【書評】ブッダの脳: 心と脳を変え人生を変える実践的瞑想の科学 心と体の変化のメカニズムを仔細に記述した一冊

【書評】ブッダの脳: 心と脳を変え人生を変える実践的瞑想の科学 心と体の変化のメカニズムを仔細に記述した一冊

刺激や誘惑が多い現代では集中力や注意力がどんどん奪われていきます。本来するべきことに集中できず、情報やニュースに惑わされ、やるべきことに立ち向かえない…この現状をどうにかしようとしている中、私はマインドフルネスという概念と出会いました。マインドフルネスとは自分が今どこに注意を向けているのかに気づき、その注意の方向を意識し、受け入れ、コントロールする能力のこと。そのマインドフルネスについての知識を集めていく中で、そのアイデアの源泉となった仏教の瞑想にたどり着き、出会ったのが本書です。本書は瞑想をしている時の脳の状態は一体どうなっているのか?を科学的に説明しているのが特徴で、今回も本書を読んだ中で得た気づきや学んだことを自分なりにまとめていきたいと思います。

心の中で起こったことは実際に脳自体を変えていく

私たちが普段感じていること、意識していること、何に注意を向け、どんな思考をしているのかといったことは、実際に脳自体を変えていく…これが私が本書を読了して一番印象に残ったことでした。

昨今ビジネス書でマインドフルネスが注目され、注意力や集中力を鍛えるにはマインドフルネスを鍛える瞑想が良いのは間違い無いのですが、ただ「瞑想をしろ、呼吸に注意を向けろ」と言われてもなかなかできるものではありません。それは瞑想を実践している時に心身にどのような変化が起こっているのかが不透明で実感できないのが一番の原因だと私は思っています。

本書では瞑想を実践している時の脳の変化を具体的にこれでもかっと説明しているので、どのような変化が起きているのか読者に分かるようになっています。この「自分が今していることが実際にどう影響を及ぼしているのか」を知ることが前に進んでいる感覚を生み、瞑想を実践するモチベーションを高めてくれます。これが本書を読むことによる一番のメリットでしょう。

「自己」が苦しみを生み出す。自己を希薄化するほど幸福になれる。

苦しみの源泉は「自己」であり、自己があるからこそ誰かから言われた批判や自分の失敗を振り返って自分を苦しませてしまう。仏教でいう「第二の矢」の概念を用いて、「自己」が自分を苦しめるメカニズムが印象に残りました。

自分にとって傷つくような不都合な事実は生きている以上、必ず起こります。しかし、いつまでもそれに執着し、囚われ反芻するのは「自己」が原因です。

私たちが「自己」と読んでいるものは、進化と生存の過程で作られた適応システムでしかなく、実際には存在していないことが解き明かされていきます。これは瞑想を実践し、呼吸に意識を向け続けることで気づくことができるものの一つであり、瞑想の実践を積んで「自己」という意識が希薄になっても、呼吸を続けているし、生命活動は維持できているという事実を体感することで理解できるものです。

この「自己」にとらわれないことの重要性は心理療法ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の「脱フュージョン」、以前読んだサイエンスライター鈴木祐さんの『無(最高の状態)』の内容にも通じるものです。

科学的に「瞑想」という状態を説明する試み

科学的に神経科学や心理学の知見を用いて仏教の教え・瞑想の有効性を説明しようとしたのが本書です。ふわっとした教えでは納得できず、もっと理詰めで因果関係を知らないとモヤモヤするっていう人には特に向いていると思います。

科学的に説明しようとするあまり、とっつきにくく冗長な部分もあるものの、脳の変化と成長のメカニズムを知り、よりよく人生を生きていくためのアドバイスが詰まった一冊です。

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