【書評】「やり抜く力 GRIT(グリット)」やり遂げる人に共通する粘り強く、情熱を持つことの大切さ。才能よりも継続出来る努力についての考察。

【書評】「やり抜く力 GRIT(グリット)」やり遂げる人に共通する粘り強く、情熱を持つことの大切さ。才能と努力についての考察。
成功者に共通しているのは「才能」ではなく「やり遂げる力」である。やり抜く力 GRIT(グリット)」アンジェラ・ダックワース(著)を読了したので、思った事や考えた事をまとめます。

GRIT(グリット)とは?障害や挫折を乗り越え継続して物事に取り組む力

本書のテーマであるGRIT(グリット)とは、情熱粘り強さの二つからなる困難や障害に負けずに一つの事をやり遂げる力のことです。才能のせいにせず、努力を継続する姿勢こそが成功を掴むために必要な資質であることが一貫して主張されています。
(*Gritは英単語で困難にあってもくじけない気概、闘志という意味がある。)

本書の前半は才能と努力のどちらが大切か?というテーマが扱われており、才能があると認められた人でも継続して努力を続けている人には叶わないというエピソードが紹介されています。

内容としてはマインドセットの「やれば出来る」で有名なキャロル・S・ドゥエック博士の研究と似ている点があり、努力の大切さと継続して物事に取り組む姿勢を賞賛しています。

■関連
【書評と要約】「やれば出来る」の研究「マインドセット MINDSET」キャロル・S・ドゥエック(著) 自分の変化と可能性を信じる力とは

才能と努力が合わさりスキルとなり、スキルは努力をすることで更に磨かれる

才能も必要ですが開花させる為には努力が欠かせません。そしてスキルとして開花した才能は努力をすることで更に大きく伸ばすことができます。

粘り強く努力する素質情熱別のものであり、長く一つの事に取り組めるけれどその対象への興味を失う(飽きてしまう)ことや、情熱はあっても取り組んでみたら努力が長続きしなかったパターンなど両者は別の性質として考えられています。

そのため、情熱を注げて粘り強くトライし続けられる対象を見つけることが「何かを成し遂げる」には欠かせません。

時間では無く、努力の質が重要

がむしゃらに努力すれば良いのではなく、意図的に目的を持って努力をすることが重要です。不足点や改善したい点を意識しながら弱点を克服し、得意を伸ばすように意識して練習します。

・自分の実力よりも少し背伸びをした目標を設定する。
・意識的にこの課題から何を学び成長しているのかを感じ取ってみる。
・意図的な練習は一日3~5時間が限界。
・少し苦しい経験を挟むと成長する。“楽だと感じている時の練習”はあまり成長できていない。
・苦しい中にもどこかに楽しさがある。興味を持てるかどうか。
・定義された明確な目標、有益なフィードバック、集中と努力、反省と改良。
・取り組む目標が「誰かのためになっている、社会の役に立っている」実感を持てるとかなり効果的。

ミハイチクセントミハイのフロー体験と意図的な練習は別の概念ですが、「やり抜く人」の多くがフロー体験を頻繁に感じているそうです。

■関連
フロー体験とは何か 人生の幸福はいかに熱中、没頭状態を作れるか ミハイ・チクセントミハイ フロー状態の作り方 入り方 条件と燃え尽きについて

どうすればやり抜く力が実践できるのか考察してみる。

以下、グリットを実践するためにどうすれば良いのか考えてみます。

・興味の持ったことは手当たり次第に試して見る。作業興奮の原理で、情熱は時間や労力を注ぐほど高まる性質がある。
・小さな目標を決めて達成感を得る。無理な目標を設定すると学習性無力感を覚えて挫折しやすい。
・何かをはじめる時は褒められて延ばしてくれるコーチ、先生につくといい。初心者に対して厳しいスパルタな教え方は厳禁。
・習慣化する。環境(場所)と行動をセットにすると上手くいきやすい。
・煮詰まったときは無理をしない。少し休んでみる。休まないと燃え尽きが起こりやすくなる
・環境はとても大事。出来る人の中に混じると能力が高まる。

本書の反論など

本書の反論や疑問点についてはサイエンスライター鈴木さんのブログ「パレオな男」にエビデンス付で詳しく紹介されています。
参考外部リンク
「やり抜く力 GRIT(グリット)」が高い人ほど、実は中年になって能力が下がる?問題
グリットの生みの親「まだまだグリットは現実に活かせる段階ではない」

GRITのマイナス点をまとめると、
・GRITを使いすぎると、間違ったゴールを設定したときにダメージが深くなる。例えば本来そこまで労力を掛ける必要が無い分野まで時間とエネルギーを浪費してしまうことで、本来なら見切りを付けるべきところにこだわってしまい、切り替えが下手になる。
・頑張りすぎることで無理をし過ぎて歳をとったときに無理がきかなくなる。

などがあって、GRITで一つの目標に絞ると融通が利かなくなるため、努力を向ける視野が狭まってしまう危険性があります。

まとめ 努力は賢く行うべき。本書では触れられていないが飽きっぽい人にもそれなりの良さがあると思う。

GRITの要点は挫折や失敗にもめげずに何度も何度もトライし続ける姿勢に尽きます。「才能のせいにせず、努力をし続けることを諦めないで粘り強く挑戦し続けることが成功を導く」という主張です。

嫌にならない範囲で少し背伸びした目標に向けて努力すること、そして小さな達成感(成長)を感じ続けることがGRITを実践する上で重要だと感じました。色んな心理学の文献を読んできましたが、この「過去の自分より成長している実感」や、「周囲の人や社会の役に立っている感覚」は物事をやり続けるためのガソリンのような物だと実感します。

気をつけなくてはならないのは、何でもかんでもGRITでやり遂げようとしないことです。GRITは一極集中型なので、目標やゴールを見誤ると本来の幸せとは遠回りになってしまうこともあります。

本書では一つの物事をやり遂げる力を賞賛していますが、私は飽きっぽくて浮気性的に他分野に興味を持つ人にも良いところがあり、これまで結びつかなかった分野を組み合わせて新たなアイデアを生み出せる力があると思うので、無理してGRITの手法にこだわらなくても良いと思います。コツコツ努力が好きな人であれば、読んでみて感じる所はあると思います。

動画資料 GRIT提唱者のアンジェラさんのTED講演

 
 
■「やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」 アンジェラ・ダックワース (著)、神崎 朗子 (翻訳) ダイヤモンド社 2016年09月09日

■Grit: The Power of Passion and Perseverance (English Edition) , Angela Duckworth (著)

 
前の記事【書評】「反脆弱性 上・下」 どんなに立派な実践知でも、伝わらなければ意味が無い
次の記事やる気を出すのに最も重要な「前に進んでいる感覚」について