スティルライフは池澤夏樹さんの小説で、現代の競争社会に疲れた時に読むと心が落ち着くとの評判を知り、読んでみました。ストーリーを追うというよりかは独特な透明感のある文章自体を楽しむのに向いています。
文庫にはスティルライフとヤー・チャイカの二本立て
文庫には短編2本が入っていて、前半にスティルライフと後半にヤー・チャイカが収録されています。
スティルライフは第98回芥川賞受賞作で、中央公論新人賞も受賞しています。1991年出版。
スティルライフの内容は著者公式ページの文章が一番ビビッとくるので引用させていただきますと、
「大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。たとえば、星を見るとかして。」
ある日、ぼくの前に佐々井が現れてから、ぼくの世界を見る視線が変わって行った——。
佐々井という人物と「ぼく」との対比で物語が進んでいきます。
でも、ストーリーを追うというよりは淡々と情景を脳内にイメージしていく感じといいますか。文章の描写で読者自身が不思議なところに連れていかれる感覚があります。主観的な世界と客観的な世界がごちゃ混ぜになり、どこか俯瞰して自分を見るような高い場所に登っていくような感じ…。
著者の言葉の巧みさ、表現の透明さがあり、とてもあっさりとした文章です。
後半のヤー・チャイカもスティルライフと同様に起承転結とかストーリーの起伏はなく、ちょっぴりファンタジーも入りつつも、文体や文章に味わいがある感じです。
スティルライフは株取引、ヤー・チャイカはロシアと宇宙飛行士、恐龍を扱っていますが、どちらも物語性は影を潜め、淡白な文章で日常風景を客観的に淡々と描いています。
文章の芸術さは感じられるけれど、物語として引き込まれるかというと私はあまり入れませんでしたね。
私は池澤さんの作品を読むのは初めてですが、村上春樹が好きな人ならハマれる感じがしますが、刺激が少ない淡白な文章なので向き不向きがはっきり分かれる作品だと思いました。文章が織りなす空気感を味わう作品。刺激が多い現代社会だからこそ、こうした薄味の文章に癒やされる人が多いのかもしれません。