NintendoのUIデザインについての話が話題になっていたのでまとめてみた。

4月27日に行われた「UI Crunch #13 娯楽のUI – by Nintendo -」が話題となっていたので、上手に要約されていたこちらのnote記事を参考に気になった点をまとめてみました。私はこのイベント自体は話題になるまで全く知らなかったのですが、もし知っていたら絶対に応募していたので、応募倍率がとても高かったことも納得です。NintendoSwitchのスッキリと整理整頓されたデザインが好きだったので、もし次回があるのであれば是非行ってみたいと思うイベントでした。

追記6月11日
動画が公開されました。

Nintendoは体験を重視している。

最初はUI/UXデザインチーフの正木さんから「娯楽UIの思考の原点」についての話。任天堂が「伝える」時に大切にしているのは以下の3つとのこと。

・「教える」ことよりも「体験する」ことで、より早く、的確に伝えることができる。
・初めての体験は一度きり。新鮮な印象を大切にする。
・体験はやっぱり面白くしよう。

私は任天堂のゲームを昔からプレイしていることもあり、任天堂がユーザーの「体験」を重視しているのは何となくですが感じていました。WiiUでのソフトをダウンロードする時やネットワーク接続を待っている間のスロットマシーンゲーム、3DSでのダウンロードの待ち時間にマリオがブロックをたたいてコインを増やしていく演出など、他のメーカーがこだわらないところに遊び心を入れている任天堂のこだわりを思い出しました。

軽視されがちなチュートリアルを「体験」として価値あるものとしていく話も興味深いです。

次に、「わかりやすさ」と「高機能さ」を合わせもつゲームをどのようにして伝えるかについて、スーパーマリオメーカーを通してお話いただきました。キーとなるのは「触りながら覚えていく」感覚。
スーパーマリオメーカーは、まずはやさしい部分を体験してもらって「面白い!」を引き出し、そこからブロックが出現したり色々な「発見」を通してゲームの機能を覚えていく、という設計にすることで、「高機能」だけど「わかりやすい」を実現しているということです。

最近のゲームは全部電子取扱説明書になっていて、ゲームデザインの際にはユーザーが説明書を読まずにプレイすることが前提となっています。その中で、チュートリアルの機能は大切なものになってくるのですが、そのチュートリアルの機能を序盤のストーリーに溶け込ませることで自然とユーザーに操作を覚えさせていくことが大事とのことです。序盤で簡単な課題をこなしていくことで「自分は出来る」とプレイヤーに思わせていくのです。以前私が黒川塾で聞いた岡本さんの話にもあったのですが、ゲーム作りの中でユーザーに対して世界観や操作を覚えさせる工程=説明コストの問題があり、その工程をいかに飽きさせずに楽しいものとさせるかに頭を使う話を聞いたことを思い出しました。

「UI脳」と「娯楽脳」

ここで聞き慣れない「UI脳」と「娯楽脳」という概念が出てきました。

「わかりやすさ」を追求する「UI脳」だけだとつまらない。「面白さ」を追求する「娯楽脳」だけだと大切なものが伝わらなくなる。
この両立を図ることで、面白く、そして伝わりやすいUIを目指しているということです。
特にこの「娯楽脳」の部分で面白いなと思ったのは「面倒やつまらないことを発想の転換で娯楽に変える」という話でした。
「これはユーザーにとって面倒だろう」と思われることを、すぐに諦めずに「どうにかして面白くできないか」と発想を転換することで「面白い」体験に変えていく。伝え方の面白さを追求するからこそのこだわりを感じました。

私もかつてはUIデザインについて勉強していたので、何を持って良いUIデザインなのかについて葛藤していた時期もありました。UIを優先して味気ないデザインになってしまったり、逆にデザインを優先してユーザーにとって使いづらいUIにしてしまったり。任天堂は「面白い体験」を提供するために「面倒なこと」を「面白い体験」にすることに力を入れていることが分かります。

スプラトゥーンのUIデザインについて

次はUI/UXデザイナーの橘さんから、大ヒットしたWiiUとSwitchで発売されたゲーム「スプラトゥーン」シリーズのUIデザインの話です。
スプラトゥーンは文字の情報量が多くなったので、ごちゃごちゃした印象を世界観を保ちつつまとめるための創意工夫について語られたそうです。

世界観に合うフォントが無ければ作る。
限られたリソースの中で早めに共有する。
白黒にして、色を消してもスプラトゥーンの世界が成り立つかをチェックする。
陰に黒を使わずに、色相を変えることで違いを生み出す。

スプラトゥーンの独特な世界を作り出すのにUIが大きな役割を担っていることが伝わってきます。世界観にないフォントがなければ作ってしまおう、ということであの“イカすフォント”が生まれたのですね。

スプラトゥーンの根幹となっている「イカ」や「スポーツ」を言語化し、それを形にしていったとのこと。色がなくてもスプラトゥーンだとわかるほど特徴的でありつつわかりやすいものを目指したそうです。

カーソルやボタンなど、ユーザーの行動によってインタラクティブに動く部分においては、もはや何もなくても動かせば音が聞こえそうなものを目指したとのこと。

プレイ以外の情報画面などでは背景を白く、プレイ画面は背景を黒っぽくすることで、プレイ中の世界観を作りながらも、瞬時に理解してほしい部分(情報画面ならアイコンや文字情報、プレイ画面ならインク)を理解できるようにしたとのことでした。

UIとして分かりやすく、アートとしても新鮮なものになるように配慮が重ねられたとのこと。

みまもりSWITCH ゲームに熱中する子を持つ親のためのアプリ

最後にUI/UXデザイナーの藤野さんから「みまもりSWITCH」というアプリについての話もありました。

ゲームを遊びすぎていないか。
年齢に合わないゲームを遊んでいないか。
ゲームでのトラブルは大丈夫か。

といった親が持つ懸念を解決するために子供がしているゲームの監視アプリを作成する流れになったそうですが、それでできることが

プレイ時間の監視
プレイ時間の制限
ゲームの強制終了

となり、これでは親子間の亀裂を生む状況となってしまいます。これが任天堂にとって「これじゃ無い」印象を与えたそうです。そこで改めてアンケート調査を実施し、想定するユーザー層からペルソナを設定してユーザーの動きを分析してみたそうです。その結果、親御さんは、子どもの動きを「制限」したいのではなく、子どもが何をしているかの現状を知りたかったことが分かったとのこと。そこから閃きを得て、単に子どものプレイ時間を表示するツールではなく、ゲームのビジュアルを入れてどんなゲームをプレイしているのかを理解できるようにすることで、「あのゲーム面白そうだね」という会話が生まれるような単なる監視ツールから親子間の会話を促進できるようなツールに大きく変わっていったとのこと。

中断させる機能もあるにはあるのですが、目立たないところにしまい込んでいて、任天堂としては「親と子どもの関係をもっと素晴らしくしたい」とのことでした。

他にも参考元サイトでは質疑応答などもまとめられているので気になった方はチェックしてみることをお勧めします。

◆参考

https://note.mu/sakamichiyuki/n/ne7a1764119a9
https://ui-crunch.connpass.com/event/82969/
https://note.mu/shiratoriyurie/n/nc9d87c8220dd
↑こちらのノート記事もとても参考になります。(グラフィックが随所に挟まれていて私のブログでもこうした自作グラフィックを使った記事が書けるようにしていきたいです。)

 
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