【書評】超一流になるのは才能か努力か? 何かを上達するのに年齢や才能など関係なく、正しく努力することの重要性を力説した一冊

【書評】超一流になるのは才能か努力か? 何かを上達するのに年齢や才能など関係なく、正しく努力することの重要性を力説した一冊

【書評】超一流になるのは才能か努力か? 何かを上達するのに年齢や才能など関係なく、正しく努力することの重要性を力説した一冊

何かを成し遂げたい、上達したい、特定分野のプロとなりたいと望んでいる人にとって、自らの才能の有無や他者との比較による自分の能力について思いを巡らすことはよくあることです。自分よりも時間をかけていないのに明らかに自分より上達スピードが早い誰かを見て、自分には才能がないのだと決めつけ努力をやめてしまう…といったことはよくあること。

本書はあらゆる分野での超一流、プロフェッショナル、エキスパートとなるのに決定的となるのは才能なのか、努力なのかについて数多くの心理学研究をもとに論じており、人の努力の重要性と可能性を力説。人の能力はどのような原理、メカニズムで成長、開花させることができるのかに興味がある人にオススメできる内容となっています。

才能ではなく、努力と練習。努力の質こそが重要で、自分の限界よりも少し踏み出した限界的練習こそが上達への鍵。

人の能力は才能では決まらず、努力の質で決まる、というのが本書の一番の主張でしょう。唯一生まれつきで決まるとすれば高い身長などが求められるバスケットボールなどのスポーツ分野で、身体の骨格といったものは遺伝によってほとんどが決まっています。それ以外のあらゆる分野、音楽や芸術分野でも努力こそが才能よりも重要なファクターである、というのが本書の一貫したテーマです。

もちろん、ただ努力するだけでは上達せず、正しく努力することの大切さを本書では強調しています。人の脳は年齢に関係なく驚くほどの適応性(可塑性)を持っていて、この適応性を引き出すために自分にとって快適ゾーンから離れた負荷のある練習(努力)を積み重ねる必要があります。何かに上達するには自分にとってちょっとキツイ練習をこなす必要があるのです。

言い換えれば、ダラダラ緊張感もなく何時間も練習したとしても、それは短時間の集中した負荷が高い質の高い練習にはとてもかなわないということです。

ベテランほど現状の自分に満足して能力上達が停滞する罠がある。

特定の分野に熟達するほど自分にとっての快適ゾーンが広がるわけなのですが、分野を問わず意識せずにできるようになった時点で上達は止まり、意識的に何か負荷がかかる練習をしない限りその技能レベルは停滞してしまうという指摘が本書の面白い知見でしょう。

本書ではベテランの医師ほど自分に知識や経験があるからと油断をして、新米の医師よりも低いパフォーマンスになってしまう例が挙げられています。この点、いかにその道何十年のベテランでも新人の気持ちと緊張感で物事に望むのが重要だと指摘した「ルーキースマート」という本に書かれていることが参考になると思いました。
【書評・感想】ルーキー・スマート 初心を忘れずに新たな気持ちで挑戦する力

どんな分野でも、自分にとってちょっと負荷がかかる、キツイと感じる学習や学び、努力、練習をしなければそこで能力の成長は停滞するということです。

具体的に良い練習(限界的練習)とはどのようなものか?

本書の主張はいかに努力の質を高め、意識的な限界的練習を行うのかにあるのですが、具体的には以下のような感じにまとめられると思います。

良い練習(限界的練習)には、
はっきりとした目標があり、
・目の前の練習に集中(没頭)し、
フィードバックがあり、
居心地の良い状態から抜け出している負担に感じる
ことが必要

練習に目的意識を持ち、その練習の細部まで神経を張り巡らせ、質の良いフィードバックを受けて、ちょっと負荷がかかる内容であること。これを地道に積み重ねていくことでその分野でこれまでできなかったことができるようになるのです。

上達と心的イメージについて

本書では心的イメージという概念が重要なものとして何度も言及されているのですが、ちょっと抽象的でわかりにくいので私なりに噛み砕いてみます。

何か特定の分野で訓練することで人の脳はその分野で必要な心的イメージを形成していきます。これは脳がその分野に適応するために神経の配線を組み替えたもので、その分野に関する抽象的、概念的な成功イメージとでもいえるでしょうか。すべからく何かに上達した人、熟達した人はその分野での上達した心的イメージを脳内に確立しているのです。

心的イメージの例
・タクシー運転手なら脳にその地域の地図のイメージを身体的感覚的に豊富に蓄えている
・将棋やチェスの分野であれば膨大な棋譜のパターン
・楽器演奏では手の動きや音の強弱リズムの変化微細な変化を感じ取る能力
今こうして文章を読む能力も脳が後天的に身につけた心的イメージです(文字を文字として認識し、音を当てはめ概念と結びつける)。

上手く言った時の感覚、能力が身につき何かに上達した時の身体的、感覚的、抽象的な構造回路、感覚をまとめて心的イメージと本書では呼んでおり、練習の質は心的イメージの質とも紐づいています。同じ時間練習をしても差が出るのはこの心的イメージの質が異なるからです(練習は量ではなく質が大切)。

長い期間をかけて良い練習(限界的練習)をすることで、脳にはその分野のエキスパートとなるための心的イメージが育まれて行きます。プロフェッショナルが身につけている心的イメージを身につけるために、目的意識を持って集中した限界的練習とフィードバック(お手本、見本)は欠かせません。

批評点 物事の上達に関してのメカニズムは理解できるが、モチベーションへの言及はイマイチ弱いと感じる。苦しい努力を継続できるようなモチベーションはどこから来ているのだろう?

本書は何かに熟達する人の脳についてのメカニズムについて詳しく知ることができるのですが、読めば読むほど、学習環境や優秀な教師、コーチ、上司の存在は大きいと感じます。

独学がなぜ難しいのか…それは正しいフィードバック(心的イメージ、お手本)を得ることが難しいからです。

上達のためにはきつくて苦しいと感じる努力が必要不可欠。では、それを乗り越えるためのモチベーションはどうすればいいのか?と思うわけです。現実的に考えれば良い教師と出会うための環境とかは運や巡り合わせの要因も強いですよね。一読者としてはこの点、本書はちょっと弱いかなと感じました。

結局正しい限界的練習を実践し継続できるようになるには良い教師や仲間との出会いや、生まれや育ちといった環境要因も大きいので、そういった恵まれた人こそが才能と呼ばれる能力を開花させ、一流になれるのだろうとも読み取れます。

本書は遺伝的才能を否定し努力万能主義を力説する立場ですが、「きつくて苦しい努力を続けられる素質」という観点でみると特定の分野での向き不向きといった生まれつき備わるであろう一種の才能は完全に否定できるものではありません。

本書では上達したその能力そのものがモチベーションの源となることも指摘しています。もちろん真理でしょうが、しかし、そのスキル自体がアイデンティティとなるまでの初学者の期間が最も継続モチベーション的に厳しいのです。上達して誰かから認められ、必要とされればやる気は出るでしょうが、そこまで努力できるかどうか。優秀な教師や仲間に恵まれなかったときにどう乗り越えるかは本書だけでは参考になりませんでした。

加えて、本書ではプロフェッショナルな人ほど練習に苦しみを感じ、アマチュアでは練習に喜びを感じていると言及していますが(集中した限界的練習は負担が大きから)、私にはそう感じられません。アマチュアでもプロ顔負けの苦しい練習を課す人もいますし、プロフェッショナルにはそのプロフェッショナルな能力を身につけるための膨大な練習と苦労がありますが、その苦しみ以上にその困難な努力を続けるための何か喜びや達成感のようなポジティブな感情、リターンがあるはずです。本書ではそれをもっと紐解いて欲しかったと思います。(上達の過程それ自体に喜びを見いだせるかが最重要であると私は考えています。)

何かに上達するには苦痛に感じる練習が必要だと本書では説きますが、継続できなければ意味がありません。本書を読んでいて質の高い限界的練習を継続するために、なぜ人は挫折してしまうのか?なぜ練習が続かないのか?についてもっと踏み込んで欲しいと思いました(そうなると本人の才能、素質の話題に踏みこまざるを得ないから努力万能主義をとる本書では言及が難しいのでしょう。)。

まとめと感想 きつくて負担がかかる正しい練習こそが上達には欠かせないが、それを乗り越えるためのモチベーションは自分で対策していく必要がある。

目的あるキツイ練習を集中して行うことで年齢に関係なく人の能力は成長し、開花して行きます。

・筋肉の成長と同じように脳も成長していく。(脳の場合は配線を入れ替えていく)
・コンフォートゾーンを超える負荷をかけ続けることで脳の可塑性が刺激され、神経の配線を入れ替えて能力を高め適応していく。
・壁を感じたら別のやり方を試す。教師を変えたり、練習の仕方を見直したり。
・可能であれば良い教師を見つけ、仲間やコミュニティに身を置くこと。

本書を読んで何かに上達することのメカニズムへの理解は深まったものの、結局その必要な努力を継続できるかどうかがいちばんの問題だと私は思います。本書はモチベーションへの言及が弱いので、その点自分でやる気対策を考えなくてはなりません。

有意義で肯定的なフィードバック、できないことを悪いこととして叱責するのではなく成長につなげてくれる誰かの存在は欠かせないでしょう。失敗を受け入れ、失敗から学ぶことの重要性はもちろんのこと、自己肯定感を育み、向上心を刺激するような何かがあるかどうか。苦しい練習を継続させるだけの何か喜びや達成感、報酬リターンがあるかどうか。

現代は容易に自分よりも才能があり、難なく上達している人の情報を見てしまい、それと比較して自分には才能がないから、と諦めがちになります。初心者こそあえて「井の中の蛙」となり、他者と比較するのではなく自分なりに正しい練習や努力を積み重ねていくこと、まずはチャレンジしてみるその背中を本書は押してくれます。

総じて、きつくて苦しいと思う練習や訓練、その分だけ脳のどこかで必ず成長しているし、スキルも目に見えないけれど着実に身についていっていると思えるようになったことが本書を読んだ一番の収穫です。

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