【書評・感想】「 岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。」 優秀なプログラマーであり経営者、そして人格者である岩田さんの言葉が詰め込まれた素晴らしい一冊。

【読後 感想】「 岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。」 人格者である岩田さんの言葉が詰め込まれた素晴らしい一冊。

ずっと楽しみにしていたほぼ日刊イトイ新聞の「岩田さん」を読了しました。本書は任天堂の社長を勤めた故・岩田聡さんの言葉をまとめたものです。まとめたのはほぼ日刊イトイ新聞を運営するコピーライターの糸井重里さん。

糸井重里さんと岩田聡さんは「MOTHER2」の開発で出会い、以後糸井さんの運営する「ほぼ日」でも立ち上げ時からお世話になってきたそうです。そのため、糸井さんは岩田さんの言葉を聴く機会が多く、本書の内容はほぼ日刊イトイ新聞でまとめられた岩田さんのコンテンツの中から岩田さんの言葉をまとめたものになります。

私としてはこうして本という形にまとめてくれたことが何より嬉しいし、発売が決まったことを知って直ぐに予約しました。届いてからは心に染み渡るようにじっくり、ゆっくりと読み進めました。自分の仕事に関して何か迷いを持っている人、自分の得意とは何だろう?と迷っている人には是非お勧めしたい一冊です。

MOTHER2
MOTHER2は糸井重里さんと岩田聡さんが最初に出会ったきっかけとなるソフト。4年以上頓挫していた開発を岩田さんが来てから半年ちょっとでリリースまで持っていったらしい。©Nintendo

 

なぜ岩田さんが気になるのだろう?

考えてみると、私と岩田さんは任天堂の新卒会社説明会で岩田さんから直に話を聞いたことぐらいしか接点はありません。でも、心の支えとして岩田さんのことはずっと残っていました。もともとは任天堂という会社に興味があって、その流れで私は岩田さんのことを知ったのですが、任天堂の「社長が訊く」コーナーだったり、ほぼ日に掲載された岩田さんのコンテンツを読み込んでいくうちに、仕事を進めていく上で大切な事を彼から教わった気がします。私が尊敬する人物を誰か一人挙げるとするならば岩田聡さんの名を挙げるし、それは本書を読んで確信へと変わりました。

岩田さんから仕事観を学んだ。ご褒美回路と人が喜んでくれることを軸にすることについて。

岩田さんから最も多く学んだのが仕事観についてです。多くの人は自分に向いた仕事って何だろう?って一度は考えると思いますが、当時自分のするべき仕事で悩んでいた私にとって、岩田さんのいうご褒美回路という考えは非常に参考になりました。

ご褒美回路とは、他の人が苦労することが、自分は難なく出来てしまう。むしろ出来るようになるまでの過程が楽しいし、嬉しいと思う感情のこと。この感情が持てる分野があなたの得意な分野であり、向いている仕事という事になります。

例えば人と話すのが楽しいのであれば営業職が向いていますし、プログラミングだったら学習する中で何度も壁にぶつかるけれど、そうした苦労よりも分かったときや出来たときの喜びが強い人はプログラマーに向いています。

努力が努力ではなく感じる。むしろ他人からの承認が無くても、報酬が無くても、その活動をすることが自分にとってのご褒美であると感じる分野をいかに見つけるか。

これに加えて誰か人の為になっているという視点が入ります。自分が苦労を苦労と思わない分野で誰かの役に立てること。それがその人に向いた職業で、自分の得意を活かし、苦手を自覚して誰かの役に立つことが重要という教えはずっと私の心に残っています。

「自分たちは、何が得意なのか。
自分たちは、何が苦手なのか。
それをちゃんとわかって、
自分たちの得意なことが生きるように、
苦手なことが表面化しないような方向へ
組織を導くのが経営だと思います。」(本書41pより引用)

人は自分が何かをしたことへのフィードバックによって動く

ゲーム作りの話では、フィードバックについての岩田さんの考えが述べられています。この話はゲームに限らず、経営でもどの分野にも応用できると私は思っています。

「人間って、自分がしたことに対してフィードバックがあると、それによって次の動機が生まれるんですね。逆にいうと、フィードバックのないことって続けられない。人は、フィードバックというご褒美を得て動いているんです。ビデオゲームの世界は、それを逆に利用して、人間が何かするとフィードバックを返す、ということを基本にしている。そのときのフィードバックにも、快適なフィードバックと、快適じゃないフィードバックがあってそれをどう混ぜると人はそれを続けて、おもしろがったり、驚いたりしてくれるんだろう、と。そういうことをつねに考えながら作っているんです。」(本書171pより引用)

最初は自分に向いていないと思い込んでいた仕事でも、他人からのフィードバックによっては、それが得意なこと、好きになる事もあるかもしれない。自分が何でこの活動が好きなのか?を具体的に言葉に落とし込むことによって、他の分野にも応用できる柔軟な視野が身に付きます。

良い意味で人を驚かしたいことがベースにある

岩田さんの良い意味で人を驚かしたい、という思いは社長になる前からずっとあったそうで、高校時代に電卓でプログラミングをして同級生が喜んでくれたことに始まり、HAL研究所の社長になってからも、任天堂の経営者になってからも続いている一貫した姿勢になっています。

「自分は、ほかの人がよろこんでくれるのがうれしくて仕事をしている。それはお客さんかもしれないし、仲間かもしれないし、仕事の発注者かもしれないけど、とにかくわたしはまわりの人がよろこんでくれるのが好きなんです。まわりの人がしあわせそうになるのが自分のエネルギーなんです。」(本書119p-120pより引用)

例えば、プログラミングで何か新しい仕組みやアイデアを世の中に提示すれば何かしらのフィードバックが返ってきます。出来る事なら、それは嬉しい驚きであって欲しい、という岩田さんの考えです。まわりの人に喜んでもらえること、これはどの職業にも共通する真理だと思います。

WiiUの失敗もあるし、当時の株主からは悪く思われてるかも知れないけれど…。岩田さんのことばからは真理に近い何かがあると思う。

本書は任天堂社長時代の岩田さんが生前語ったことをベースにしています。そのため、本書の背景にはWiiやDSが絶好調であったことがあります。その後WiiUで失敗して、当時の株主からは二枚舌だとか、色々と悪く思われているかもしれません(岩田さんが種をまいたNintendo Switchが日本で成功する前に岩田さんはこの世を去りました)。でも、彼のことばからは仕事をしていく上での真理に近い何かが学べると私は思っています。

自分に出来る事で、誰かの役に立てることを仕事にすること。
自分と付き合いがある人に対して敬意を持って接すること。
能力はあっても、決して他人を見下さないこと。

岩田さんのどこかやさしい、あたたかさを持った言葉からは多くの学びや気づきが得られます。岩田さんを知らない人でも得るものは大きいと思います。興味を持った人は是非読んでみてください。本という形で出版してくれたほぼ日に感謝!(最後の岩田聡さんの奥様から本書用に提供された写真は岩田さんの人柄が良く表れていて、ジンときました。)

 
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