報
「続 デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 感情、ムード、ストーリーテリング」
3DTotal.com (著), 高木 了 (編集), 株式会社スタジオリズ (翻訳)
ボーンデジタル 2017/9/23

内容の要点メモ

・共感を呼ぶストーリー作り。絵の中に物語を込める。
・最初にリファレンスをしっかりと集める。
・5000~7000ピクセルの大きなPhotoshopキャンパスから始める。(解像度は300dpi)
・色のコントラストで奥行きを出す。
・風景には黄金比を当てはめてみる。
・空気遠近法:遠くの物ほどコントラストが少なく、ディテールもぼかされている。
・人の視線を惹き付ける要素:ドラマチックなライティング、高いコントラスト、彩度、ディテールの密度。
・ソフトエッジとハードエッジを使い分ける。ハードエッジはコントラストが高く、注目を集める。ソフトエッジはそれほど注意をひかない。
・目が慣れてしまうのを防ぐため、時々カンバスを反転させる。長時間見ていると正しい絵と錯覚してしまう。
・できるだけ多くのアイデアスケッチを紙に書き出してみる。
・頭の中にカメラがあり、最も良い静止場面を探り回る感覚で構図を決める。
・インスピレーションの元は写真や書籍、インターネットでのリサーチに加えて古典作品。
・写真のコラージュで大胆にレイアウトを作ってみる。
・視線の流れを意識して構図に組み込む。
・色はムードを支配する。
・大幅に薄めた色を使う手法をグレージングという。
・映画や音楽、ゲームのインスピレーションの源。
・歴史物は詳細なリサーチが必須。
・ファンタジー世界を描くときの10%の原則。90%を現実に忠実に描き、10%は嘘をつく
・サムネイル作りの段階で多くの構図を試す。
・明度の設定では、必ず中間色から構築していく。
・絵から色を抜くのではなく、カラーパレットから色を抜く。混ぜた色はどうしてもくすんで濁っていくため。
・自分で描きながらストーリーを膨らませていく。
・煮詰まったら翌日まで寝かせる。
・アートは人間と自然環境の関係性を示す「窓」の役割を果たす。
・ストーリーは示唆するに留め、鑑賞者が解釈できる余地を残す。
・単純な幾何学図形で構図を構成してみる。
・構図や視線も物語を生む要素。
・細かなディテールが生命を吹き込む。
・視覚言語を吸収する。
・最後の10%の仕上げに最も時間が掛かることも。

気に入った作例ベスト3


ドラゴンと卵と冒険者:怒りがテーマ

 


犬と車と少女:ノスタルジーがテーマ

 


嫉妬をテーマにした蛇と女性

 

総評

網羅性   ★★☆
作品例   ★★☆
読みやすさ ★★☆
有益性   ★★
満足度   55%

本書のキャッチコピーは感情の具現化がテーマなのですが、一人のアーティストに一つの感情を扱うことを基本構成にしているので、作品や解説にムラがああります。多くの感情をテーマに扱っていますが、得られる知識も広く浅い印象でした。正直Pinterestやネットの画像検索で「恐怖」や「喜び」といったキーワードで作品をあさるか、古典的な作品を鑑賞するかした方が感情についてのテーマは深まると思います。

本書を読んで感じたのは、「感情」表現については自分で感じるがままに自由に描いても大丈夫なんだ、ということです。法則や決まり事もなく、これまで自分が生きてきた中で感じてきたことや、映画やゲーム、マンガといった作品で経験してきた視覚言語をそのまま表現することが正解だという感覚を得られました。この点はデザインの世界でのタイポグラフィ・書体選びと同じだなと感じます。素直に感情を表現していけばそれが自然な表現につながります。

テクニック的なものや、美術全体のスキル向上に繋がる知識を期待するのではなく、複数のいろんなアーティストによる作例とそのチュートリアルを覗くことが出来るのが本書の価値だと思いました。

 
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