今回はPhotoshopの2Dコンセプトアートの包括的な知識を学べる「Photoshopで描くキャラクター」をまとめ&レビューします。初心者や初学者でも分かりやすく、内容も丁寧で2Dのコンセプトアートに興味があり作ってみたいと思う人にはとてもお奨めできる良著です。
◆書誌情報
「Photoshopで描くキャラクター -身体構造、構図、ストーリーテリング、ワークフロー」
3DTotal.com (著), 高木 了 (編集), 倉下 貴弘(株式会社スタジオリズ) (翻訳), 河野 敦子 (翻訳)
ボーンデジタル 2016/1/22
目次(Contents)
コンセプトアートにとって重要なこと
コンセプトアーティストにとって「ストーリーの牽引力」と「キャラクターのリアリティ」は常に意識しなければなりません。
デザインを始めるにあたって最も必要なのがコンセプトです。キャラクターデザイナーにはクライアントが望むものを実現させるのと同時に、自分のビジョンとアイデアをいかに効果的に伝えるかが重要になります。
資料となる画像を集めたインスピレーションボードやムードモードを作成することが創作活動を助けます。
パソコンで制作を続けていくとどうしてもCGっぽい作品になってしまいます。真実味のあるキュラクターを作りたいのであれば、作品のコンピューターらしさを取り除かなくてはいけません。そのためにテクスチャを活用します。
一般的に人間の目はコントラストを好みます。ペイントする時に小さく不完全な部分を入れておくことで現実世界の特徴を模写できるようになります。わずかなホコリやかすり傷を加えることでCGの完璧さを崩していきます。
人物・キャラクターづくりのヒント
形状はまず最初に注目される要素なので正しく描くことが重要です。キャラクターのシルエットは重要な工程です。良いシルエットは意図が読みやすく、キャラクターが生み出す視覚的な特徴が一目で伝わるものです。良いキャラクターはシルエットで簡単にそのキャラだと認識できます。
小さなディテールよりも省略と強調でシンプルさを追求します。ストーリーを伝える上でどんな特徴が必要か?何を省略できるのか?を常に考えます。
最初はライティングを意識しながら白黒で描き始めます。
キャラクターデザインでは自分のアイデアに自信が無ければデザインを別のスタイルに変化させることでスランプを突破できることがあります。コミック風、子供の絵風、風刺画などにしてみます。何か一目見ただけでそのキャラクターだと認識できるアイコンが作れることが理想です。
一枚絵は全て鑑賞者の頭の中でストーリーが始まります。
基本形状が持つメッセージ性を意識します。
○丸:丸みを帯びた、柔らかい、親しみやすい、善良 例:ドラえもん、アンパンマン
■四角:安定性、信頼性、強さ がっしりとした感じ。静的な印象 例:ドッスン(スーパーマリオ)
これらの基本形状を組み合わせてキャラクターを作っていきます。
人物は7~8等親が基本です。アンドリュー・ルーミスの「優しい人物画(Amazonリンク)」が参考になります。
キャラクターにもパースがあります。人体は円柱で捉えていきます。また頭蓋骨をよく研究することはとても重要です。
性別に説得力を持たせるための要素を意識します。
・固い栓、角張った形、岩を彫刻したような顔立ち、しっかりした顎の輪郭、四角い顎先、ゴツゴツと角張った面
・ボサボサの眉毛
・繊細で丸い顔立ち、全体的になめらかな曲線
・細い眉毛
・メイク、ふっくらとした唇
視線も重要です。目は口ほどにものをいいます。興味、関心、恐怖、悲しみ、威圧感などキャラクターの感情を表現出来る上に、絵に物語性を与えられます。特にカメラ視線のキャラクターは見る人にとって感情移入しやすい対象として写ります。アイコンタクトを意識するポートフォリオを作ってみましょう。
体型のステレオタイプを活かすことも考えてみます。一般的にガリガリな人は神経質で厳しそう、太った体型の人は優しいけれどどこかずぼらな感じがします。こうした一般通念を作品に盛り込みます。シンボルやアーキタイプを活用しましょう。
亜人(デミ・ヒューマン)など動物と人間を組み合わせたキャラクターは人間と同じ要素が多ければ多いほど共感を持ち、親しみを生みます。エイリアン的なキャラクターは人間が持たない要素を強調して取り入れると気持ち悪く、おどろおどろしさを出せます。
キャラクターデザイナーはステレオタイプや固定観念を活かすことが重要になります。全ては見る人の頭の中でストーリーが起こっているのですから、アーティストは鑑賞者の過去の体験の扉を開ける作業をしていることになります。個性を出したいからと行って人類共通のステレオタイプから逃げようとせずに、それを盛り込んだ上で独創的な自分の作品に活かします。
デザインのヒント
要素で考えてみます。例えば、ヒーローならそのキャラクターをヒーローにみせるものはなにか?悪役ならそのキャラを悪役にしているものはなにか?を考えてみます。
装飾品や服装もキャラクターに意味づけをする要素です。衣服で職業が伝わります。歴史的観点や民俗学的な視点から色々とリサーチしてみましょう。服装デザインについては、その服の成り立ち、歴史を知ることが制作に役立ちます。
キャラクターを引き立たせるにはコントラストをつけましょう。魅力的な要素を持つキャラクターであれば、一方で相反する厳しい面の要素をアクセントとして組み合わせると一層魅力が引き立ちます。
頭の中で役者になることも良いエクササイズです。悪役ならどういう生活をしているか、頭の中でそのキャラの役になりきってみます。屈強な戦士なら実用的で扱いやすい武器を持たせる、詩作に励んでいる王宮騎士なら豪華な装飾品ばかり身につけている、などキャラクターを特徴づける要素を考えてみます。
構図
構図ではシンメトリー性・対称性の要素が動きや面白さを生む要素です。
手のポーズにも表情があることを忘れてはいけません。人体の中で手はかなりの感情表現が出来る部位です。非言語のボディランゲージやジェスチャーを活かしましょう。
黄金比も素晴らしいものですが、最初は直感に従い、見直す時に黄金比を意識するようにします。興味の中心や、魅力のポイントを意識して絵の中に配置します。
ポジとネガ(余白)の2つの空間の形を意識して画面構成をしてみましょう。その際非対称性がコントラストを生みます。
髪の毛の描き方
髪の毛は塊で捉えることが重要です。彫刻の技法が参考になります。髪の毛はそれ自体が主張し、物語性を持ちます。
完全に収まった髪型はなく、髪の流れや塊から外れた髪の毛が必ず存在します。こうした「外れ髪」を再現すると作品に説得力が出ます。
共通
・リファレンスは必ず使いましょう。数多くの写真を見て、必要な要素を取り入れます。
・パーティクルという粒子状の効果を入れると雰囲気や大気感がでます。
・リファレンスこそインスピレーションの宝庫です。
・コンセプトアートはアイデアを伝える事です。しっかりとアイデアや問題点を言語化していつでもチェックできるようにします。
・入念な下調べはとても重要なステップです。
・リファレンスがなく、想像で描く場合は骨格作りから始めます。
・毎日少しでも練習すれば描画テクニックが向上し、視野も大きくなります。
色彩の効果を確認する
まずは白黒で始め、明度を正確に表すところから始めます。これは肌の色や色温度に惑わされないためです。
そして支配的な明度を意識します。バランスを取るよりも、強調や不均衡を作ると面白くなります。
基本の明度を設定してからカラースキームを作ります。色の組み合わせは季節の色を参考にするのがいいでしょう。
光は人の視線を集めるのに効果的で、物語性を生む要素です。
髪の毛などは暗い部分から明るい部分に順に作業します。髪の束を乗せていく感じです。
身体はそれ自体がボリュームを持ちます。しっかりと明暗でボリュームを出していきます。
赤:魅力的、エキサイティング、注意喚起、熱く攻撃的で官能的、燃える炎、戦争、毒
オレンジ:人目を引く、暖かさ、楽しさ野心、高エネルギー、若さ
黄色:楽観性、幸福、日光、暖かさ、蜂などの警戒色
青:クールで遠く離れた印象、空、大気、水、静けさ、悲しさ、寒さ
緑:自然、健康、成長、落ち着きとリラックス、若さ、初心者
紫:寂しさ、尊厳、崇高さ、異世界
最も明るい色と暗い色注意を払います。明暗の幅を意識しながらハイライトや影を設定します。
Photoshopテクニック要点
以下Photoshopテクニックのまとめです。
・低解像度から高解像度にはできないため、最初は大きくキャンパスを取る。大きく作業してから縮小すると細かいアラがとれる(幅600px、高さ800pxならその2倍で作業して戻す)。
・アクションの登録でよく使うツールへのアクセスを早くする。普段から必要とする手順のアクションをショートカットキーに割り当てておく。
・キャンバスを開いたら新規レイヤーで描き始める。
・白い領域を取り除き、黒い線画のみを残すには「乗算」レイヤーモードにする。(スキャンした線画を取り入れるときなどに使用する)
・中間色の背景を塗ることで明るい色と暗い色の両方の色で作業するための下地が出来る。
・光源と光の方向を意識する。
・リアルなテクスチャを取り入れてCG臭さを消していく(革の写真などテクスチャには何でも利用できる)。
・レイヤーの描画モードで画像を合成する時の馴染み具合を調整していく。
・テクスチャに写真を使うことは最も簡単な方法。さらにそこにブラシで表面の微調整を行う。
・カスタムブラシとテクスチャつきブラシを使って作品に生命を吹き込んでいく。
・キャラクターデザインで最も役立つのがシンプルなハードエッジブラシ。キャラクターの基本形状に集中できる。
・ブラシの不透明度の調整には常に「筆圧」を利用する。
・肌はボリュームと形状の上にある層。立体として物体を描くようにペイントする。
・肌をソフトブラシで塗ろうとして、ぼやけて形のはっきりしない感じで行き詰まるのはよくある失敗。
・絵から生き生きとした感じがなくなるのはソフトブラシの使いすぎかもしれない。
・カスタムブラシで質感を出していく。ブラシパネルのテクスチャオプションを活用する。
・リファレンス写真からカラースウォッチを作成するために役立つテクニックの1つがモザイクフィルター。カラーピッカーを開き、色を選ぶ。カラーテーブルのファイル形式を使う。
・わざと色を反転させ写真のネガのような効果を与えてみる。最もコントラストの大きい色が得られる。
・自由変形でプロポーションを変えてみる。
・左右の反転を時々行う。
・非破壊的に作業する。
・肌に質感をつけるにはノイズフィルターを使う。
・髪の毛の部分と顔のレイヤーは分ける。
・ヒストグラムは明度ごとのピクセル数を表す。完全な白や黒はほとんど無いようにすると自然な仕上がりになる。
・「焼き込みツール」、「多い焼きツール」で明暗のコントラストをつける。
・ノイズをかぶせると絵が自然な仕上がりに。しかしやり過ぎないように。
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Photoshop用の無料プラグイン 色相を分かりやすく管理、アクセスできる
気に入った作例ベスト3
以下は私が気に入った作品です。
19世紀を舞台にした勇ましいキャラクター
錬金術師
戦士エルフ
ほかにも商人、ピエロ(道化師)、砂漠の民などがあります。作例がどれも良いので選ぶのが難しいところでした(この3点以外では黄金比のページの女性やキャラ設定の解説ページの戦士の絵はかなりいいです。)。多種多様なコンセプトを持ったキャラクター制作の過程を1から学べる良書ですね。
総評
作品例 ★★★★☆
読みやすさ ★★★★☆
有益性 ★★★★★ ★★
お奨め度 ★★★★★ ★★
満足度 100%
とにかく初学者に寄り添った丁寧な解説がウリです。私は3DCG関連の技術本を読んで打ちのめされていたのでことさら本書の丁寧な解説に心を打たれました。利用者の数も影響しているのでしょう、全体的に3DCG関連本は業界関係者以外お断り的な本が多く、2DCG系の本はPhotoshop人口も多いため丁寧で初心者向きの本もかなり出版されている印象です。
ブラシの設定に関しての記述も豊富ですが、ブラシは習うより慣れろの部分が大きいですね。あとはリファレンスはやはり重要。私は昔、絵のプロは頭の中のイメージだけで何でも描いてしまえるんだ、と思っていたのですが、説得力のある絵を描くプロほどリファレンスを活用して作品を作り上げていることが分かります。
この本を読んで何が一番良かったのかというと、普段接するキャラクターたちを要素に分解して見る観察眼がついたこと。要素を分析することで作品の意図が読み取れ、美術で必要な造形力が全体的に高まった感覚を得ました。ただのテクニック・チュートリアル本にはないアートの理解を深める要素がたくさんあるので、コンセプトアートに興味がある人は是非手に取って見る事をお奨めします。