「未来に先回りする思考法」佐藤航陽 まとめ・要約とレビュー テクノロジーからみた現在と未来

現メタップス株式会社を設立した会社経営者の佐藤航陽さんの「未来に先回りする思考法」を読了しました。今回はその要約・まとめ記事です。アメリカのIT大手Amazon,Facebook,GoogleといったIT企業を例に出し、情報産業の発展の分析と未来を見据えた行動・チャンスをつかむにはどうすればいいのかが分かりやすく書かれていました。物事には必ず必然性があり、社会が進化するパターンがあるとのこと。状況が変わっても未来を見通す力はこの必然性のパターンを読む能力が元になっており、それは実際に行動することから得られることが述べられています。この本は2015年に出版されていますが、2017年に流行った仮想通貨の事なども書いてあり、古さを感じさせない多くの学びを得られた本でした。

◆書誌情報
「未来に先回りする思考法」
著者:佐藤航陽
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2015年8月30日 ISBN:978-4-7993-1754-7

パターンを見抜く思考法

未来を見抜く少数の人たちは、多数の人たちとは異なった思考法を用いて未来を見通しているといいます。それは、パターンを認識する能力であり、未来を見通す能力が高い人たちは総じてテクノロジーに精通し、経済や人の感情といった複数の要素を把握し、社会が変化するパターンを見抜くことに長けているといいます。特にテクノロジーへの理解が重要で、それはテクノロジーが社会の進化と密接に関係しているからです。テクノロジーが社会に与える影響力はますます大きくなっています。

変化が早い時代では「地図を捨ててコンパスを持つ」考え方が重要です。地図の地形は刻々と変化しており、かつて自分の選んだ道が最適解ではなくなっている状況になることも多いです。今自分が進んでいる道は、そもそも本当に自分の進むべき道なのかどうか?と原点に立ち返って自問自答することが必要です。これからの時代に生きる私たちは、常に先が見えないことを前提に、コンパスの方向を頼りに進んでいくことになります。事前に立てた計画とずれた現実に遭遇することはしょっちゅうで、当初の計画に執着するよりも、今起きている現在に適応するほうが合理的なのです。今までやってきたことをこれからもやり続けることはリスクが高くなります。

Google日本法人元社長の村上憲郞さんは、GoogleやFacebookがどのような視点を持って社会を捉えているのかについて、彼らは社会の進化の流れを1本の線として捉えているといいます。テクノロジーに精通し全体像をつかんでいることで、ぱっと見何も繋がらないようなプロダクトやサービス、トレンドを「1本の大きな線」として捉えることで、次の流れ星がどこに落ちるのかを予測できたのです。

テクノロジーの3つの本質

テクノロジーの変化を大きな線として捉えるには、テクノロジーの特徴を理解しておく必要があります。本書では3つの特徴が述べられています。

1、人間の拡張
すべてのテクノロジーは何らかの形で人間の持つ機能を拡張してきました。
頭脳 → 本、書籍
手 → 斧、弓
手足 → 蒸気、電力
コンピュータやインターネットは「知性の拡張」をしています。
 
2、人間への教育
新しいテクノロジーが普及してしばらく立つと、今度は人間がそのテクノロジーに合わせて生活スタイルを変化させていきます。貨幣のような社会構造に深く組み込まれた発明は、その存在自体が人間の精神や行動を縛るようになるのです。
 
3、手のひらから宇宙へ
テクノロジーが発達していくと、身体の近くで使う物から、電気のように人の日常に空気のように存在する存在になります。社会のありとあらゆる道具とつながり、物理的な制約を乗り越えて自然の風景と一体化しあたりまえの物として存在するようになります。

現在はインターネットがエントロピー増大の法則に従って、時間の経過と共に複雑化し多方面へ浸透しています。ありとあらゆる物がインターネットに繋がり、日常生活のあらゆることがデータとして蓄積されていきます。こうして蓄積されたビッグデータは人工知能(AI)という出口を見つけたことで、より人々の生活に影響を与え、将来的にはあらゆる物体に「知性」が宿るようになります。

人間はパターンの塊

驚く事に、性格も趣味も外見といった多様性にあふれた存在である人間も、何千万という数のデータを分析すれば、言語や文化が異なるのにもかかわらず行動パターンが同じであると本書では指摘しています。圧倒的人数から得られたデータを分析すると、人は驚くほどシンプルな法則性に基づいているため、人間は自分が思っている以上にパターンで動く存在とのことです。

長期的に見れば人が想像できるアイデアはほとんど実現できる

長期的に見れば人が想像できるアイデアはほとんど実現できるといいます。「そんな未来はあり得ない」と言われるものでも、将来的に現実となるパターンが過去にたくさん見られてきました。
・日本人には実名性のFacebookは流行らない。→実際にはFacebookは日本においても普及した。
・スマフォ=iPhoneであり、Androidは流行らない。→実際にはAndroidはAppleのシェアを追い抜いた。

人間は目の前で起きている現状だけを見て判断するので、ことある理由をつけては新しい技術を否定する傾向があります。しかしアイデア自体は将来の大きな流れの中の「」であり、社会の中でニーズがあり、技術面・価格面での折り合いがつけば必ず現実になり、普及していくのです。これを読んで私は任天堂のバーチャルボーイの例を思い出しました。

バーチャルボーイは任天堂が1995年に発売した3Dゲーム機です。まさにVRの先駆けともいえる商品でしたが、発売当時は技術面、コスト面がアイデアに追いついておらず、ソフトもほとんど発売されないまま終了しました。しかし近年になって技術の進歩やコスト面での折り合いがつき、SONYのPlayStationVRなどで発売され話題になっています。アイデアが実現するか、成功するかはタイミングが大きく影響しているのです。

テクノロジーを「」で捉える人たちにとっては、どの事業を足がかりにしたとしてもその目的地は同じであるといいます。これは「今の技術でできること」と「ユーザーの求めること」の接合点、人間が思い描く理想郷は突き詰めればどれも似ていることです。テクノロジー企業は同じ未来像を見ながらタイミングの読み合いをしており、本書の著者である佐藤さんも自らの会社の従業員に、同じ場所を目指して登っていれば、意識しようがいまいがいつかは誰かと競争することになるといっているとのことです。

すべては「必要性」から始まる

すべてのテクノロジーは必要性によって生まれています。イスラエルは知られざるイノベーション大国であり、第2のシリコンバレーと言われています。人口800万人の国がどうしてこんなに上手く継続的にイノベーションを起こせるのか。その答えは「必要性」です。周辺国とも争いの絶えないイスラエルは、諸外国への影響力を高め続けなければ国として危機に陥ります。イノベーションを起こす「必要性」がどの国よりも切実に存在しているのです。迫害され、厳しい生活を強いられたユダヤ人にノーベル賞受賞者が多いのも、過酷な状況を生き抜く「必要性」が生み出した副産物なのです。

タイミングがすべてを決める。

タイミングをどう見極めるかについての話は本書の白眉といえる箇所です。

ビジネスの世界でアクションを起こすのは、電車に乗る行為とよく似ています。目の前には、都内の通勤ラッシュのように、分刻みのスケジュールで電車が走っています。その中から、選ぶ市場や戦い方によって、乗る電車を選ばなくてはいけません。ただし、乗客は、その電車がどこまで行くものなのか、事前に知ることはできません。遠くまで行ける電車を見抜けるかどうかは、乗客の未来を読む力に委ねられているのです。
最も遠くに連れて行ってくれる電車を見つけて飛び乗ることに成功すれば、大きく飛躍できるでしょう。ただし、そのためには「切符」を持っている必要があります。この「切符」にあたるのが「リソース」です。それは資金だったり、自分のスキルや経験だったり、人脈だったりと、様々です。もしそれらの最低条件を揃えていないと電車に乗ることは出来ません。もちろん、電車によって切符はすべて異なります。
もしあなたが、何が課題でどうすればよいかがわかっていても、切符を持っていなければチャンスに飛び乗ることはできません。
そして、もうひとつ重要になるのが電車の出発時刻、つまりタイミングの問題です。ビジネスの世界には、定められた時刻表はありません。自分の予測にもとづいて、電車がやってくるタイミングを読む必要があります。タイミングが、すべてを決めます。

未来が読めるだけではだめで、いつか巡ってくるチャンスを掴むためには自分が持っている資源を把握し、足りない条件を揃える必要があります。未来の大きな流れに気づく人が少ないほど先行者利益を享受できますが、そのためには長い期間準備ができるような経済的余裕も必要になってきます。

タイミングを見極めるためにはどうすればいいのでしょうか?本書では周囲の人の反応をリトマス試験紙として扱う例が述べられています。
あるテーマを誰かに話して、8割の人が聞き返してくるのであれば早すぎる
マスメディアで頻繁に取り上げられているのであれば遅すぎる
とのことです。

意思決定と2つの壁。ルールの話。

未来を見据えた意思決定・行動を起こすには、すべての情報を得ることは出来ないという「情報の壁」と意思決定者が持つその分野に関しての「リテラシーの壁」、この二つの壁を認識する必要があるとのことです。ビジネスではついロジックに頼りがちになるけれど、ロジックはあくまでも今その人が集められる情報の範囲に依存するから、未来の予測には役に立たない事も多いそうです。合理性はいつも後付けであり、将来的に新しい情報を得られること、自らも成長していることを考慮に入れた上で、一定の論理的な矛盾や不確実性をあえて許容しながら意思決定を行うことが重要です。私にとってこの「今の自分の能力に基づいて意思決定をしない」のは大きな気づきでした。刻々と状況は変わる中、自分自身の能力や知識も進歩しているので今の自分で未来の目標を狭めなくてもいいのです。

不確実性の中の合理性

現時点での合理的な答えが長期的に見たときに必ずしも合理的ではないのは、現実の世界には必ず不確実な要素があるからです。トップの方針が大きく将来を左右するIT企業の中で、Googleは20%ルールという従業員の働く時間の20%を自由なプロジェクトに使うことを許可していますが、それはどんなに経験を積んでいても合理的な未来を見据えて100%正しく判断することは不可能であり、判断ミスのリスクを考慮した上で、リスク管理の1つとして20%ルールで全体のバランスを取っているとのことでした。自分が完全に合理的な選択ができることを諦め、不確実な存在であると認識しつつ意思決定を行うのです

既にルールがあるところで戦わない

上手くビジネスの世界で成功を収めるための話では、既にルールが出来ているところでは戦わない、という話が印象に残りました。

「郷に入れば郷に従え」ではたいしたことはできません。ルールメーカーの顔を伺いながらおこぼれに預かるのが精一杯でしょう。

自分でルールを持つ者が今の時代では力を持ちます。任天堂しかり、Appleしかり、マイクロソフトのWindowsしかり、商品の土台の仕組みであるプラットフォームを提供する側が一番稼げるのです。

社会が進化する方向、大きな流れ・ビックウェーブを掴む

ビジネスで勝負するには、より自分の能力が発揮しやすく、将来的に拡大していく可能性が高い「穴場」を選んだ方がリターンは大きくなります。プレイヤーは逆立ちしてもルールそのものにはかないません。世の中の変化には一定のパターンがあり、ランダムに動いているように見えても一定の進化のメカニズムに沿っています。現在は過去の焼き増しであることが多く、適切なタイミングで適切な場所にいることの重要性を常に意識しておく必要があります。いかに大きな波をつかむのかが重要で、人はその波自体をコントロールできないが、その波が発生する場所に関しては意識的に捉えることができます。進化の背景にあるパターン・原則を掴んだ上で「必ずそうなるだろう」という未来にこそ投資する価値があるのです

誰がいつ実現するかは最後までわかりません。しかし、何が起きるかについては、おおよその流れはすでに決まっています。人が未来をつくるのではなく、未来のほうが誰かに変えられるのを待っているのです。

最後に、ビジネスは自分が試した行動のフィードバックがすぐに帰ってくる世界であり、現実世界の流れを把握するのにとても役に立つものであることが述べられています。「評論家に終わるな、実践者たれ。」として、いかに現実の世界で実践と行動を積んでいくことが重要かを強調しています。物事が上手くいかない場合、パターンを認識するために必要な試行回数が足りていない場合がほとんどであり、一喜一憂せず、パターンを把握し成功する確率を高めるための実験だと割り切って試行回数を増やすことが大事とのことです。

満足度100%

IT、インターネットがどのように社会に影響を及ぼしているのか全体像を把握するのにこれ以上の本はないのではないかと思います。2015年の本ですが、いつの時代にも通用する真理が書いてあると感じます。いかにタイミングが重要で、そのわずかなタイミングをつかむために普段から準備しておくことの話は印象に残りました。いつチャンスが来ても飛び込めるように普段から身軽にして能力を磨いていかなければ…!と気が引き締められます。

本書ではここで取り上げた以外にも、幅広くテクノロジーがどのようにして社会を変え、これまでの国家や権威を覆していくのかの話も盛り込まれています。資本主義や、情報を持つものが力を持つことの話、既に1国の予算を超える富を持つ大手IT企業の話や仮想通貨が国家の財政の影響力を下げる話、正確な企業の価値は財務諸表だけでは測れない話といった感じで、テクノロジーと政治経済、社会の関係性を理解するのにとても役に立ちました。ITが未来と社会に及ぼす影響力を包括的に知りたい人にとっては必読の書だと思います。Kindle版は安いので是非手に取って読んでみて欲しい本です。

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「ゲームプログラマ、プランナーのための ゲームAI『超』入門勉強会 in コロプラ」 に参加してきた。 モリカトロン主催 コロプラ本社in恵比寿

参考

佐藤航陽Wikipedia
株式会社メタップス

 
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