人の心に刺さる欲求とは。「シュガーマンのマーケティング30の法則」まとめと要約【書評】

シュガーマンのマーケティング30の法則 書評

人の購買心理について幅広く学べる「シュガーマンのマーケティング30の法則」を読みました。実践的で分かりやすいストーリーでセールスの分野で活用できる心理学についての知識を深めることが出来ます。著者のジョセフ・シュガーマン(Joseph Sugarman)はサングラスを世界で2000万本売ったというアメリカの伝説のマーケッター。売り込みの技術はセールス以外にも幅広い分野で応用できます。本記事では本書から学んだ人の購買行動についての心理トリガーについてまとめました。

1.一貫性の原理。

一貫性の原理
一貫性の原理とは、人は一旦意思決定を行うと、その判断を固守しようとする心理傾向のことです。一旦買うと決めると人はその決定に沿った行動をとろうとします。車や家などの高額な買い物で「ついで買い」であれこれと不要なオプション類を追加注文してしまうのはこの心理が働いています。

ソーシャルゲームの分野では無課金だったのに、ある時、一度でも課金してしまったらとめどなく課金してしまうケースがこれに当たるでしょう。無課金という一貫性が外れたため、以前よりも課金に抵抗がなくなってしまうのです。

最初の購入決定までの心理的な壁が一番高いので、一番最初の購買ステップをいかにシンプルで簡単なものにするかが重要となります。少額でも相手に一旦「買おう」と思わせてしまえば、後から容易に追加注文で利益を取ることが出来ます。

2.商品の特性やアピールポイントを理解する。

商品のアピールポイント
どんな商品にも「個性」と「特徴」があります。その商品の「特性」から、どんな人がその商品を必要とするのか、顧客との接点を見つけていきます。商品について勉強することは最重要となります。「接点」は既に自分の中に持っていて、新たに外部の情報から見つけるのではありません。自分の人生経験や常識からいろいろな想像を膨らませてみましょう。商品の特性を知り、その特性とピンポイントで合う顧客との接点を見つけていきましょう。

3.顧客の感情を知り、特徴を知る。

顧客の特性を知る
商品を買って貰うには、顧客の感情に働きかけることが重要です。そのためには、商品の特徴と顧客の特徴との関連性を探りましょう。この商品をお客はどのような感情で扱うのか、どのようなストーリーの中でユーザーは使うのか。そして消費者はどんな体験を得るのか考えてみましょう。お客の感情を知り、お客の過去を知り、ストーリーを知ること。お客に関しての情報を集め、商品を求める感情的、合理的理由を探ることが重要です。

4.欠点を隠さずハッキリと伝える。

欠点を隠さない
欠点を隠さない事、くさいものには蓋をしないことが重要です。真っ先に欠点を伝えましょう。後からその商品の長所をアピールし、先に挙げた欠点を打ち消すようにすれば良いのです。その商品に対してどんなケチが付けられるのかを予想し、先にそれを伝えてしまいましょう。売ろうとしている商品に欠点があるのなら、隠し通せることはほとんどありません。どんなに微細な欠点も客にはばれてしまうものだと考えます。先に欠点を伝えれば相手の警戒心を解くことが出来ます

5.欠点を克服する

欠点を埋め合わせる要素を入れる
欠点を最初に伝える事で警戒心を解くことが出来ますが、その欠点をどう埋め合わせるかを提示する必要もあります。欠点を伝えたことによるお客の抵抗感に訴求していきます。

お客の心の抵抗感、消費者の頭に浮かぶ懸念に対処するには、ピンチ(欠点)をチャンスに変えていく視点が必要です。問題に遭遇したときに真っ先に考えるべきことは「チャンスは埋まっていないか?」ということ。失敗や欠点を乗り越える事が出来たら何も無い時よりも自信や信頼性は一層高くなります。

本書の全体の中でも著者のシュガーマンがサングラスのTVセールスの生放送中に遭遇したトラブルを乗り越えた箇所はかなりの見せ場です。

6.客を巻き込む。体験をさせる。

体験させるコピーを
コピーを書くときは、客がその商品を実際に使っている所を想像できるようにしましょう。読んでいる人に空想体験をもたらすことが出来れば効果的です。人に売り込むときも、相手が既にその商品をあたかも持っていて、使っているようなオーナーシップ体験を想像させることが出来ればより良いでしょう。実際に所持しているように相手に感じさせるには、「手触り」「嗅覚」「視覚」など感覚に訴えるような言葉を使うと効果的です。

7.誠実さは有言実行から生まれる。

言行一致
考え、言葉、行動を一致させましょう。例えば高級なものを売りたいのであればジーンズ姿で売り込まないことです。洋食レストランでは中華姿のコックはいません。

8.物語の力を活かす

ストーリーを持たせる
人はストーリーによって動かされます。人はみんな物語が好きで、幼少の頃から慣れ親しんでいます。物語の力で好奇心を持たせて広告コピーを読ませ、購買行動につなげていきましょう。そのためには商品に関してのエピソードをつける訓練をすることです。ストーリーテリングは一つの技で、練習を積むことで誰でも上達します。物語は人間味を与え、人と商品を結び付ける役割があります。その商品を使っているシーンから物語を作り出してみましょう。

9.権威づけをする。専門領域を持つ。

権威づけ
人は誰でも自分の買い物に対する確信が欲しいし、買い物で失敗したくないので、その道の専門家から買いたいと思っています。何でも良いので、肩書きや権威づけを行いましょう。どれか一つの分かりやすいアピールポイント、訴求できる点を持たせます。社名だけで立派な権威を築けることもあります。高価なものほど人は「確証」を求めます。買う人に買ったことに自信を持たせられるようにしましょう。セールスをする時はその商品の知識を増やして主体的に「信頼感」を高めていきましょう。

権威づけの身近な例では厚生労働省のお墨付きと歌う「特保」や食料品の「モンドセレクション」でしょうか。

10.比較によってお買い得感を出す。

比較によってお値打ち感を出す
人は得をしたい、できる限り安く買いたい欲求を強く持ちます。そのため人は現実を見ずにお買い得感だけで買い物をしてしまうことがあります。最初に高額商品を提示しておけば、後から安い商品を見せたときにお買い得!と思ってしまいます。この格安だと感じていた商品も、もし最初に提示されていたら高いと感じられたかもしれません。しかし、購買心理として私たちは最初に提示された高額商品よりも安いという「お値打ち感、お買い得感」で買ってしまいます。自分が使う場合は類似商品と比較し、なぜ「お値打ち」なのかをちゃんと理由付け出来るようにしましょう。

例)
・敢えてデラックス版を用意しておき、標準版を割安に思わせる。
・うなぎの松竹梅。
・レクサスやクラウンなど車種のグレードの中の上位車種と下位車種の比較

11.感覚に訴える。

人は感覚で買い、論理で納得する生き物
人は感覚で買い、買った後に理屈で正当化して納得する生き物です。最大の購買動機は感覚にあります。いくら理屈でデータで訴えても人の心には響きません。商品特性と顧客特性との関係を見極め、どういう場面やストーリーが思い描けるかがここで生きてきます。その商品の感覚的魅力は何かを見定めましょう。言葉が持つ感覚的な印象を使って五感に訴えましょう。この能力を鍛えるには小説や文学作品などを読むことが良いと思います。

12.理屈や論理で正当化できるように。

理屈で正当化できるか
誰だって買い物を後悔したくないもの。人は感情で購入しますが、「本当に後悔しないかな?」と後から後悔しない為には納得出来る理屈が必要です。買う理由や動機を論理で説明できるよう手助けしましょう。

買いたいと思う衝動に躊躇するのは、それが良い買い物であることを保証するだけの正当な理由が不十分だからです。身近にある、「買わないと悪い気がする」とこちらに思わせる広告を探してみましょう。買い物を納得させるための理由付けは価格が高ければ高いほど必要になります

13.「安く買いたい」という強欲さにつけ込む。

安く買いたい強欲さ
これは価格を下げることで人が持つ「安く買いたい」「得をしたい」という欲求に訴求するものです。わざと定価を高く設定して80%オフ、とか宣伝するあれですね。見かけの価格を大きく提示して、割安感を演出しています。ただ、このテクニックを使う場合は安くなった正当な理由があったほうがより良いとのこと。

価格が安ければ売り込む努力は不要となります「安さ」という感覚だけで売れるからです。お客が想定した以上の「お買い得感」を出せれば、あとはお客の強欲さに任せるだけで勝手に売れていきます。

14.信頼性・信憑性を担保する

信頼感
信頼感、信用感はとても重要です。専門家や著名人の意見、大都市や会社名などが大きく購買行動に影響します。聴くに値する、信用できると思わせられるかどうか。専門感を出すには、ちょっとした専門的な説明を挟むことです。こうすることで買っても間違いは無い、良い商品のはずだと納得感を出すことができます。確かな商品を買っているのだという自信を客に与えるためです。

15.満足度の確約

満足度100パーセント保障
「満足して頂けなかったら全額返金してください!というものです。お客の予想を超える売り手の情熱を感じさせるこの方法はとても効果的とのこと。商品に自信ないと出来ないこの手法は購買反応を倍増させたとか。実際私も通販で「30日間使用済みでも全額返金保障!」が決め手となり購入したことが何度もあるのでかなり納得できます。

16.流行や周知のことと商品を結び付けるリンキングテクニック。

周知のことと関連づける
消費者が既に知っている周知の事と商品を結び付けることです。身近なものや慣れ親しんでいるものと商品との関連性を指摘することで、実際に使っている時のイメージやストーリーが思い描きやすくなり、商品に親しみが持てるようになります。

17.帰属欲求に働きかける

帰属欲求に働きかける
これは特定のブランド品によく見られる強力な心理トリガーのことです。人は商品を買うとき、無意識にその商品が持つイメージの仲間入りをしたい、という帰属欲求の感情が働いています。ベンツを買うのであればベンツを買うような人の仲間入りがしたいという心理があるのです。

お客があるブランド品を買いたいのであれば、そのブランド品を既に買って使っている客層のイメージがお客の求める「なりたい自分の理想像」となります。昔はタバコやお酒は大人の象徴として「カッコイイ」というイメージで宣伝されていたそうです。商品が持っているイメージとお客の求めるイメージがマッチするか検討してみましょう。

18.収集欲求

収集欲求
人には無意識にコレクター欲求の衝動が刷り込まれています。何かを集めたい衝動です。創刊号を極めて安くし、全部集めると一つの製品が完成するような雑誌形態がまさにこれでしょう。昔「世界遺産」という雑誌がありましたが、当時の私は子供だったのにもかかわらず全巻揃えようと躍起になっていましたよ。こういう全巻揃えて完成させる系のものはどれかが欠けると気持ち悪いんですよね…。

19.切迫感

切迫感
人は何かを失うことに関して敏感です。特に大切なものを失う時ほど「切迫感」を感じるように出来ています。購買を先延ばしにさせないためには「切迫感」が必要となります。「今を逃すとこの商品はもう手に入らない」などですね。今すぐに買った方が良い理由と合わせて使います。あまりやり過ぎると不信感を持たせるので、奥の手として使いましょう。

20.限定品、希少価値、特別感

人は限定品に弱い
人間はわずかな人しか所有し、堪能できない商品を保有するレアなグループに入りたいという欲求があります。限定品、希少品、オリジナル品などに弱い人は多いと思います。スマホゲームのガチャとかで貴重な最高レアのキャラやアイテムを所有する事による特別感など当てはまりますね。限定グッズ、記念硬貨など、わざと生産数を少なくして希少価値を出しているものも多いです。全てはお客に自分が特別だと思わせることが狙いです。

21.単純明快の力

シンプルでわかりやすくが重要
難解な言葉の裏には自分をよく見せたいと人を見下す心理があります。本書では何事も複雑にしてしまう人はセールスには向いていないとまで言っています。

必要な要素だけ伝え、余計なものはそぎ落としましょう。セールスの現場ではシンプルで単純明快なものが好まれます。例えばたくさんの商品を並べることは複雑さにつながります。本書でもシンプルに品数を減らしてお客に大量の選択肢を与えないことでどれを選べば良いのかの混乱を予防する例が挙げられています(以前当ブログでも選択肢が多いほど選べなくなる心理の記事を扱いました)。シンプルで分かりやすいもの、考えなくても直感的に分かるものが重要です。

22.罪悪感。何かを貰ったらお返しをしなくてはの心理に訴求する。

ギブアントテイク 罪悪感
人には何かを与えて貰ったら、無意識にお返しをしたくなるギブアントテイクの心理が根付いています(サイコパスで無い限り)。タダで無料体験させる、まずは無料で与えることで顧客は何か買ってあげないといけない気持ちになります。コンビニで何も買わずにトイレを借りるのはどこか申し訳ないと思うあの心理です。事業主としては、顧客の期待を上回る何か大きなサービスを最初に与える事が出来ればより効果的です。

23.具体的・詳細に説明する

詳細に説明する
商品の説明が具体的であればあるほど説得力を持ちます。具体的なデータと数値、コメントを付けるようにしましょう。ただ、複雑にならず、論理ではなく感情に訴えるように。数値やデータは専門的な感覚を付け加えるのにも役立ちます。

24.親近感

親近感
人はなじみのある慣れ親しんでいるものに弱いです。何かを買うときや相談するときも自分の知っている人、親しんでいる人から情報を求めようとします。人やブランド、会社やロゴになじみがあればあるほど良いでしょう。宣伝の繰り返しで何度も人々の目につくようにするのも効果的です。

25.パターンニング&うまくいっている先人から学ぶ

うまくいっている人のマネをする
パターンニングとは相手の動作と同じ行動を取ることです。相手がコーヒーを飲むのであれば自分も飲む。相手の服装がカジュアルなら相手に合わせて服装を崩していくといった感じでテクニックの側面が強いです。また、自分が売り込みたい分野でうまくいっている先人達がどのようなアプローチをしているのかを研究し、マネをしてみることで多くを学べるといいます。

26.期待感

期待
何かを買うとき、その背後には期待があります。買う商品に夢と希望を抱いているから人はそれを買うのです。分かりやすい期待感の一例としては射幸心を煽る宝くじやギャンブル、スマホゲームのガチャなどがありますが、栄養食品や美容の分野でも効果を期待して買い続けている人は多く居ます。期待感はありとあらゆる分野で使われている心理トリガーです。

27.好奇心

好奇心
冒頭に好奇心の種をまくことで、客の注意を持続し続けることができます。説明のしすぎや見せすぎは良くないのです。少し謎を残しておく事で、この商品を使うとどういう事が起こるのだろう?自分で体験するとどうなるのだろう?という好奇心を刺激しましょう。

28.市場とのマッチングを考慮する

最初は市場のニーズに従う
パッと出のひとりよがりの製品は売れないものです。自分で苦労して発明した商品ほど高く見積もってしまうので、冷静に顧客の心理と向き合い、実際に市場のニーズとマッチングしているのかを考慮しましょう。客観的な目を持てるかどうかが重要です。

29.考えさせる力で引き込む

考えさせる文章
ちょっと立ち止まって考えさせられるような内容のコピーを考えてみましょう。あまりにも分かりやすい直接訴えるコピーでは単純でつまらないと多くの人は感じます。ちょっと曖昧に直接的な表現を控え、文章の背後に真に訴えたいことを明確に伝える、という伝え方が効果的です。飽きないコピーとは何かを研究してみましょう。

30.正直さ

正直さに勝るものは無い
最後は「正直さ」です。「正直さ」は広告や販売で最も影響力がある要素だといいます。お客は賢く、不誠実さや嘘を簡単に見破ります。無防備なまでの正直さでいることで最終的には信頼を掴むことが出来ます。

まとめ・書評

満足度は95%。帯の宣伝文句に偽りなし!分かりやすく読みやすい格好のマーケティング心理の名著ですね。これだけ情報量があるのに2000円もしないのだから凄い。唯一難点をあげるとすれば、目次から本書で扱う心理トリガーの内容が分からないので復習しづらいことぐらいでしょうか。

ストーリー形式なのでとても読みやすく、一つ一つが印象に残るのが良いですね。お話も面白いです。私も読んでいてつい笑ってしまう箇所がいくつかありました。

使える心理学を学びたい人、マーケティングやセールスの仕事に就いている人には必読の書でしょう。心理戦であり、情報戦でもある販売の心得を修得すれば、相手が何を求めているのか洞察する力が身に付き、就活やお願い事、交渉の場面などで有利に働くことは間違いありません。

ちょっとした言葉の使い方や言い回し、理由付けで判断や行動が変わってしまう。人間って本当に面白い。だから私は心理学が好きなんだよなぁ。

■原著:Triggers: 30 Sales Tools You Can Use to Control the Mind of Your Prospect to Motivate, Influence, and Persuade. (English Edition) *Kindle版が安い

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