【美術の時間4】フランス革命前後の美術史を分かりやすく。ロココの終わりと新古典主義の到来

ジャック=ルイ・ダヴィッド「ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠」Joséphine kneels before Napoléon during his coronation at Notre Dame. Behind him sits pope Pius VII.

ジャック=ルイ・ダヴィッド「ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠」Joséphine kneels before Napoléon during his coronation at Notre Dame. Behind him sits pope Pius VII. フランス, パリ, ルーヴル美術館

美術の教養を身に付けて絵画を見る目とクリエイティブへのヒントにしようという美術の時間。第4回目は各地のバロックの流れをくむ貴族趣味のロココ様式打倒貴族を掲げたフランス革命前後の美術史です。ローマ時代への回帰である新古典主義が出てくるのが特徴です。

フランス革命に至る前:貴族の嗜みとしてのロココ美術は貴族のファンタジー(虚構)だった

ロココ期の作品 ジャン・オノレ・フラゴナール 「ぶらんこ」ウォレス・コレクション(ロンドン)蔵

ロココ期の作品 ジャン・オノレ・フラゴナール 「ぶらんこ」ウォレス・コレクション(ロンドン)蔵

フランス革命に至るロココ末期、マリーアントワネットが援助していた画家達がロココを代表する画家でした。ロココの元となったバロックはリアリズム、言い換えれば直接見る人に訴えかける内容を持っていましたが、ロココはファンタジーを描きました

ロココのファンタジーとは、今で言うアメリカのハリウッドセレブ生活のようなもので、普通の人の生活には取り入れられない、貴族の気持ちを反映した虚構でした。ロココ美術が花開いた時代は富裕層が確定し、その人達の富が保存されて代々遺産相続されていく社会でした。なんの業績を上げなくても遺産として大金が転がり込み富が固定化された時代、お金を持つ者はいつまでも富める者でしたが、貧しい市民は食べられず餓死していくような時代でした。

マリーアントワネットの「パンが無ければブリオッシュ(ケーキ)を食べればいいじゃない。」の発言に見られる貴族の閉鎖的な時代において、ロココ美術は貴族が想像した庶民の生活を見るためのものでした。

この時代の庶民的な画家としてジャン=バティスト・グルーズがいました。彼は下町の情緒をテーマにした絵画を多く残しています。

ロココ時代において庶民の暮らしを描いたジャン=バティスト・グルーズ 「村の花嫁」(1761)ルーヴル美術館蔵

ロココ時代において庶民の暮らしを描いたジャン=バティスト・グルーズ 「村の花嫁」(1761)ルーヴル美術館蔵

マリーアントワネットはパストラル(田園風)を好み、ベルサイユ宮殿に羊飼いの小屋を作ったりしてみんなで仮装してパーティーをして愉しんでいたと言います。そうした貴族を批判したのがフランス革命でした。

市民革命:旗印としての新古典主義。ナポレオンはローマの皇帝に倣った。

ロココの根底にあるのは庶民の暮らしを描いた町人文化でしたが、貴族趣味になっていました。

時代は貿易で船主がお金を得ていくように、新しい層が新興勢力として勢いづいてきました。こうした貴族の虚構を映したロココ美術は人々の本当の苦しみを描かない、俺たちの苦しみを映していない!と感じる人も出てきました。

こうして富裕層が市民とかけ離れてしまった結果、フランス革命が起こると革命の絵画というものが出てきます。

例えばテオドール・ジェリコー死の恐怖に立ち向かった人々を描きました。徹底したリアリズム描写で感情を掻き立てます。彼はジャーナリスティックなネタ、時事ネタを題材にしました。ジェリコーのこうした要素は後にドラクロワに引き継がれます。

フランス革命期の画家テオドール・ジェリコーの「メデューズ号の筏」ルーブル美術館、パリ

フランス革命期の画家テオドール・ジェリコーの「メデューズ号の筏」ルーブル美術館、パリ

特に革命の画家で新古典主義を提唱したのがジャック=ルイ・ダヴィッドです。彼はフランス革命にも参加しており、ナポレオンの戴冠式を描いた画家です。ナポレオンはローマ時代の皇帝に倣い、美術もローマ時代の美術を理想とする古典主義を持ってこようとしました。その結果として新古典主義の絵画はローマ時代のモチーフが使われ、ローマ時代の宮殿を背景にした現代の絵が描かれていきます。

新古典主義の画家ジャック=ルイ・ダヴィッドの「ホラティウス兄弟の誓い」1784年 275x203cm ルーヴル美術館

新古典主義の画家ジャック=ルイ・ダヴィッドの「ホラティウス兄弟の誓い」1784年 275x203cm ルーヴル美術館

ナポレオンはローマ皇帝の再来として自らを権威づけしようとしたわけです。

バロックもロココも新古典主義もそれぞれ平行して存在している

フランス革命によって貴族は打倒されましたが、ロココ美術自体はフランス美術の底流として流れ続けています。ロココ美術というアートが否定されたのでは無く、それを支えている貴族体制が否定されたから、アート自体には罪は無いわけですね。一例としてルノワールは10代の頃陶器の絵付け職人として絵画を始めましたが、修業時代にロココ時代の絵画の模写をしていたといいます。

新古典主義の理想となったニコラ・プッサンの作品「アルカディアの牧人たち」1638 - 1640頃ルーヴル美術館

新古典主義の理想となったニコラ・プッサンの作品「アルカディアの牧人たち」1638 – 1640頃ルーヴル美術館


新古典主義のほうでは、理想としてニコラ・プッサンが選ばれました。これは新古典主義の方が教育などにも展開しやすいという理由もあります。バロックのルーベンスは彼の超絶技巧に依存していた側面がありましたが、プッサンは構成力で勝負しています。技巧自体はそれほど冴えたものでは無いものの、緻密に構成してあります。これは方程式が分かれば誰でも出来るということにも繋がり、教育に新古典主義を持ってきたのは当然の流れとも言えます。

美術のスタイルの流れは常に同時並行で続いています。古典主義もバロックも、バロックを元にしたロココもどっちに価値があるのかという問題では無く、どちらにもその良さがあります

このフランス革命の後に「民衆を導く自由の女神」で有名なジェリコーの流れをくむドラクロワや、ダヴィッドや新古典主義のアカデミーの流れを引き継いだアングルが登場します。それについてはまた別の機会にまとめます。

参考・出典

・「美術史の基礎概念―近世美術における様式発展の問題」ハインリヒ・ヴェルフリン(Heinrich W¨olfflin)
・「美術の歴史」H・ジャクソン&カウマン著 木村重信・辻成史訳 創元社 (1980/01)
・「絵画の見かた」ケネス・クラーク(Kenneth Clark)
・「芸術と文明」ケネス・クラーク(Kenneth Clark)

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