「クリエイティブのつかいかた」は青山ブックセンターで行われた「クリエイティブのABC」というセミナーを加筆修正し書籍にしたもの。日本を代表するクリエイター12人にインタビューを行い、そのクリエイティブの思考を分かりやすく分析、解剖しています。読みやすく整理された本で、それぞれのプロフェッショナルがどのような考えで仕事に臨み、価値を創造していくのかのプロセスは読んでいて興味深かったです。以下、自分が学んだ点や気づいた事、印象に残った所などをまとめます。
目次(Contents)
デザインとクリエイティブ
本書は冒頭で捉えどころが無いデザインのプロセスを分解して整理しています。
デザインは単なる飾り、意匠などの「かたち」としての役割では無く、その「かたち」が作られる思想や背景も含めてデザインだといいます。デザインは物作り全体のプロセスを広く捉えるものだということです。
広くデザインの概念を捉えることで、「思考・哲学」としてのデザイン、「システム・法則」としてのデザイン、「意匠・かたち」としてのデザインと段階を踏んで物作りのプロセスを捉えることが出来ます。
こうして分析的にデザインのプロセスを捉える事で、一体自分はどの段階で躓いているのか?クライアントはどの段階のデザインのことを言っているのか?が判断しやすくなり、仕事が進めやすくなるとのこと。私はこのデザイン思考の発想はプログラミングで言うボトルネックを探す作業に近く、問題点を見える化するのに役立つと思いました。
ディレクションもクリエイティブ
現在はありとあらゆる分野のクリエイターが存在し、誰に頼めば良いのか分からない状態になっています。カフェを開こうにもwebデザイナー、フードコーディーネーター、写真家、料理人、グラフィックデザイナーなど様々な職能を持った人がいます。
それを解決するのがディレクションであり、ディレクションこそ現在で価値が高まっているクリエイティブと指摘する本書の指摘はなるほど、思いました。強みを持つ人同士を結び付けて一つの目標を達成するために指示していく。細分化されていたデザインをとりまとめる事で一つの大きなクリエイティブを作る。本書を読むと実際に物作りを行う人だけでは無く、人事やマネージャーといった管理職に就く人もクリエイティブな思考が求められていることを感じます。
ディレクションが上手く出来ないと、ホームページと実際のお店の印象が違ったり、インテリアと実際の商品がちぐはぐになったりします。イメージを統一することがディレクターの腕の見せ所と言えるでしょう。
デジタル化と作業環境の普及により誰もが物作りが出来るようになった現代において、ディレクションの重要性は増してきています。
印象に残った点、考えた事のメモ
・デザインには地域と密着したコミュニケーションの橋渡しをする力がある
・デジタルの時代に入り、誰もがクリエイターとなる事が出来た。生産プロセスが昔と大きく変わり、デジタルはあらゆるものの背景にある影のような存在に。
・現代美術やコンセプトアートの分野で行われている思考実験などはデザインの分野で上手く生かすことが出来そう。
・ものづくりにも物語の要素を加える。どういう人が、どういう状況で、どういう想いでその商品を手に取るか。
・肩書きを狭めるのでは無く、広げていく。
・建物を作るより、環境を作るのが建築家の仕事。
・最初から全て決めてしまうのではなく、何度も考えて作ることを繰り返し、一つの到達点を目指す。
・人の気持ちをデザインする。
・編集は情報工学。既にある価値でも順番を変えたり、見せ方や演出で面白さが変わる。
・人が変わるきっかけを作るのがメディアの役割。
・ブランディングは企業や経営者の生き様を表現する。
コミュニケーション:ロゴやパッケージ、Webや広告など企業のサービスをユーザーに伝える役割を持つデザイン。良いものがあっても知られなければ使われない。
コンテンツ:サービスの内容や商品自体の本質的な価値のデザイン。ビジネスや企業の根幹の表現に繋がっていることが重要。
マネジメント:商品やサービスをユーザーに届ける流通やもの作りの背景のデザイン。事業の運営の仕方や組織のあり方など形に見えないものを含む。(例えばAmazonならプライム会員でお急ぎ便無料(=注文して直ぐに届くという価値)などが考えられます。)
感想・まとめ デザイナー的な視点を持つことで視野が広がる
ジャンルに囚われず多種多様な“クリエイター”の頭の中を垣間見ることができ、興味深い一冊でした。
具体的な造形力の磨き方などの「かたち」としてのデザインでは無く、広くデザインを問題解決・経営の手法として捉え、どう社会に価値を創造していく為に働かせるかを説いた良著。文章も的確で分かり易いのも良いですね。
本書に出てくるクリエイターの全体の印象として、やっぱり現場で学ぶ事が一番人を成長させるのだなという印象を持ちました。自分が置かれた仕事環境や巡り合わせ、その時の自分の勢いといったものがキーポイントとなっているのを感じます。
「人間は分からないことはできない。まずはクリエイティブとは何かを理解することからはじめよう。それにはたくさんの事例に触れていくしかない。そういう意識で周りを見渡すと、商品、ショップ、サービスなど、僕たちの身の回りにはたくさんのクリエイティブで溢れている。そして、それを自分の目線で研究してもらいたい。」
昔デザインを学んでいたときに、身の回りのあるものを見て、自分で考える事を何度もしていましたが、本書を読んでその原点に立ち返れた気がします。
クリエイティブとは何か?を模索する全ての人にお勧めの一冊です。
■「クリエイティブのつかいかた」 西澤明洋 (著) 日経BP (2016/4/14)