人生の多くの時間は私たちの習慣行動で占めています。では習慣って何なのでしょうか?本書「良い習慣、悪い習慣 世界No.1の心理学ブロガーが明かすあなたの行動を変えるための方法」は人生の大半を占める習慣について数多くの心理学研究をベースに身近な例で解説した良著です。
なお、表題の世界No.1の心理学ブログとは著者のJeremy Deanさんが運営するPSYBLOGのこと。
今回は本書から学んだこと、本書から得られた知見をどのように日常に応用すれば良いのか考えたことをまとめます。
目次(Contents)
習慣とは何か?
まずは人生の大部分を占める習慣について。
習慣には以下の特徴があります。
・意識されない:行動をしている最中に、今している行動を習慣だと思わないこと。
・決定疲れが無くなる:あれをしよう、これをしようと考えないで自動的に実行される行動のこと。
・感情がなくなる:無感情に実行される行動のこと。
例えば歯磨きは多くの人が習慣にしていますが、わざわざ意識して歯磨きを計画する人はいないのではないかと思います。そして歯磨きに一喜一憂したり、歯磨きに感動することも無いでしょう。
習慣とは無意識に行われ、感情もなく自動的に実行される行動のことです。感情に左右されないということは、激しい感情の波にあっても淡々とその行動を行えるということです(行動を実行するのに意志の力が不要)。
新しい習慣を身に付けるのにはどれほど時間が掛かるか?
習慣についての本を読んだことがある人なら、何かを習慣にするには21日ほど掛かると聞いたことがあるかもしれません。実際この21日(3週間)という数字は多くの習慣に関しての本で述べられています。
でも、実際に習慣的な行動を身に付けるのにかかる時間は習慣としたい行動の種類によって変わるそうです。
例えば、ある特定の時間に水を飲むといった簡単なものなら20日、平均的な難易度の習慣だと66日、難しいタスクを習慣にしたいのであればそれなりに時間が掛かる(250日を超えたりすることもある)そうで、本人が感じる行動の複雑さ・難易度によって習慣化に必要な日数が変わります。
これまで読書を習慣にしていない人が毎日読書を習慣にするのは難しいですが、読書に慣れている人なら毎日読書を習慣にするのはそれほど時間が掛からないでしょう。
想像以上に環境に左右されるのが人間だ。
本書全体を通して習慣に関しての様々なトピックが扱われていますが、特に印象に残ったのは人は環境によって大きく変化し、影響を受けるという指摘です。
習慣は状況・文脈がとても大きな影響を持っています。環境が変わるとこれまでの習慣も変わります。これは環境が変わることで習慣のきっかけとなる刺激(トリガー)が無くなるからで、自分は本当は何をすべきか、何をしたいのか、と冷静に自分のことを考え直すことが出来るからです。
例えば、インターネットやスマートホンに長時間依存していた人がそれらが無い環境に放り込まれたら、強制的に行動は変わり、思考も変化して行きます。
また、周囲の他者の存在も大きいことが示唆されており、意識する、しないに関わらず私たちは身近な他者から大きく影響を受けています(良い方向にも、悪い方向にも)。
周りのモノや人、情報刺激といったその人の身の回りの環境がトリガーとなってある一定の思考を呼び覚まし、その思考が行動を生みます。先行刺激(プライミング)の影響を大きく受けるのは行動経済学者ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」でも述べられていました。
よくも悪くも環境から影響を受けるのが人間であり、環境の影響を避けて通る訳にはいかないのです。
何かが上手くいかなかったとき、「環境のせいにするな」と言われて自分を責めるぐらいなら、いっそのこと環境のせいにして環境を変える努力をした方が良いと言えます。
習慣とは小さな無意識のパターンの積み重ねのこと。無意識には勝てない。
私たちは意識的に行動しているようですが、実は環境に紐付けられた無意識の行動によって行動が左右されています。自分の意図がそのまま習慣になっているのではなく、無意識的な行動の積み重ねが習慣を生み出しています。
決まり切った行動ほど安心でき、自分だけで無く他者の行動も決まり切った同じような行動を望みます。いつも通りの日課(ルーティン)は安心感を生み、子供時代に身に付いた習慣は大人になっても長続きしやすいです。強い習慣が無意識に行動を形作り、私たちが何かを選択するとき選択しやすいのは、馴染みのあるこれまでと同じような選択であったりします。
一方で変化が大の苦手で、難しい判断や決断をしたくないとも考えています。人生の大きな変化を経過すると習慣も変化していくのは、大きな環境の変化に伴って周囲から受ける刺激が大きく変わるからです(変わらざるを得ない)。
強い無意識的な習慣は辞めるのが非常に難しく、私たちの行動は自覚無く呼び出された思考習慣に大きく左右されます。言い換えれば、普段どんなことを考えているかという無意識の思考パターンが行動に表れているということなので、習慣行動をモニタリングすることで自分が普段から何を考え何から大きな影響を受けているのか把握する事が出来ます(習慣行動=無意識)。
ではどのように良い習慣を身に付けさせ、悪い習慣を無くしていけるのでしょうか。
良い習慣を身に付けるにはif thenルールで場面ごとに備える
良い習慣を身に付けるのであれば、if thenルールで場面ごとにどのようなことをするのか決めてしまう方法があります。
例えば、
・勉強習慣を身に付けたい
→仕事・学校の帰りにカフェ(図書館)に寄り、勉強する。
→仕事から帰って疲れていたら→お風呂や音楽などで気分転換をしてから勉強する
・運動習慣を身に付けたい
→お風呂から上がったらストレッチを行う→ストレッチをしたらスクワットを行う
→普段下りる駅より一つ前の駅で降りて歩いて帰る。
→駅ではエスカレーターでは無く階段を使う。
・読書を習慣にしたい
→ソファに座ったらとりあえず本を開く。
→電車に乗ったら本を開くorスマートフォンを起動したらKindleなど読書アプリを開く。
環境や気分、場面と行動をセットで結び付けること、事前にこういう状況(気分)になったらこれをしようと決めておくことです。特に障害(やる気が出ない時、疲れたとき、眠いとき)を想定したif thenルールは強力です。設定した状況が詳細で明確である程効果的です。
習慣を身に付けるには前に進んでいる感覚を持つ。進捗のモニタリング。
前に進んでいる実感が無いと不満になり、不満は行動する気を無くします。これは「マネジャーの最も大切な仕事」でも述べられていたことで、要するに何か新しい習慣を身に付けたければ自分の行動の成果を見える化することです。前に進んでいる感覚があればその行動が続けやすくなります。
悪い習慣を辞めるのは本当に大変。ちょっとはマシな習慣に置き換える。劇的な変化は求めない。
悪い習慣を辞めるのは非常に難しく、一大仕事といえます。悪い習慣は環境や脳にこびりつき、常に環境や特定の刺激(トリガー)によって反応を起こすようになっています(一度着いた習慣は綺麗さっぱり無くなるのではなく、神経回路が眠っているだけ)。
悪癖をやめる一つの方法に、同時に出来ない別の(マシな)行動に置換えることがあります。
・タバコを吸いながらガムを噛むことは出来ないので、禁煙をしたい時にガムを噛む。
・インターネットやスマホゲーム、SNSのアプリのアイコンがある場所にKindleなどの読書アプリを置く。
・寝る前にスマホをいじってしまうのであればスマホを寝室に持ち込まず、代わりに本を読む。
人の自制心には限度があるため、何か一つ自制心を発揮した後、更に何か自制心を要求するタスクをこなそうとすると破滅的な結果になります。自制心は一旦休ませないといけません。また、脳は大きな変化に抵抗感を示すように出来ているため、脳の負担にならないある程度のちょっとした変化がポイントです。自分の悪癖を無くそうと全部我慢してしまうと上手くいきません(反動がかえってひどくなり、かえってドカ食いしたり、スマホゲームで一気にガチャ課金したりする)。
総じて悪癖を辞めるには意思力でどうにかしようとはせず、行動を置き換えることが効果的かと思います。特に環境の変化(悪い習慣行動を引き起こすトリガーとなる刺激から離れること)が最も重要と言えそうです。
書評とまとめ 実証的に証明された習慣の心理学が学べる一冊。それぞれのチャプターに参考文献が在り、好奇心がそそられる。
本書を読むと、良い習慣を身に付けるのも、悪い習慣を辞めるにも一筋縄ではいかないことを実感します。
人間の自制心には限度があって、ある程度遊びを入れて休ませないとかえって全体的なパフォーマンスが落ちて無駄な買い物やドカ食いなど破滅的な結果をもたらしてしまいます。いかに我慢しないで、意思力に依存しないで無意識の習慣に置き換えていくかが肝です。
習慣化は最初がとにかく肝心で、習慣化が出来てくるにつれてだんだん簡単になってきます。
悪い習慣(悪癖)を辞めるには、同時に出来ない他の何か集中できる行動に置き換えることです。
実践をするのはどちらも難しいものの、的確で分かりやすく習慣行動について包括的に述べられている良著です。特に自分の生活習慣を見直したい人に大きな助けとなるヒントを与えてくれるでしょう。
■日本語版「良い習慣、悪い習慣: 世界No.1の心理学ブロガーが明かすあなたの行動を変えるための方法」ジェレミー・ディーン (著), 三木 俊哉 (翻訳) 東洋経済新報社 (2014/9/5)
■原著「Making Habits, Breaking Habits: Why We Do Things, Why We Don’t, and How to Make Any Change Stick」 (English Edition) Jeremy Dean (著)