創造力への自信と行動に移す勇気を学べる「クリエイティブマインドセット」まとめ&レビュー

今回はデザイン思考と自分の中にある創造力への自信についての大切さを語った「クリエイティブマインドセット」についてまとめ&レビューします。著者はデザインコンサルティング会社IDEOを立ち上げたケリー兄弟。スタンフォード大学内に「dスクール」を設立し、分野や垣根を越えて広く開かれたデザイン思考を軸に学術、経済の分野で活躍しています。果たして本書からはどういったデザイン思考へのヒントが学べるでしょうか。

◆書誌情報
「クリエイティブマインドセット」
デイヴィッド・ケリー (著)
トム・ケリー (著)
千葉 敏生 (翻訳)
日経BP社 2014/6/20
ISBN-13: 978-4822250256

誰もが生まれ持っている創造力への自信がキーポイント

この本の原著は「Creative Confidence」で「創造力に対する自信」のこと。ここでいう創造力とは、何もグラフィックデザインやファッション分野に限った話ではなく、広く一般的なものであるといいます。「新しい解決策を生み出す力」が本書で言う創造力の定義であり、創造性を0から生み出す能力ではなく既に自分自身で持っている創造力を引き出し、実行に起こす勇気を持つことが重視されています。

誰もが生まれたときから創造的であり、自分がクリエイティブ系(絵が上手いとか芸術肌)かそうでないかは関係ないのです。創造力は筋肉のようなもので、努力や経験次第で強くしたり鍛えることが出来るのです。

創造力に対する自信とは、「自分には周囲の世界を変える力がある」という信念のことです。自分のしようと思っていることを実現出来るという確信をもつことが重要であり、自分の創造力を信じることこそイノベーションの「核心」をなすものだといいます。

「結局のところ、いちばん大事なのはただひとつ。それは、周囲に前向きな変化を生み出せるという自信と、行動を起こす勇気だ。創造性を発揮するのに、何千人にひとりの才能や技術など必要ない。大事なのは、自分が持っている才能と技術で何かが出来ると信じることだ。」

現在はクリエイティブな力が求められており、創造性こそビジネスにおける最大の武器です。ビジネスの分野では創造力はイノベーションという形で現れます。

「数学や科学は唯一の明確な正解がある思考や問題解決の手法を重視しているが、21世紀の現実の世界の課題の多くはもっと視野の広いアプローチが必要だ。」

唯一の正解が無い中での問題解決能力がこれからのビジネスでは重要になるのです。

そして、創造性の妨げとなっているのは恐怖であり、失敗や恥を恐れるあまりに、自分からクリエイティブな人間をやめてしまう人があまりにも多いことが指摘されています。

成長マインドセットが重要 恐怖を克服するために

創造力を発揮し、デザイン思考を実践していくために、本書では前回まとめ記事を書いたキャロル・デュエック著「マインドセットMind Set」に出てくる成長マインドセットが重要であるといいます。

「創造力に対する自信を手に入れるためには、自分のイノベーション・スキルや能力が固定されているわけではないという信念がなければならない。」

多くの人は失敗に対して恐れや不安を抱いており、それが新しい挑戦を尻込みさせる要因になっています。創造活動において最大のハードルは失敗に対する恐怖なのです。

本書では心理学者アルバート・バンデューラの提唱した「自己効力感」を取り上げて、恐怖症を克服する過程で自信を身につけることが創造力への自信を身につけるステップであるといいます。恐怖を克服することで、自分の「変わる能力」や「成し遂げられること」に対する見方が変わり、人生まで変わっていくのです。

「自己効力感」を高めることで、創造力に対する自信を得られます。多くの天才と呼ばれる人たちは失敗の数も多いですが、失敗したからと言ってそれを挑戦をやめる口実にはしません。ただ、挑戦する回数が人よりもずば抜けて多いのです。(このあたり、アダム・グラント (著)「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代」が参考になります。後日まとめ&レビュー予定)

成功したいなら、失敗する心の準備が絶対不可欠です。失敗は嫌な経験ですが、次のステップを示してくれるのです。失敗が当たり前のものだという確信が得られれば失敗しても前に進んでいるという自信を保つことが出来ます。

経験を積むことで経験データベースが磨かれ、結果として直感能力が向上します。失敗から学ぶ成長マインドセットと、失敗しても許される環境作りが大事だといいます。

ゲーム化の話

これはテレビゲームを実生活に活かすというゲームデザイナーのジェイン・マクゴニガルさんの例です。彼女曰く、テレビゲームの力で実生活に大きな影響をもたらすことができるのだとか。ゲームをしていると何度も何度も失敗しますが、よほど理不尽で無い限り、それで諦めてしまう事はないでしょう。それは、ゲーマーのスキルに比例して難易度や報酬の増加があるからです。ゲーマーたちは常に集中的な努力が必要ですが、その過程を楽しみ、次の目標が決して手の届かない場所にあるとは感じていないからです。この成功の望みが少なからずあるという信念を持つ事が努力を継続させます。日常生活でも、直ぐには結果が出ないが、いつか必ず結果はついてくるという信念を持つことが重要です。

人と比べるのをやめる

「自分はだめだ」と感じる悪循環の仕組みを理解することが重要です。「自己価値が左右されないときには、私たちは能力や才能を大胆に発揮でき、リスクをいとわなくなる」のです。人と比較して自分の価値を判断したり、失敗が自己評価を下げるものだと考えたりしないことです。創造力を手に入れるためには、比較する思考をやめるのが重要であり、完璧主義をやめなくてはいけません。

実行する勇気を持つことは、小さなステップの積み重ねです。

「自分をさらけだし、周囲の人を信頼する能力こそ創造的思考や建設的な行動を妨げている数々のハードルを乗り越えるきっかけになるのだ。」

失敗を受け入れる心を持って、成長マインドセットを自分の中に置くことで人前で失敗してもそれを糧に成長することが出来ます。

「あくなき好奇心と(うまくいくだろうという)楽観主義、最終的な成功のために何度も失敗することを受け入れる能力、懸命に働く意欲、アイデアだけでなく行動を重視しよう」

デザイン思考とは

デザイン思考とはイノベーションを日常的に行うための方法論のひとつです。デザインを実践する人々の道具や考え方を用いて、人間のニーズを発見し、新しい解決策を生み出すための手法のことなのですが、具体的にはこれまでの物の見方をずらして、別の文脈から見たり、再検討したり、思いもつかないところからアイデアを結びつけたりして、これまでに無い問題解決法を生み出す過程がデザイン思考だと私は解釈しました。

色がきれいだ・センスが良いという視覚芸術の分野に限った話ではなく、いろいろな解決策がある事を前提とし、大きく網を張ってアプローチをすることが重要だとされています。論理だけに頼らず、第一感や最初の直感も参考にしてすべてのモノには意図があり、その意図に気づく力を磨くことが重要です。

デザイン思考を成功させるには、ビジネス(経済的実現性)・人間(有用性)・技術的実現性の3つが交わる点を見つけることが重要です。経済的実現性がなければただの夢物語で終わってしまいますし、人間を想定しなければ共感が得られるデザインは生まれず、技術的に実現できるタイミングでなければやはり頓挫してしまいます。

特にエンドユーザーである人間を軸にした共感によるアプローチは、生身の人間のためにデザインしているという事実を忘れないためにも重要だと協調しています。共感とは、他者の目を通して体験を捉える能力のことです。

デザイン思考の身に付け方

本書を読んで得られた一人でも活用できるデザイン思考の身に付け方をまとめます。

・着想の身に付け方として、意識的に新しい体験・見知らぬ環境に飛び込む。
・物事の中に「意味づけ」を見つける。すべてのモノの背後には意図がある。
・どうすれば顧客の待ち時間を減らせるか、ではなくどうすれば顧客の感じる待ち時間を減らせるかという疑問に置き換える。
・アイデア出しと実験を素早く行う。アイデアをすばやくラフという形に落とし込み、繰り返し試作を多く作る。
・ひとつのアイデアに力を入れすぎず、完璧主義に陥らない。
・実践の中でしか学べないことが多いので、一つのサイクルを短くして何度も試行する。
・オンラインフォーラム、知恵袋などに注意を払う。人々の疑問を知る。
・自分でカスタマーサービスを試してみる。どういう流れで企業がユーザーと付き合い、サポートが回っているかを知る。
・自分と違う専門家と話す。自分の知っている業界以外の人と会う。
・実際に自分の商品が売られている店や展示会を視察する。観客のボディーランゲージを注視する。
・ユーザーにインタビューする。

クリエイティブな力を伸ばすために日頃から心がけたいこと

・クリエイティブになりたいと決意する。意識がなければ始まらない。
・旅行者のように新しい視点で周囲のモノを眺める。自動運転で日常をすごさず、見慣れたモノを再発見すること。
・リラックスした注意を払う。夢想、ぼーっとする感覚。アイデア、記憶、体験同士を結びつける。朝の夢うつつの時間帯、夢の内容をメモする。
・散歩をする。
・実際に売られる現場に行って観察する。
・自分が既に知っていると思い込まない。
・「なぜ」ではじまる質問をする。
・問題の枠組みを捉え直す。リフレーミング。前提となっている枠組みそのものを疑ってみる。
・心を許せる仲間のネットワークを気づく。年下年上関係なく人から学ぶ。
・新しい情報源を探す。普段接している情報の質を変える。
・小さくて実現可能性が高い目標を持つ。

クリエイティブな解決例

本書ではスタンフォード大学の「dスクール」の事例が数多く取り上げられています。ここで、いくつかの実例をまとめてみます。

子供がワクワクするMRIの例

子供を怖がらせないMRIの例

MRIという画期的な発明をしたのはいいけれども、子供が機械の前で泣きわめいたことにショックを受けたことがきっかけとなり、無骨で怖がらせるMRIを子供が怖がらないように海賊船にして子供でも楽しく入れるMRIの例です。

途上国で使える低価格な保育器の調査とデザイン

embrace infant warmerはデザイン思考の成功例の一つ

世界の幼児死亡率の高さは低体温が原因。それを改善すべく、これまでの高価なベビーウォーマーの部品を少なくして安価な素材でつくったベビーウォーマーを作成した。実際に現地に行き、医者ではなく当事者の母親に向けて開発された。

嘗めやすいアイスクリームスクープ

アイスをすくった後、嘗めやすいアイスクリームスクープ スイスのチリス社

 
アイスクリームをすくう専用のスプーンであるスクープ。アイスをすくった後あまりにも多くの人がスクープを嘗めていたので、嘗めやすいアイススクープというデザインが生まれた。

他にも本書ではニュースリーダーアプリの「Pulse News Reader」などがデザイン思考の成功例としてあげられています。

週末のために働かない

本書では労働に対しての記述もあります。お金のために働くのではなく、ハートで働くことが重要だと強調しています。

他人が付ける価値ではなく、自分自身が自分の仕事をどう考えるか。

そして、「フロー体験」が得られる仕事をするのが最善とのことです。

毎日に点数をつけ、最高の気分だったのはいつだった?仕事にもっともやりがいを感じたのは?と自問自答する方法が紹介されています。(これに関しては以前まとめた一日再構成法の記事が参考になると思います。「一日再構成法で自分が本当に必要な行動が見えてくる。」)

本業以外の活動を試してみるのも有用で、「良くは見えるけれど、良いと感じられない」立場や仕事から抜け出すことが大事だと指摘しています。

総評

満足度は50%です。2人の共著であるからか、同じ事を何度も繰り返し冗長に感じる箇所が多いです。また、抽象的な話が多いことに加えて、大企業の例が多く、個人で実現できるイメージが沸かないのもマイナスポイントでした。内容がスタンフォード大学の「dスクール」を元にしているため、「dスクール」に興味がある人にはお勧めできますが、「dスクール」に興味が無い人にはdスクールの宣伝本みたいに感じるかも知れませんね。

本書は分厚いですが、大事なメッセージは極めてシンプルです。「人間本来のアイデアを思いつく能力と、アイデアを行動に移す自信を持つ事」これがすべてです。キャロル・デュエックの「マインドセット」やアルバート・バンデューラの「自己効力感」、チクセントミハイの「フロー状態」からのいいとこ取りや、その他クリエイティブに関して浅く広く知識を学べる感じです。

自分の実生活にどう応用していくか意識して読まないと、「なんとなくクリエイティブなことはよいことなんだ」と抽象的な議論で終わってしまいがちです。今回のまとめで重要なエッセンスは全部まとめましたが、それでもちょっと漠然とした感はあります。

イノベーションや新しいアイデアを閃くことは楽しいものなのに、創造力を発揮できる人は少ないです。これは日本で暮らしていて生活していてもすごく実感出来ます。その背景には自信が無いことが本書で指摘され、「人はみんなクリエイティブであり、誰でも開花するのを待っている無限の創造性を秘めている」というメッセージは素晴らしいと感じました。

色々と書きましたが、「クリエイティブ」と「自信のなさ」に関して扱った本は初めてだったので、読んで良かった本でした。参考にしてみてください。

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参考

IDEO (著者2人が設立した会社) Wikipedia

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