美術の教養を身に付けて美術作品を見る目を養おう!という名目で始めた【美術の時間】シリーズ。第1回は美術における古典主義についてまとめました。第2回となる今回は、そもそもいつ美術史が誕生したのか?について見ていき、バロック様式とされるカラヴァッジョという画家の作品は一体どこがバロック様式なのかについて見ていきます。
目次(Contents)
美術史っていつ生まれたの?
そもそも美術史がいつ誕生したのでしょうか?有力なのが19世紀末、 ハインリヒ・ヴェルフリン(Heinrich W¨olfflin)という人が「美術史の基礎概念―近世美術における様式発展の問題」という本を著した事が大きいとされます。
彼はこの本の中で、美術史を古典主義VSバロックの対立として捉え、交互にせめぎ合ってきたとしました。両者ともギリシャ・ローマの美術を元にしているのですが、バロックという区切りを設け、カテゴリーを作った訳です。美術史が出来る以前は画家はそれぞれ孤立しており、それぞれの価値で生きてきました。美術史の流れや系譜が作られたのが19世紀末で、これ以降美術作品はどの流れに属しているかで評価されるようになりました。
ヴェルフリン自身は本の中でルネサンス様式(古典主義)とバロック様式をそれぞれポリフォニー的、シンフォニー的と分類しました。
古典主義とバロック様式おさらい
ここで一度古典主義とバロック様式についておさらいしましょう。
古典主義は線で書かれたものをなぞる美しさを強調するのに対して、バロックは空間的で空間が深いものを良しとします。
古典主義の代表的なのがラファエロで、静的で調和的なのが特徴で、ポリフォニー的であるとされました。一方でバロックの画家としてはルーベンスや今回取り上げるカラヴァッジョで、劇的で動的な躍動感のある画面が特徴です。
ラファエロなどルネッサンス前期の古典主義はポリフォニー的
ルネッサンス絵画の前期はポリフォニー的であり、個々の事柄がそれぞれ同じ比重で描かれています。例えば画面の中にマリア様がいれば聖人もいて、民衆もいてそれぞれ同じ比重で描かれます。絵が持つ物語の展開の中でそれぞれの比重をもって描かれていったのがポリフォニー的とされる古典主義(ラファエロ系)の特徴です。前期のルネッサンス絵画においてはマリアはマリアとしてあり、マリアを取り囲む人物もあり、群衆には群衆のグループがあって、どれかに絞らないのです(合理的で抑制された作風と言われることも)。
ルーベンスなどのバロック様式は一つにまとめ上げられていくシンフォニー的
一方で、バロックはシンフォニー的であるとされました。
バロックは全体の画面効果として一つに要素がまとめ上げられ、統一されていきます。例えばマリアに焦点を合わせるときは民衆は脇役に小さく配置します。逆に民衆の驚きを大きく伝えたいときは民衆のざわめきを大きく描き、マリアは遠くで小さく威光を放っているという風に描かれます。
バロックはシンフォニーのように統一する事が重視されます。構図によって、色彩によって、光によって、空間によって画面を統一することによる美しさを持つのがバロックです。
カラヴァッジョは光で画面を統一したからバロック様式
バロックは一つの主役や画面効果を統一する事を目指します。というわけで、明暗を強く打ち出す画家カラヴァッジョの作品は光で画面を統一したからバロック様式であるとされます。
逆に言えば、バロックは伝える事を単純化したのです。これまでは色んな知識を持つ貴族階級しか嗜めなかった絵画が、バロックにより一般の人にも分かりやすく広められました。ラファエロなどの古典主義はある程度の知識や教養が無いとどのシーンを描いているのか分かりにくいもの。一方でバロックは一つの明確な主役や伝えたいことがあります。大衆にとってバロック絵画は分かりやすいものでした。
シンフォニーのバロックとポリフォニーのラファエロの古典主義、どちらが上とか言うものではありませんが、こうした違いが分かると今度美術館に行ったときに作品を見る目が違ってきますよね。
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参考・出典
・「美術史の基礎概念―近世美術における様式発展の問題」ハインリヒ・ヴェルフリン(Heinrich W¨olfflin)
・ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ(Wikipedia)
・ラファエロ・サンティ(Wikipedia)
・ピーテル・パウル・ルーベンス(Wikipedia)