コミュニティビジネスの仕組みが分かる「人生の勝算」 Showroom 前田裕二

今回はShowRoomサービス創業者の前田裕二さんの「人生の勝算」を読了したのでこの本から学べたことをシェアしていきます。
 

書誌情報

「人生の勝算」 前田 裕二 幻冬舎 (2017/6/30)

 
主に本書で学べた内容は以下の通りです。

・これからはモノ消費からヒト消費(ストーリー消費)の時代へ。
・絆ビジネス、コミュニティビジネスの肝は応援される「余白」を持つこと。
・自分の価値観を決定づける「人生のコンパス」を持つこと。

人は絆にお金を払う つながりを軸にしたコミュニティビジネス分析

この本全体を通して最も参考になったのが、この「つながり」を軸にしたコミュニティビジネスの分析です。

筆者は母親を幼くして亡くし、親戚の家に引き取られたのですが、居心地が悪く早く自立出来るように大好きな音楽を軸に活動していたそうです。路上弾き語り時代、文字通り音楽で食っていくためにどのようにしたら通行人が足を止めてお金を入れてくれるのかを徹底的に考えたといいます。その結果、「未知よりも既知」自分のオリジナル曲では無くみんなが知っている曲を弾き語ることへの気づきとつながるのですが、最も重要なことは「濃い常連客」を作ることにあると気づきました。

歌のうまさで言ったら本業のベテランであるプロにはとてもかないません。そこで歌のうまさや表現力といった技術で勝負するのでは無くお客さんと心を通わせる度合いで勝負することにしたそうです。あえて昔懐かしい曲を歌うことで、なんでこんな若い子がテレサテンを知っているの?と突っ込みどころを持たせたり、お客さんからのリクエストに1週間後に応えると約束することで1週間そのお客さんのためにその曲を練習したというストーリーを産み、それがお金をうむ結果となったとのこと。この絆戦略が上手くいったそうで、お金を振り込んでくれる、応援してくれる人が増えていったとのこと。

この「ヒト対ヒト」の絆がお金を生むことへの気づきは、アイドルはなぜ金を生むのか、どうしてスナックは潰れないのかの話につながります。それらはファンが応援できる「余白」を持っているからです。アイドルやスナックのママは完璧ではありません。完璧では無いからこそ、お客さんが参加出来る「余白」が埋まれ、お客さんも参加することで絆を深めることができるのです。

モノを消費する時代から、ヒトを消費する時代へと消費が切り替わっているのですね。

本書ではコミュニティ形成のために「余白」と「常連客」の他にも「仮想敵」「秘密やコンテクスト(共通言語)」「共通目的やベクトル」が必要な項目としてあげられています。コンテンツ提供者が完璧な存在ではないからこそ自分の人生と重ね合わせて他者のストーリーを消費できるのです。客に「自分がいなくてもこのアーティスト、お店はやっていけるな」と思わせてしまったら、コミュニティとして熱狂的なファンを生み出すことは難しいでしょう。

SHOWROOMについて

この本では前田さんが立ち上げたSHOWROOMについても語られています。

「僕は、不遇や逆境が、むしろ這い上がるためのバネになるということ、そして、正しい努力が必ず報われるということを自らの人生を通して証明したいと思っています。「人」に負けたくないのではなくて、あくまで、自分に課された「運命」に屈したくない。これが、生きる上での根源的なモチベーションであり、SHOWROOMを立ち上げ成長させる上での原動力になっています。」
「生まれた境遇や人種などの、自分ではどうにもならないハードルを、熱量や努力次第で超えられる仕組みを作りたい。後天的な自分の力で、どこまでも高みに行けるサービスを作りたい。そうやって、SHOWROOMは誕生しました。」

なんとも勇気が湧いてくる言葉ではないでしょうか。エンターテイメント業界、芸能業界は生まれつきの差が大きく、後天的な努力ではどうにもならないハードルがたくさんありますが、前田さんはSHOWROOMでそのハードルを取り除いてやりたいとのことです。

SHOWROOMで人気となるコンテンツは「共感」をがキーワードとのこと。消費スタイルがヒト消費、ストーリー消費に移り変わる中で、人間的な関係性や繋がりが生む価値を消費していく傾向が高まっています。コンテンツ供給側と受け取る側が心で繋がって、そこに絆が生まれ、コミュニティができる。それをビジネスに転換していく仕組みがSHOWROOMとのことでした。

UBS証券時代の話

次に、前田さんの新卒時の外資系投資銀行UBS時代の話になります。
有益そうな箇所をまとめると、

前田さんは「株取引を通じて、世界の本質に触れてみたかった(株は社会、心、森羅万象を反映していると考えて)。」ことを理由にUBSに入社します。

前田さんが尊敬する宇田川さんという人物がいて、大学内定者のうちに何か勉強することはあるかと前田さんから聞かれた時、印象的な答えを返します。

「勉強なんかいらないよ。とにかく人に好かれること。秘書でも、掃除のおばちゃんでも、受付の人でも、好かれなくちゃダメだ」

これには私もなるほど、とうなづける箇所ではありました。宇田川さんは「人に好かれる天才」以前に、「人を好きになる天才」だそうです。で、その才能も後天的に身につけたものだとか。そして宇田川さんは一人でできることには限界があるので、チーム重視の働き方にシフトしたそうです。どんな組織でも、結局は「人の良さ」が最も大事なのです。

学びや気付きも結構ある章なんですが、ここからちょっと私の感覚とはなんか違うな、という側面もチラホラみられるように。
・仕事に人生の全てを懸けているのが美談として語られる。
・誰よりも早く来て勉強し、誰よりも遅くに帰ることを誇るような記述。(早朝4時30分にきて、帰りは早朝。)
・とにかく頑張って働きまくること、努力しまくっていること、がむしゃらに働くことの記述。(起きている時間、持っているエネルギーを全部仕事に注ぐこと)
この証券会社の章では付き合いのために、自分を殺してまで人に好かれるために身を犠牲にしている話が続きますが、そうまでして他者から認められたい、成功したいのか、と思いました。こうした証券会社でバリバリと成果を出して平均よりもはるかに高額な報酬をももらえるからできることであって、「成功したい!」という強い動機がないとここまで頑張れないし、前田さんの環境はやっぱり特殊だよなぁ、と思いました。仕事に人生を捧げる生き方も、成功のために自分を殺してまで業界のルールやくだらない宴会に付き合うのも前田さんの価値観だからいいのですが、私はそうまでしてまで成功したい、成果を出したいとは到底思えないので、読んでいてちょっと違和感を感じた章でした。

前田さんがUBSのニューヨーク支店に転勤した話も、人並外れだ努力・プライベートを無くしてまで仕事をすることで成果を誰よりも出すというやり方が書いてあるだけで、到底真似できるとは思えず、参考にできそうなところはありませんでした。ここから学べたことは、モチベーションやマインドセットを「人生=仕事」に設定することのほうが小手先のテクニックよりも成功につながる行動を生むけれども、そのマインドセットの構築こそが大変だし難しいよなぁ、と感じたところでしょうか。

人生のコンパスを持つ

前田さんの証券会社時代の話でちょっとついていけないなぁと感じた後に、人生のコンパスを持つこと価値観についての話が始まります。これは私でもとても納得できる内容でした。

「最も不幸なことは、価値観という自分の船の指針、コンパスを持っていないということ。そして、持たぬが故に隣の芝生が青く見えてしまうことです。」
「選ぶ、ということは、同時に、何かを捨てることです。何かを得ようと思ったら、他の何かを犠牲にしないといけない。人生の質を高めるのは、選択と集中です。」

価値観を自分で決めておくことは何よりも大事なことで、人生という航海においては自分で決めた価値観というコンパスを持つことがとても大事なことを力説しています。どんな生き方をしていても、自分でその生き方を決めていれば問題ないのです。他者や会社、世間と行った外部の価値観に人生のコンパスを求めてしまうと、おかしなことになるのですね。

価値観の深掘りと言語化の重要性はとても納得できる部分でした。

一度自分で決めてしまえば、迷いや戸惑いも少なくすることが出来ることも言及されています。

その他学べたこと

その他本書から学べたのは、
・ルールを作る立場になる、プラットフォームを作り出すことの重要性。
・DeNAに誘われて入社した話の中での決め手となるポイントは、「切磋琢磨して、超えたい、倒したい」と思える人が何人いるかを見て決めたとのこと。
・SHOWROOMの原型は中国で既にはやっていたアプリを参考にしたこと。
・最初から高望みをするのでは無く、できる範囲での営業を愚直に継続していたこと。
でしょうか。

総評と素直な感想 果たしてこの本は参考になるのか?

お勧め度(10段階)☆☆☆☆☆ ☆

モチベーション革命」でも感じたのですが、前田さんも最初の社会人スタートダッシュが恵まれているなぁ、と思います。もちろん本人も就活を頑張った結果それをつかんだのでしょうが、私としては新卒で良い会社に入ったことで成功したと言われても「そりゃそうでしょう」と感じてしまうためビジネス面ではあまり参考にはならないと感じました。

新卒で外資系投資銀行でサラリーマンが出来たことがその後の展開に大きく助けとなっている記述も多く、前田さんのビジネスも多くの人の助けを得ていますが、その助けてくれる人たちは仕事で知り合った人たちであるので、いかに仕事環境・職場が大事であるかを痛感させられました。

本書の白眉は世界一を目指すShowroomのサービスの成り立ちではなく、本書冒頭のコミュニティビジネスの仕組みの洞察です。応援される、ファンがつくアイドルやスナックが持つ「余白」の存在。これはメディアやコンテンツを作り出す人にとって大きな示唆となるのではないでしょうか。

・Showroomが好きで、前田さんに興味が持った人
・コミュニティビジネスの仕組みについて知りたい人
・人生を仕事に捧げてバリバリ成功したい価値観を持っている人
にお勧めの本です。

 
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