「自己信頼」はアメリカの哲人で思想家のラルフヴォルドーエマソン(1803-1882)が著したエッセイの一つです。とても短い文章に自分を信じるための言葉が凝縮されており、読むと心の奥底から力が湧き上がってくる一冊です。ちょっと宗教的、哲学的で堅めな文章ですが、噛みしめて読んでみる価値はあります。
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真理は自分の中にある。付和雷同な生き方はやめて、自分自身に従え。
人は誰もが幼い頃は自分を信じることが出来ていました。自分に正直に、自分を拠り所に生きていました。しかし、大人になるにつれ、だんだんそれができなくなる人も出てきます。世の中には自分に自信がなく、つい他人や世間の評価に流されて生きてしまっている人も多いと思います。
本書は世の中の真実というものは自分の内にあり、徹底して自分の内面で見出した真実を拠り所とすることを強く主張しています。わかりやすく言い換えれば、人は誰しもが自分の内面に、自分を正しくガイドする心のセンサーを持っていて、自分の心の内面にかすかに聞こえるその心の声に耳を傾け、それを拠り所にすることができれば幸福な人生が送れるといいます。
誰もが自意識という心の牢獄に囚われているので、いかにそこから自分を解放するか、が重要です。
一貫性の原理よりも、その時自分が感じたことが真実
印象的なのが、その時その瞬間に自分が感じた考えが真実という見方です。一貫性は記憶の屍であり、過去の姿に縛られる必要はないと。
「いま考えていることを断固として語りたまえ。そして明日は、たとえ今日いったことのすべてと矛盾していても、そのときに考えていることを断固として語るのだ。」
私たちは一貫性を好む生き物で、矛盾しないように振舞おうとしますが、エマソンの考えではたとえ矛盾が起きてもいいから今その瞬間に感じ取った自分の内面の考え(心の態度)を信じよ、と説いています。
自分の内なる声に従い、自分に正直に生きる。エマソンの思想は個人主義、自己啓発の源流となった。
エマソンの個人の内面を信じ、自分に正直に生きることを是とする主張はアメリカの個人主義や自己啓発の思想に大きく影響を与えたといいます。
ただ、何もエゴイスト(自己中)になるのではなくて、真に自立的な人間となり、自分の仕事に従事していれば誰もが平穏で幸福になれる、ということです。
「自分の仕事にまごころをこめ、最善を尽くすなら、心は安らぎ、晴れやかになるが、そうでない言行からは心の平安は得れない。才能にも見捨てられ、創造も希望も生まれないだろう」
真に自分を信じている人の言葉からは説得力が生まれます。自分を持っている人は、個として自立した存在になり、他人や世間に流されることなく、自分のするべきことに集中できるようになります。
書評:詩的な文章に込められた自己信頼のエッセンス。自分を信じ、自分に軸を持つために。
自分に自信が持てない、自分の意見が主張できない、つい自分を卑下してしまう…そんな時に読む言葉のサプリとして有効な一冊です。
エマソンは牧師をしているなかで、当時の教会制度に疑問を持ったそうです。東洋の哲学や宗教を学び、己の中に真理(神)を見出す姿勢は、時代背景を考えるとかなり過激な主張をしていたことになります。
今の時代は、SNSやインターネットで常に他者と自分を比較してしまいがちです。そんなとき、エマソンの自分の内面を信じよと説く自己信頼の言葉は、自分の現状を受け入れ、前に進むための心の活力をもたらしてくれるものだと思います。
■「自己信頼[新訳]」ラルフ・ウォルドー・エマソン (著), 伊東奈美子 (翻訳) 海と月社 (2009/1/26)
■原著「Self-Reliance and Other Essays」Ralph Waldo Emerson (著)