ルドガー・ブレグマン 貧困は「人格の欠如」ではなく「金銭の欠乏」である TED動画

概要

TED動画紹介の第一弾として、「ルドガー・ブレグマン:貧困は「人格の欠如」ではなく「金銭の欠乏」である」を取り上げます。今回の動画は貧困についての考え方を改めるきっかけとなる動画でした。「なぜ貧しい人が思慮のない選択ばかりするのか」というシンプルな問いかけではあるのですが、私たちの貧困層の人に対する思い込みを切り崩すパワーを持っています。

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スピーカー ルドガー・ブレグマン
歴史家「Utopia for Realists: How We Can Build the Ideal World」の著者

思慮の無い選択とは

ここでいう思慮のない選択とは、将来を見据えない浪費、借金、極めて低い貯金額、アルコール中毒、ギャンブルや喫煙依存などの悪い習慣を誘発してしまう選択のことで、貧困層ほどこうした選択を選びやすく、食生活も不健全になりがちになります。多くの人は貧困層の人々を思い浮かべると本人の自己責任であると考えがちですし、貧しい人自身も貧困が自分の人格の問題だとして自分を責める傾向があります。イギリスの首相サッチャーは貧困問題について「人格の欠如」とまで言い放ちました。では、本人に何か原因があるのでしょうか?本当に本人の人格に問題があるから貧困になるのでしょうか?

ルドガーさんによれば、実は本人の人格が問題ではなく、金銭の問題が貧困に一番影響していると言います。貧しいほど、知能水準は低下するという驚きの研究があります。

インドのサトウキビ農家に関する心理学の研究

 
これはアメリカの心理学者によって行われた研究で、サトウキビ農家に関するものです。収穫期の前と後で知能を測る実験が行われました。サトウキビ農家は1年の収入の60%を収穫の直後に回収するため、一年の中で貧乏な時期と裕福な時期があります。その研究では知能テストを収穫の前後に受けてもらったのですが、結果は収穫前の比較的貧しい時のほうが収穫後よりもずっと成績が低かったのでした。

貧困の心理(Scarcity mentality)

貧困の心理(Scarcity mentality)がここでキーワードとしてあげられます。貧困の心理とは、目の前の不足に注目してしまい、先のことが考えられなくなることを言います。これは何もお金に限ったものではなく、時間、お金、食べ物などありとあらゆるものにあてはまります。

私たちも考えてみれば、連日仕事詰めで心に余裕がないとダイエットをしているにも関わらずストレス解消のためにコンビニで甘いものを買ってしまったり、自分の将来のことを考え行動するのではなく、ギャンブルやアルコール、ソシャゲのガチャなどの短期的なストレス解消法を選んでしまいがちになります。「空腹な状態になったときには、目の前のサンドウィッチのことしか考えられなくなる」とにかく目の前の不足を埋めることに人は必死となります。今に余裕が無いために、未来を見据えた行動が出来なくなってしまうのは恐ろしいですね。

ベーシックインカム・基礎所得保障

後半では基礎所得保障、ベーシックインカム導入の話になります。カナダのドーファンという小さな町でかつて基礎所得保障が実行され、貧困対策に大きな成果がでたそうです。

カナダのドーファンでのベーシックインカム導入の結果

財産が増えた上に、知能も向上した。
仕事をやめる確率も下がった。
教育を受ける期間が延びた。

働かなくても貰える最低限の基礎所得があるからこそ、人は余裕を持って未来を見据えて行動でき、結果的に貧困の根本的な解決になったのです。

まとめ

この動画で私は「貧すれば鈍する」ということわざの通りのことが実際に起こっていることを知りました。貧困問題は単純に物資を送ればいいのではなく、安定的な蓄えをもたらさなければいけないのです。対症療法的な一時的な解決策ではなく、長期的な視野や考え方、行動ができるようにしていかなくては貧困の問題は容易に解決しないのです。

ルドガーさんが引用したジョージオーウェルの「貧困の本質とは、未来を握りつぶすもの」という言葉の通り、貧困とは人格の欠如ではなく、金銭の欠乏の問題なのです。彼の著書である「隷属なき道」も今度レビューを書こうと思います。

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英単語・言い回し

 
poor decision 貧しい判断、愚かな判断
summed up 端的に表現する
personality defect 人格の問題
blunt 直球な、ぶっきらぼうな
completely blew my mind 完全に度肝を抜かれた
harvest 収穫
dumb decisions 愚かな選択
dumb 愚かな
perplexed 困惑した
annihilates 全滅させる、無効にする→握りつぶす、だめにする。
marveled 驚き
preach at ~ ~に説教する。
resonant 反響する、響き渡っている。
next to ~ ほとんど~
eradicate 根こそぎにする、撲滅する、根絶する
brand of left-wing politics 左翼的な政策
got in うまくいく
old-fashioned 古くさい、古風な(文脈によりネガティブにもポジティブにもなる中立な響き)
leftist 社会主義的な
thinkers 思想家たち
basic income 基礎所得保障
mostly because たいていの場合
proponents 支持者たち
civil rights campaigner 市民権運動家
unconditional 無条件な
stigma 不名誉
descended 押しかけていった。
resounding 目覚ましい、顕著な
paternalistic bureaucrats 保護者的(温情主義的)な役人たち
withering しおれさせる、萎縮させる
unleash 靴紐を外す、自由にする、解き放つ
elephant 象のことだが、意訳で大きな難題の意として話されている
net cost 実費
impoverished 貧しい
nudges 後押しする、そっと突く
resume 経歴
transactor トランザクター(クレジットカードを単なる支払い手段とする顧客)
disruptive 崩壊的な、破壊的な→革新的な
lamented 嘆き悲しむ
status quo そのままの状態、現状
xenophobia 外国人嫌い、恐怖症、他人恐怖

 
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