作業環境がデジタルから人体に変わっても変わらない知識、それが解剖学です。本書は粘土造形を通して人体の構造や筋肉組織の動きを学んでいける良著です。美術解剖学に関しての本はいくつか読みましたが、今回の本はかなりアタリでした。粘土造形を全くしない人でも人体の構造を知るという意味では他の美術解剖学本よりもむしろ有益ではないかと思います。
ミケランジェロは2次元の平面しかない絵画よりも、3次元の立体造形を好んでいたといいます。本書で粘土造形について学ぶことは絵のスキル向上にも役に立つでしょう。
◆書誌情報
「フィギュアスカルプティング 粘土で作る全身像:アナトミーと面からの構築」
フィリップ・ファラウト (著), 平谷 早苗 (編集), チャリシー・ファラウト (その他), Philippe Faraut (その他), Charisse Faraut (その他), 株式会社Bスプラウト (翻訳)
ボーンデジタル 2016/12/20
目次(Contents)
要点のメモ
・石膏像は光でボリューム感を確認しやすい。
・造形で重要なのが、人体の特徴を示すランドマークを見つけること。ランドマークとは身体の表面の特徴のこと。骨の出っ張りなどを見つける。
・標準的、理想的とされる原則の比率を覚えてしまえば、あとはそこからのズレで対応できる。
・平均的な成人は206個の骨で構成されている。
・繊細な人体を目で捉えるためには、基本の形に置き換える。四角形、三角形、円形、円筒形、卵系etc
・その膨らみのボリュームは骨なのか、皮膚なのか、脂肪なのか、腱なのかを意識する。
・その形に対してどのような形容詞が当てはまるかを自問します。ふっくら、ゴツゴツした、尖った、ソフトな、たるんだ、まっすぐな、しっかりとしたetc
・他ここでは書き切れない圧倒的な量の粘土造形&解剖学の知識。
気に入った作例ベスト3
トルソ(胴体)
全身像
色んな顔
総評
作品例 ★★★★★★★★
読みやすさ ★★★★★★
有益性 ★★★★★★★★★☆
満足度 103%
私は粘土造形をしていませんが、充分に有益な本でした。大量の図版と親切な解説により、本書に出てくる作例を全部模写すればかなり美術スキルが向上しそうです。私は美術解剖学の本のように使いましたが、粘土造形の入門書としても良書だと思います。3DCGで人体を形成したい人にも得るものが多いでしょう。かなり詳細に、全身くまなく解剖学的な知識を踏まえた作品形成の手順が図版&解説されています。
本書は全編モノクロですが、それは色による先入観を外すためあえてそうしているそうです。グレースケールの方が明暗だけを意識してボリュームや形を取りやすくなります。表面的なテクニックではなく、美術の本質的な部分を扱うため腐ることがない知識を得られます。ちょっと値段はしましたが、買って大正解でした。ずっと大切に愛用していきたい本です。
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