【書評・要約】悪癖の科学 その隠れた効用をめぐる実験 きわどいテーマを真面目に考察。

【書評・要約】悪癖の科学 その隠れた効用をめぐる実験 きわどいテーマを真面目に考察。
悪癖の科学 その隠れた効用をめぐる実験」を読了しました。セックス、飲酒、悪態、怠け癖・・・など公に口にするのがはばかれるテーマを扱い、それらの悪癖とされるものからどんな利益を人は得ているのだろうか?科学的な実証実験を基にまじめに考察した本です。私が考える悪癖とはちょっと違いましたが、Google先生に怒られない範囲で本書から得た知見をまとめてみようと思います。

「性」に関する行動は痛みを和らげる力がある。

冒頭から性に関してのトピックで読者を惹き付ける本書。詳細に書くとGoogleに怒られるので、抽象的に要点をまとめると、

・性に関しての行動は痛みを和らげるのに非常に効果的。動物も人間も同じで、行為をすることで痛みへの反応が減る。
・男女とも感じ方は違うが、達したときの感覚は男女とも違いが無い(脳が同じように反応している)。
・男女ともに扇情的な情報に触れると短絡的、短期的な判断を下しやすくなる。
・オスは一度達してもメスが変わると復活が速い。(クーリッジ効果)

痛みが減るというのは、痛みに鈍感になることで不安といったネガティブな刺激に強く(鈍感に)なります。ただ、こうした情報に触れると短絡的な判断を下しやすくなり、目先の利益に飛びつきやすくなる傾向が示されています。

序盤からきわどい話の連続ですが、こういったことを科学的に真面目に研究しているのが面白い。海外では動物実験に留まらず人間で実際に実験してしまうところが凄いですね・・・。

お酒は人付き合いと創造性に効果あり?

お酒を飲むことによる効用は、「人と交流する時に打ち解けられ、創造性が高まる」というもの。過度な飲酒は良くないけれど、適度な飲酒は良い・・・と酒飲みには嬉しい効能を示す研究が紹介されています。ただ、私が思うにお酒の効能よりも悪影響を示す研究の方が多いので、著者の確証バイアス(出版バイアス)が強く感じられました。

暴言、悪態はストレスをしのぐために有効

悪態や暴言については、過度なストレスを乗り越えるのには有効だそう。妊婦が子供を出産するときの痛みを耐えるのにこうした暴言を吐いてしまうのだとか。また、社会的に底辺付近の人に暴言を吐く人が多い一方で、社会的に権力を持ち、上流にいる人も暴言を吐く人が多いのだとか。アメリカのトランプ大統領もそんな感じですよね。社会的に中流の人は暴言を吐く人が少ないのだとか。

弁慶の泣き所を強く打ったときや、凄くショックな事態に陥ったときなどに悪態をつくことでその状況を乗り越えやすくなります(痛い!っと叫ぶことで痛みが和らぐ)。また仲間と一体感を形成するためにも悪態や悪口が使われることも。

スピード走行は退屈を紛らわす

スピード走行は、あえて緊張状態をもたらし、集中力とフロー状態のようなパフォーマンスを得られることが効用だと言います。高速道路を一定速度で走っていると、ボーっとして白昼夢状態になり、かえって事故の危険性が高まるのだとか。その人が持つ刺激欲求性と関連しており、スリルを求める人ほど退屈に弱いためスピード運転をしがちに。かといってスピード違反が良いわけでは無いので注意が必要です。

なまけ癖はクリエイティブには欠かせない

何もしない無為な時間にクリエイティブが高まるとのこと。ニュートンの万有引力の法則も彼の故郷の村で無為の時間を過ごしたが為に気づく事が出来たといいます。無意味で非生産的な時間こそ生産的だ、とする本書の主張でホッとする人も多いのではないでしょうか。ぼんやりする時間は大事!

感想・まとめ タイトルから期待した内容では無かったが、変な研究がたくさん紹介されてまぁまぁ面白かった本

“悪癖”を肯定したい人の本。真面目に世の中のありとあらゆるものを追求するのが科学者のサガか…。

本書は上記に取り上げたもの以外にも恋愛や臨死体験などが扱われていますが、恋愛に関してのトピックは本書で紹介されている吊り橋実験は反証されているし、美人や理想的だと思う異性に関しては以前まとめた越智啓太さんの「美人の正体」に詳しいです。臨死体験に関しては、死は誰もが恐れるが思っていたほど悪いものではない、との結論で特筆すべき点はありませんでした。

私は悪癖は辞めたくても辞められないギャンブルやスマホ・ネット依存、買い物中毒などを想定していただけに、本書で扱われたテーマは確かにタブー視されることもあるけれど悪癖とは違うかな?といった感じです(性に関しては参考になった)。こうした悪癖=辞めたくても辞められない習慣について知りたければ別の習慣に関しての本を参照した方がいいでしょう。

世界は広く、破廉恥でいかがわしいテーマでも常識では考えられない方法で科学的に実証しようとする人々の熱意に触れた読後感でした。

■日本語版「悪癖の科学–その隠れた効用をめぐる実験」リチャード・スティーヴンズ (著), 藤井留美 (翻訳) 紀伊國屋書店 (2016/8/29)

■原著「Black Sheep: The Hidden Benefits of Being Bad」Dr Richard Stephens (著), John Murray Learning; UK版 (2016/5/19)

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