「ファミコンに育てられた男 」フジタ著 読了 両親からの愛情がなくともファミコンがあれば人は育つ

ファミコン芸人フジタさんの本を読了しました。フジタさんはサンドウィッチマンが運営する事務所グレープカンパニー所属の芸人さんです。私が彼のことを知ったのは2017年初頭。Youtubeの動画でゲームを自宅に収まりきれないほど収集するその様子やファミコンを実機でプレイして解説する芸風に興味を持ちました。フジタさんのイベントに参加して実際に会ったことも1度だけありますが、とても親切でサービス精神旺盛な芸人さんでした。この本はファミコンに育てられたというフジタさんの生い立ちに迫った本で、ファミコン世代、レトロゲーム好きな人には共感できる内容です。普段の明るい芸風とは違った、かなり悲惨な幼少時代の話から、両親からの愛情を受けずにファミコンに育てられたというリアル人間ドキュメントです。本が届いてから、一気に引き込まれ読み込んでしまいました。

◆書誌情報
「ファミコンに育てられた男」
著者 フジタ
双葉社 2018/6/20 ISBN-13:978-4575313673

母を亡くし、父親から見捨てられた子供時代

今は人を笑わせる芸人という職業についているフジタさんですが、ここに行き着くまでに様々な紆余曲折があったとか。その中でも本書のプロローグとエピローグにある壮絶な幼少期の話は深く心に刺さります。幼稚園を卒業して、ファミコンをしていたときに母親が脳の病で倒れ、そのまま帰らぬ人に。父親は事業をしており、お金はあったものの、フジタさんの同級生の母親に夢中になり、全くフジタさんの住む家には帰らないようになってしまいました。フジタさんはお金だけを渡され、自分の好きな物は買える生活でしたが、父親が家に帰ってこないためにずっと大きな家に子供ながらも独り暮らしをすることになったとか。そんな中で唯一フジタさんを支えたのがファミコンでした。ファミコンに夢中になることで、誰も居ない夜中の孤独感や、ファミコンに上達することでクラスメイトたちからの賞賛を得て自信やアイデンティティを育んでいったのです。

子供の思考は恐ろしい物で、あるときフジタさんは自分の父親を奪った同級生を刺殺しようと包丁を使った計画を立てます。一緒に食事をする機会を伺い、リュックに包丁も忍び込ませて玄関に配置して準備を進めていたのですが、ちょうど決行日に友達がフジタさんの家に遊びに来て、フジタさんの「スーパーマリオブラザーズ2」のプレイをべた褒めします。「すげー!」「超うまい!」「フジちゃんはゲームの天才だよ」、と友達に褒められたフジタさんはヒーローになった気分で、自分の秘めた才能や可能性を確信できたとか。その後、フジタさんは自分でもよく分からないままにリュックから包丁を取り出し、同級生を殺すという殺人計画を思いとどまったのでした。

ファミコンは家族

現在のフジタさんは同じソフトを何回も購入し、自宅や倉庫に収まりきれないほどのゲームや関連グッズを収集しています。そのため月々30万円ほど維持費がかかり、借金もしています。Youtubeでゲームが至る所に詰められているフジタさんの部屋を見たときはエンタメとして軽い気持ちで見ていましたが、本書を読むとなぜそうなるに至ったのか、ファミコンに執着するのかが分かります。フジタさんは自身の購入したゲームソフトを家族のように思っており、月々かかる費用は家族を養う養育費であると述べています。

もちろん、所有しているゲームの中には状態が悪いものやダブりもたくさんある。それなら、これらを整理して本当に必要なものだけにすればいいと思うかもしれないけど、僕にはそれが出来ない。リサイクルショップで10円で買い叩かれて、誰にも買われずにワゴンにずっと置かれていると思うと、カセットが不憫でならないからだ。

満足度100%

プロローグから一気に引き込まれ、エピローグで心にズシンときました。本の大半はファミコンタイトルごとにフジタさんの思い出や語りが入る形式ですが、このプロローグとエピローグの内容はすさまじい。私自身はファミコン世代ではなく、家や親戚にファミコンを所有している人もいなかったためファミコンの知識は疎いのですが、全く問題なく読めました。幼い子供にとって、母親の存在がどんなに大事か。フジタさんにとってはファミコンが母親の代理であり、愛情や社会的人間関係を構築する上で支えになったのでしょう。

実は私も10代のころは対人関係も学業も全くといっていいほどうまくいかず、ずっとゲームばかりしていました。理不尽なこと、自分の力ではどうにもならないことも多かったのですが、苦しいときもゲームがあったから乗り越えられたと今でも思っています。フジタさんは私なんかとは比べものにならないつらい人生を送っていますが、私と同じくゲームに育てられたところがあるので、心の底から共感しました。現在のフジタさんの生き様も自分の大好きなゲームを芸に活かし、コンテンツ化しています。その生き様が素晴らしいし、ここまで悲惨な境遇下で育っても非行に走らず、ファミコンがあったからこそ生きてこれたというのは考えさせられましたね。フジタさんはファミコンなどレトロゲーム好きにはハマると思うし、ファミコンに疎い自分でもファミコンに興味を持つきっかけを提供しています。これからもファミコン芸人フジタさんを陰ながら応援していこうと思います。

関連記事

「どん底からでも人生は逆転できる」谷口愛 読了 まとめと感想
「顔に魅せられた人生」辻一弘(著) まとめ感想レビュー 特殊メイクアップアーティスト・現代美術家として生きた人生

参考・出典

ファミコン芸人フジタ Twitter 
ファミコン芸人フジタ(Wikipedia)
Youtubeファミコン芸人フジタのドキュメンタリー 前編
Youtubeファミコン芸人フジタのドキュメンタリー 後編

 
前の記事よく分かるPDCAサイクル
次の記事お金と不安の心理学 なぜ私たちはお金を貯め込み、無駄遣いしてしまうのか