「モチベーション革命」尾原和啓 まとめと要約 世代によってモチベーション意識はどう違うのか

AmazonKindleで「モチベーション革命」を読了しました。世代間で感じるモチベーションの違いについて分かりやすく書いてある本です。以前から私が感じていた「上の世代と下の世代とではどうしてこんなに働くことについて意識が違うのだろう?」との疑問が解決できる本でした。本記事ではこの本の白眉である二つの世代の対比の内容をまとめ、そこから何を感じ学び取ったかをまとめます。

書誌情報「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」 尾原和啓 幻冬舎 2017/9/27

「乾けない世代」と「乾いている世代」

この本は人のやる気であるモチベーションを扱っているのですが、世代によって大きく二つのグループに分けています。

不足ばかりの時代を生きた「乾いている世代」

乾いている世代」とは、かつて日本が貧しかった時代、まだなにも無かった時代を生きた世代です。高度経済成長期を生きた世代とも言えます。この世代の人々は、自己成長と社会貢献がつながっていました。誰もが家や車が持てた時代では無く、娯楽やネットなどのインフラが社会的にまだまだ不足している「空白」部分が多くあった時代で、こうした世の中の空白部分を埋めるように仕事ができた世代です。この世代は仕事で頑張った結果としてのご褒美が分かりやすく実感できました。仕事に没入すればするほど収入が増え、テレビが買えて、冷蔵庫が買えて、エアコンも買えて、どんどん豊かになることが実感できました。

「乾いている世代」とは飢餓感と上昇志向、戦後の何もなかった時代に欲望と共に成功を渇望した世代であり、今自分に無いものをいかに埋めるかが最大のモチベーションでした。立身出世のためなら汗水垂らして頑張って、家族をも犠牲にして、高い目標を達成することに価値を置いていました。頑張れば頑張るだけご褒美が得られるので、頑張っただけの見返りがきちんと実感出来た世代でした。

「乾いている世代」のモチベーション
お金を稼ぎたい、広い家を建てたい、いい車を買いたい、異性にモテたい、おいしい料理が食べたい、など

この世代は自分たちが頑張ることでこの社会を支えているという自負もありました。自分のやりたいことを追求するよりも、むしろ自分がやりたいことなんて持たなくても、会社といった他者から与えられたことをまじめにこなして、人より良い結果が出せればそれで十分成功できた世代でした。

モノがありふれた豊かな時代に生まれた「乾けない世代」

乾けない世代」とは、モノがあふれ、何もかも揃った時代に生まれた世代のことです。この本が出版された2017年当時の30代以前の世代となります。既に上の世代が築いた土台があり、そもそも社会の中に「埋めるべき空白」がない世代です。この世代は「自分の時間」が何よりも大事で、仕事での達成や会社の中での出世よりも、身近な人間関係に幸せを求めます。なぜ家族や友人との楽しい時間を犠牲にしてまでやりたくない仕事を優先するのか分からないのです。

「乾けない世代」のモチベーション
仕事の意味合い、良好な人間関係、没頭できること、ハマれること、自分の時間、など

本書では「社会も経済も激変したのに働き方のルールだけは変わらない。それなのにこの世代は昔のような働き方を求められている」と指摘しています。これはまさに的を射た指摘で、この違いが分からない限り「下の世代はどうして上の世代があんなに一つの会社に縛られて自分の時間を犠牲にしてまで会社に奉仕する人生を良しとする」のか分からないし、「上の世代はどうして若い世代がすぐに会社を辞めたり、コロコロ転職しようとするのか分からない」ままになります。両者は生まれ育った時代が違うため、その時代を生き抜く心構え=モチベーションも全然違うのです。

このように「なんのために頑張るか」が世代によって違います。人間を動かすモチベーションというガソリンの形が変化しているのです。「やりがい」を社会が用意してくれた時代は終わり、これからを担う「乾けない世代」は自分にとって「何が楽しいのか、何をやりたいのか?」を常に問われ、自分で決めていかねばならない時代が来ています。

「偏愛」が価値を生む

では、これからの時代に価値を生むのなんでしょうか。本書では人の持つ嗜好性、すなわち「偏愛」がこれからの価値を生むとしています。機械化やAIなどの効率化が進む時代において、唯一AIに取って代わられないのが人間が持つ「偏愛」という感情です。この「偏愛」は機械から見れば非効率の塊であり、人間しか持つことが出来ない「こだわり・愛着」という感情です。

すでに世の中には必要最低限のモノにあふれています。世の中に足りないモノを見つけるのが困難なぐらい、あらゆるところで既に問題解決がされている状態といってもいいでしょう。こうした時代は体験に価値が出てきます。そして既存のモノに新しい解釈、見方を提示するインサイトが必要とされてきます。

「決められたことをひたすらやる」ことから「消費者の潜在的な欲求を発見し提案する」ことへ

これからの時代は人々が持つ潜在的な欲求を探し当てて、体験をプロデュースできるかが価値を生みます。こうした人々の持つインサイトをさぐり当てるのに「偏愛」が重要となってきます。

インサイトとは、消費者の行動や思惑、それらの背景にある意識構造を見ぬいたことによって得られる「購買意欲の核心やツボ」のことを指す。
引用:https://www.synergy-marketing.co.jp/glossary/insight/

例えば、iPhoneが世界を変えるほどのモノになったのは、iPhoneを使うことで自分の体験をシェアできたり、移動時間を自分の好きな音楽や動画で埋めたり、個人の普段の経験に「新しい意味」を与えることができたからです。スティーブ・ジョブズは携帯電話にただの電話という意味を超えた「新しい意味」を吹き込んだのです。既存のモノに「新しい意味」を加えることで、新しい価値が生まれたのです。

これからの価値は、ただ与えられたことをこなす仕事からではなく、「自分の好き」に没頭することから生まれてきます。好きなことに打ち込むことが、効率化の時代に人に残された大事な役割なのです。これからの時代は自分がやりたいことが分からない人は生きづらくなっていきます。好きなことに夢中で、いつも楽しそうな人のほうが魅力的になっていく時代なのです。

「好きなこと」を強みにして価値を生み出す。

好きなこと」に打ち込むことがなぜ価値につながるのでしょうか。それは自分にとって好きなことであるならば努力が努力では無くなるし、やりがいを感じることであれば、好きを追求する中で他人よりもその分野で優れた独自の価値を持つことができるからです。ビジネスをする上で、今も昔も永遠に変わらないルールとして「他人から感謝されて、お金をもらえる」ことがあります。「自分にとって好きで楽にできること」と「相手にはできないこと」が合致できれば最高ですよね。これからの仕事で大事なのは「自分にとって得意なことで、いかに相手にとって難しいこと」を探し当てるかにかかってきます。

「誰だって、最初にできることはほんの小さなこと。しかし夢中になってそれを続けていけば、誰もが求める価値を持つことが出来る。」
「生きがいのために働くことは、本人にとっては遊んでいるようなもの。」
「自分が好きだったり、他の人にできないことをひたすらやり続けていたら、次第に行動範囲が広がり、自分の好きなこと自体がバージョンアップして、価値がどんどん上がっていった。」

お金にならなくてもついつい取り組んでしまう、好きで好きでたまらない「生きがい」がその人独自の価値になっていきます。自分の「好き」を突き詰めていくことで、いつしかその好きに共感する人が「ありがとう」とお金を払ってくれる循環が生まれていくのです。

総評

お勧め度(10段階) ☆☆☆☆☆ ☆
上の世代なら下の世代のこと、下の世代なら上の世代がどのように考えているのかの理解の糸口を与えてくれる本です。ただ著者の経歴を見ると順風満帆な超エリートコースを歩んでいるため、運良く人生の波に乗れた人の楽観的な部分があることは否めないでしょう。「好きに共感されることでお金がもらえる」のは主張としては正しくても、好きが見つからない人、生活のためだけの仕事=ライフワークならぬ「ライスワーク」に忙殺せざるを得ない人も多いからです。

この「好きを追求する」主張の埋め合わせとして本書の終わり際に「新社会人のために」の一節がありますが、私にとってはすごく蛇足に感じました。「新卒の人は今つまらない仕事、与えられた仕事を一生懸命こなすことが大事だよ」と今の仕事をすぐに辞めることをけん制しているのですが、せっかく「自分の好きなことをしていく価値」を力説していたのに、一気にここで勢いを折ってしまった感じがします。(今ある会社を辞めることなく、生活のための軸を持つことの重要性を訴えた内容はアダム・グランド著「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代」にもあって同感は出来る部分ですが、本書では要らないと思います。)

何よりひっかかったのが、本書の中に出てくる「新卒」や「社会人」という言葉から連想できるように、一般的な就活の流れに乗ることを前提にしており、それ以外のレールから外れて既に自分の好きを追求する人たちのことは念頭に置いていないのでは?と感じる箇所が多いところです。筆者が圧倒的に恵まれた社会人スタートダッシュを歩んでおり、また読者層を考えれば大多数が「就活」というレールに乗った一般サラリーマンだと考えれば仕方ないとも言える箇所ですが、自分の好きなことを追求する生き方を推奨しながらも、最後の最後で会社という枠にとらわれてしまっているのが残念に思いました。

また、今の世代にも飢えている人はたくさんいるので一概に年代では区別できません。この本では「乾けない世代」に分類される私なんて「なかったことへのコンプレックス」「上昇志向」まみれです笑。

既存のモノに新しい解釈を与えて新しい価値を生み出すところは、ゲームボーイを発明した任天堂の横井軍平さんの「枯れた技術の水平思考」を思い浮かべました。任天堂の物作りから学べる価値は多いので、これも今後記事にしていきます。

本書の後半にはチーム作りやマネージメントについての話、シェアリングエコノミーの話も載っています。なぜ世代によってこうも仕事に対する意識が違うのか知りたい人にはお勧めの本です。

 
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