大好きなドラゴンクエスト5が3DCG映画化されたということで、早速映画館に見に行きました。感想としては見に行って良かったけれど、それをこの作品でやるのか…とモヤモヤが残るものでした。今回はネタバレ含む感想なので、ネタバレが全く無い状態で映画を観たいという人は戻ってください。
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ドラクエ映画 ユアストーリーはまさに原作をリアルタイムでプレイした人向けの作品
本作は1992年にエニックスより発売されたスーパーファミコンのRPGゲーム「ドラゴンクエストV」を原案に3DCGでその世界を描いた物語です。私はドラクエ5が子供の頃に人生で初めて遊んだRPGゲームで、最も心に深く残っている作品です。クリアまで何度も何度もセーブデータが消えるトラブルに悩まされながらも頑張ってクリアした思い出があります。いわば国民的RPGとなったドラクエシリーズはその後も全作プレイしていますが、全ナンバリングタイトルの中でも最も思い入れがあるのがVで、主人公の幼少期から青年期にわたる家族3代を巻き込む物語に大きく影響されました。私にとってはドラクエ5は今の自分を形作る上で無くてはならない原体験のようなもので、RPGや物語の力、そしてゲームが大好きになった決定的なきっかけを与えてくれたといっても過言ではありません。だからこそ本作の映画を楽しみにしていました。
映画本編:ドラクエVのストーリーが映画という尺の中でよくまとまっているが、原作をプレイした人向け。はしょり方は上手いと思う。
ドラクエVはまるで大河ドラマのような心震えるストーリーが特徴です。幼少期があり、青年期があり、結婚があり、魔王との戦いがあります。それぞれに印象的な場面があるのですが、制限時間のある映画というメディアでどこまで物語が描かれているのか不安でした。私の感想としては、よく映像作品の制限時間の中にまとめ上げたな、というもの。印象的なオーブ交換のイベントや結婚相手の選択、主人公の父の最後などの重要イベントは押さえてあります。
例えば幼少期は殆ど省略されているけれど、かつてドラクエVをプレイした原体験があるから想像出来るし、重要な場面はちゃんと要所を押さえつつ映画の尺に合うようにアレンジされているのでダレること無く物語の流れに入っていくことが出来ました。特に結婚イベントが厚めに描かれているのが印象的でした。3DCGとは思えない表情豊かなキャラクター達の喜怒哀楽に感動したし、フローラかビアンカを選ぶ流れはどう解決したのか気になっていたけれど、結果的には感動したし、納得出来る展開でした。
原作をプレイした私はこの先登場人物がどうなるのかも分かりますし、端折られても脳内保管が可能です。逆に言えば、全くプレイしたことのない人やあまりドラクエVに思い入れがない人はストーリーの流れが急すぎると思ってしまうかもしれません。まさに当時リアルタイムに遊んだ世代(30代~40代以上)のプレイヤーに向けての映画だと思います。
映像化されて良かったと思ったのが、映画の序盤に奴隷から抜け出しヘンリー王子の故郷ラインハットに帰った時、主人公に対して「パパス(主人公の父親)から命を頂いた」と発言するシーンです。この場面は原作では見られなかったのでグッときました。どのキャラも美しく可愛く魅力的に描かれていて、特に主人公が自分の本当の気持ちに気づき、プロポーズするシーンは涙ものでした。
美しい映像でドラクエVが再現されていることが素直に嬉しい。戦闘シーンやアクションは迫力もあり、画面に吸い込まれてしまう程
原作のストーリーが色んなところで端折られていますが、映像作品としての3DCGのクオリティがとにかくすばらくして、私は十分にドラクエVの世界に浸ることができました。当時スーパーファミコンのドット絵や攻略本のイラストでしか想像するしか無かった世界が、生き生きと表情豊かに描かれていることへの感動といいますか。まさか原作のプレイから十数年も経って、最先端の技術で映画化されるなんて想像もしませんでしたよ。映像の美しさと綺麗な町並み、魂が入ったかのような3DCGの表現に感動しました。それこそ時間も忘れるほど映画の中に入って、あっと言う間に時間が過ぎる感覚がありました。いつまでもこの映画を見届けていたい、そう思わせるような満足な映画でした。そう、最後のあの展開がくるまでは…。
最後の展開は賛否両論を呼んで当然。熱狂的なファンを持つドラクエVだからこそ、批判は避けられない。
実は私はこの映画は白紙の状態で見に行ったのでは無く、ある程度前評判を聞いて、覚悟の上で見に行きました。でも、ここまでとは思わなかった…。
オチはいわばメタフィクションものなんですが、それをドラクエVでやって欲しくなかったというのが素直な感想です。驚きはしたものの、良い意味での驚きでは無く唖然としてしまう感じ。物語の世界に入っている時にいきなり冷や水を浴びせられたかのような感覚…。あのシーンで感動した自分は何だったのか、涙した自分は何だったのだろうか、という血の気が引くような感覚。
でも、ユア・ストーリーというタイトルテーマからすればこの映画の軸は貫かれています。ユア・ストーリーのユアとは実際にドラクエVをプレイし育った現実世界のあなたであり、このテーマは堀井雄二さんの作ったドラクエが一貫としてゲームの主人公はあなた自身に設定していることにも繋がります。ドラクエの主人公が喋らないのは主人公がプレイヤー自身だからこそ。プレイヤーが自分自身を投影できるようにドラクエは作られています。だからドラクエをプレイした人の数だけ、それぞれのストーリーがある。
ドラクエで育った世代は今は立派な大人なので所帯を持っている人もいるはず。まさにこの映画で伝えたいメッセージはその大人たちに向けたもので、子供向けではない作品だと思います。最後の敵がいう「大人になれ」という強烈なメッセージは心にぐさっときます。だけど、主人公はそれを乗り越え、かつて冒険した旅での経験は今も心に生き続けている。ゲームで費やした時間は無駄にはならず、そこでの体験は失われていない。現実という人生の主人公はまさにこの作品をみているあなた自身であり、現実という冒険をどう進んでいくのか決めるのもあなた自身。映画を見ていたはずがいきなり現実の自分について思いを馳せる展開です。
見終わった後はモヤモヤが残り、いろいろ考えさせられる余韻が残りました。映像が綺麗なのでDVDやブルーレイが発売された時買おうかと思っていましたが、最後の展開でちょっと考えてしまいましたね。でも、私は見に行って良かったと思っています。今の時代に予算をかけてドラクエVの新たなコンテンツを提供してくれたのは嬉しいし、最後のメッセージもドラクエの生みの親、堀井雄二さんがドラクエに込めた「人生はロールプレイング」、現実の人生という物語を主人公として生きよう、というものだと私は思います。
ただ…私は作品の中でその作品世界をフィクションとして扱うメタフィクションは一歩間違えれば観客に強い動揺と狼狽を生む劇薬だと思っていて。制作者の意図は分かるし、伝えたいメッセージも分かるけれども…。それを私が大好きで愛してやまないドラクエVでやって欲しくなかったな、という感覚はぬぐえません。そしてこの感情を感じていること自体が「大人になれ」というラスボスの言葉が心にくる原因にもなっています。
ちなみにこの映画の最後の展開に似たものとしてRPGゲーム「スターオーシャン3(スターオーシャン Till the End of Time)」がありますが、それについては私は全然大丈夫でした(むしろメタ的な展開は面白いと感じた)。でも本作は何かが違うと感じてしまった。ゲームで経験した物語やプレイ体験は人生の一部として一人一人の心に確かに存在している。それは分かるけれども、ドラクエVを扱った映画としてはベタなファンタジーで終わって欲しかったですね。ベタでありきたりになろうとも感動はできるし、本作の途中で得た感動は本物です。
こうした展開がされてしまうと、もし未来に起こり得るかもしれない他のドラクエナンバリングタイトルの映画が製作された時に純粋な気持ちで見れなくなってしまう。どうせこの世界は〜と考えてしまう。本作は「ドラゴンクエストV天空の花嫁」の映画ではなく、それを元にした「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」という物語なんだ、という認識を強く持つ必要があると思いました。
動画資料
参考・出典
・ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 公式パンフレット
・「ドラゴンクエスト」生みの親・堀井雄二、映画化で山崎貴総監督にお願いした2つのこと
・ドラゴンクエストV公式ガイドブック上巻 世界編 1993 エニックス
・映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』公式サイト