【感想】「エンターテイメントという薬」エンターテイメントは誰かの生きる力となる。

【感想】「エンターテイメントという薬」エンターテイメントは誰かの生きる力となる。

エンターテイメントという薬」を読了しました。福岡にあるゲーム開発会社サイバーコネクトツーの松山洋社長が書いたもので、3週間後に全盲となる少年との感動エピソードが綴られています。エンターテイメント業界で働く人の励みとなる一冊です。

全盲となる少年のために大手ゲーム会社が動いた実話

もしあなたが3週間後に全盲となるのなら、何を望むでしょうか。

生まれながらに網膜芽細胞腫(目の中に出来る癌)を煩った少年が光あるうちに望んだもの。それはサイバーコネクトツーの「.hack」の最新作を遊ぶことでした。彼は乳児期に右目を摘出しており、残った左目だけでごく普通に生きていました。しかし、その左目に癌が再発。3週間後にはその残った左目の摘出手術を受けなくてはならない彼が下した結論は「.hack」の最新作を遊ぶこと。メジャーなドラクエでもFFでもなく、「.hack」を選んだことに松山社長は感動し、パブリッシャーのバンダイナムコも協力して彼のためにプルーフディスク(工場出荷前の試し焼きのディスク)をプレゼントしました。

人間味溢れる内容で、読んでいて気持ちいいです。大手企業が一個人のために動いたことが信じられないことですし、その背景にある人物の粋なはからいがあったことも面白い。なぜ少年が「.hack」を選んだのかその理由も後半に明かされ、「.hack」という作品が持つある要素が彼に生きる勇気を与えていたことが分かります。

一般的なルールやしがらみを破ってでも、誰かのために頑張ることってこんなに気持ちが良いことなんだ、と追体験するかのような読後でした。

ゲームの価値とは。生きるためには不要だけど、生きるための力となる。

エンタメ業界で働く人は、働いているうちに働く意味を見失ってしまうことがあるそうです。

ゲームは生活必需品では無く、無くても困らないもの。さらに、私たちの多くはゲームを時間の無駄、役に立たないものとして教え込まれます。日本ではネットでのレビューも辛辣なものが多いですし、クリエイターが面と向かって感謝される機会もそうそうあるものではないでしょう。

でも、本書を読むとゲームの価値について改めて認識させてくれるというか、ゲームやエンタメが持つ価値について再確認できます。ゲームをはじめとするエンタメは、豊かに幸せに生きるための勇気や夢を与えてくれるものである、と。

まとめ・書評 誰かの役になっていることがやりがいを生む

誰かのためになることを実感できることが仕事のやりがいや意味を生む。これってどの仕事でも言えますが、エンタメ業界ではなかなか実感出来ないことのようです。ゲームだって誰かの生きる力となっているし、私もゲームから何度も生きるエネルギーを貰いました。

文章はとても読みやすく、コンパクトにまとまっています。後半には少年のその後が書いてあるのですが、彼は同じ全盲の女性と結婚し、子供まで居るそうです。彼らの生い立ちや生活をみていくと、いかに健康で何不自由なく暮らしている自分が恵まれているかに思いを馳せます。そして世の中には自分の想像を遙かに超えた環境に直面する人がいて、そんな過酷な状況でも適応していく人間本来が持つ力に畏怖の感情を覚えました。

感動できるノンフィクションとして一読の価値はあります。

■「エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-」松山 洋 (著) KADOKAWA (2017/11/1)

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