【感想】「2030年ジャック・アタリの未来予測」思っていたより薄い内容。得るものは無かった。

「2030年ジャック・アタリの未来予測」思っていたより薄い内容。
21世紀の知性(?)と言われているジャック・アタリ(Jacques Attali)氏の「2030年ジャック・アタリの未来予測―不確実な世の中をサバイブせよ!」を読了しました。彼の本を読むのは本書が初めて。どうやら彼は政治や哲学、思想などありとあらゆる領域に通じているらしいです。未来についての深く啓蒙されるような知識が得られると期待しましたが…正直期待外れでした。元は2016年にフランスで書かれた本です(Vivement après-demain;日本語訳「明後日を生き生きと」)。

データを元に悲観的な現状とこれから起こる悲しい未来をツラツラ述べているのが大半。

本書の前半はデータに裏打ちされた悲観的な予測の羅列です。

人口爆発、文明国での高齢化、気候変動、環境問題、戦争・紛争問題、労働が機械に奪われる、悪化する食糧事情、富の格差と集中、テクノロジーの進歩による情報産業が国に匹敵する程の力を持つこと…などなど

著者曰く、「最悪な事態を予想する事が最悪な未来を回避するのにベストな事」なのだとか。人は易きに流れるため現在起こっていることや、これから起こる事態をどうしても楽観的に解釈してしまう。だからこそ辛辣な今起こっている世界の危機をしっかりと認識する必要があるのだといいます。

個人的に一番の問題だと感じたのは「人口爆発」ですね。人が増えすぎて、更に寿命も延びて地球資源の奪い合いになってしまう。

正直本としては世界に起こっている不都合な事実の羅列なので読んでいてつまらないし、読者としてそれを知ったところでどうなんだっていう状態がしばらく続きます。

「利他的であれ」理想論の限界

本書の後半になり、ようやく「どうすれば良いのか?」という回答が提示されます。

一つに自分への働きかけとして、自分の人生の終わり=死を意識し、自分の価値観や人生を真剣に考え、自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚する事が重要とのこと。そして複数の人生を継続的に生き、どちらか一方を選ぶのでは無く自己実現のためにあれもこれも同時並行に手を出していくこと、そして困難や批判、失敗や挫折といった危機的状況を乗り越えるための心のレジリエンス(回復力)を鍛えよう、といった内容です。

これに関しては自分の死を意識する部分については心に響きましたが、全体として薄っぺらい自己啓発本を読んでいる気持ちになりました。

もう一つが世界への働きかけで、これは一人一人が利他的な精神を持って、他者のための行動を意識することです。本書は「altruism(利他的)」な行動、個人が利他主義となって他者の幸せを願って行動することが、今の世界・今後の世界が抱えている問題解決の鍵だと主張しています。

これも理想論過ぎて、全員が全員利他的に生きるのは夢物語でしかなく、現実味を感じられません。あれほど長く悲観論を提示してきた最後に人の利他主義に期待する(そのための国がすること、教育がすること)、といった結論なので肩すかしを食らった感じです。

感想:悲観的な予測なんて誰だって出来る。もっと使える、心にグッとくる知識を期待していた。

本書で何が微妙かというと、読み進めていて全然ワクワクしないんですよね。ただ悲観的な事実の羅列を述べ、これから起こる未来についての恐れを抱かせる。で、何をすれば良いのかと言えば、みんながみんな利他的に生きることを意識するって…。みんながみんな利他的に行動することが世界の問題を解決する鍵というのは分かったけれど、全員が利他的に生きるなんてとても不可能です。自分と未来は変えられるが他人は変えられない。

同じ未来予測の本では、以前ブログでもまとめた「〈インターネット〉の次に来るもの」の方が断然良いです。こちらは軸に楽観性があり、読んでいてこれから起こるテクノロジーや未来の変化にワクワクすることができます。本書は同じ未来予測の本でも読後感が悪い…。地球規模で起こっている悲観的な事実ばかりが予測されていて、これを読んだ個人が出来る事はあまりにも少ない。

本書の副題は「不確実な世の中をサバイブせよ!」ですが、本書を読んでも具体的にサバイブ出来るようにはなりません!ただ、これまでよりちょっとは利他的になろうかな、と思うぐらい。それならワクワクする未来予測を読んで、未来への希望を持ちながら自分が社会にどんな価値を提供できるか考えた方が良いと思いました。楽しい未来を想像した方が行動出来る人の方が多いのではないでしょうか?

悲観的な予測なんて生物学的にネガティビティバイアスを持つ人間なら簡単にできます。一読者としては、こうした現状を21世紀の知性と言われる人がどのように解決し、明るく前向きな行動に繋がる提案をするのかを期待していたわけで。

一つ本書が使えるなと思った点は、今現在世界に起こっている危機や問題点が一覧のように並べられているので、辞書的に危機や事態の悪化を眺めたいときには便利かもしれないですね(小説や脚本、舞台設定などの創作に活かせるでしょう)。私はkindleで買ってパラパラしにくいので、地球に起こっている危機一覧を辞書的に使いたい人の場合は紙の本の方がいいでしょう。

この本を読んでも何か具体的な行動が起こせる訳でもなく、起こる気にもなりません。未来に対しての厭世観が強まるだけなので、生きているだけで精一杯な人やただでさえ心配性な人は無理して読まなくても良い本です。

 
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