デッサンを続けていると石膏像について知りたくなってきます。そこで、石膏についての由来や背景にあるストーリーをまとめてみようと思い立ち、いろいろ調べてみました。今回紹介するのはミケランジェロ・ボナローティ作(1539年頃制作)で、フィレンツェ・バルッジェロ美術館収蔵のブルータス胸像です。
ブルータス胸像が作られた背景は?
ブルータス胸像が作られた背景に、当時のフィレンツェで共和制が敷かれるようになったことがあります。フィレンツェでは皇帝(王様)を倒して、協議して政治を進めていくようになります。シェークスピアの悲劇「ジュリアス=シーザー」ではローマ皇帝カエサル(シーザー)が腹心の部下ブルータスの一味に刺し殺される場面があります。その時に出たのが「ブルータス、お前もか」という印象的なセリフ。ローマの最初の共和制を敷いたのがブルータスであり、共和制の象徴がブルータスでした。
そこで、共和制が国家を強化するものだ、として共和制の象徴としてブルータス像が作られました。ミケランジェロもパトロンからではなく共和制を敷いていたフィレンツェから製作を依頼されたと考えられます。
ブルータス像の特徴
他の石膏像は全身像の一部をカットしたものが大半ですが、ブルータス胸像は珍しく胸像として作られたため、胸像としてフォルムが完結しています。
つまり、石膏像のカットの仕方も全てミケランジェロの計算になっているので、デッサンをする時はそこを表現しないと片手落ちになってしまいます。石膏像の切り方が最後の形の締めになっています。
しかし、ミケランジェロ作品の他の多くと同じように頭部は未完成のままとなっています。髪の毛も耳も掘られていません。また、フィレンツェは共和国でしたが、メディチ家が復活した時に当時革命委員会の委員をしていたミケランジェロがフィレンツェから逃げ出す事件もありました(ミケランジェロの手によってイケメンのメディチ像が掘られてはいますが…。参考)。
ミケランジェロは未完で残された作品が多いものの、未完という形を踏まえて完成だとする見方もあります。
ミケランジェロの作品の特徴として、非常に論理的な構成をするので形態の把握に必要なアクセントが全て配置されています。石膏像の元となった胸像は実際は薄い大理石だけれども、倍近いボリューム感を作り出しています(横から見ると大理石は薄い。)。
これは透視図法の線を多用しているためで、板の上に立体を表現するレリーフのテクニックが込められた胸像です。
また、実際の人物は胸像で作られることが多く、全身像は神話の英雄や国家的なシンボリックな存在が対象になることが多いそうです。
ブルータスは裏側が作られていません(後ろ側がない)。これは飾り方が決まっており、アーチのへこみ部分に埋め込むものとして作られたからです。ミケランジェロ作品にはこのように飾る方向性がはっきりした作品が多いです。
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