【石膏物語】アリアス胸像 その正体は陶酔と芸術の神バッカス(デュオニソス)像

【石膏物語】アリアス胸像 その正体は陶酔と芸術の神バッカス(デュオニソス)像

【石膏物語】アリアス胸像 その正体は陶酔と芸術の神バッカス(デュオニソス)像
今回はアリアスと呼ばれている石膏像の知識をまとめました。日本では美大受験のためのデッサンでよくモチーフとなっている像の一つです。

アリアスの名前の由来は?

アリアスの名前の出所は詳細には伝わっておらず、外国にはアリアスという名前のついた石膏像はありません(ギリシャ神話でアリアスという名前の神はいない)。この石膏像の元となる像は胸像で大理石で残されているそうです。

この像は古代ギリシャ神話でいう豊穣(ブドウ酒)と陶酔の神デュオニソスであり、ローマ神話のワイン酒の神バッカスを現しています。その根拠として、この石膏像の髪型の特徴が伝統的なデュオニソス(バッカス)を示していることが挙げられます。

デュオニソス像の特徴は髪型がぶどうの房っぽいこと。アリアス石膏像もこんな感じですね。

具体的にいうと、伝統的なバッカス像はぶどう酒の神様ということもあり、頭にぶどうを付けて描かれたり、髪型がぶどうを模したものが多いです。アリアス石膏像も髪型がぶどうの房を模しているかのように特徴的ですね。


ティチアーノ「バッカスとアリアドネ」 中央が若きバッカスで、ロン毛でくせっ毛のブドウを模した髪型をしている。

ティチアーノ「バッカスとアリアドネ」 中央が若きバッカスで、ロン毛でくせっ毛のブドウを模した髪型(美しい巻き毛)をしている。

ティチアーノの「バッカスとアリアドネ」という作品では、一般的な男性の髪型は刈り込まれていたり、若者はロン毛で表されますが、カールした人はいません。バッカスはブドウ酒の神様なので、ブドウの房を髪の毛の形状(巻き毛、カールさせた長髪)で表されています。絵画作品の中にはぶどうを頭にぶら下げて表現しているものもあります。

そしてバッカスの愛人がアリアドネであり、アリアスという名前はそこからきた可能性が高いという説が有力です。

混乱の元となる原因が、後世に伝わる過程で誤って伝えられたのか、同じ彫刻で女性像のものがあります。この像と同じスタイルで女性にしている像があるのですが、見分け方は首の太さが違うことです。女性像は首が細いのが特徴ですが、本石膏像は首が太く、これはこの像が男性像であることを示しています。

しかしながら日本では女性像であるという前提で輸入されたらしく、多くの美術解説書でバッカスの妻のアリアス像として伝えられています。また、一番最初に導入された時期は明治期にイタリアやフランスの画家達を招聘する時に彼らから持ち込まれた石膏像に含まれていたのではないかとする説があります。

作者は大彫刻家プラクシテレス。その造形的な特徴について。

作者はプラクシテレスの流派を組む者

古代彫刻家のプラクシテレスの流派、造形的な特徴を持つ


アリアス石膏像の元となった彫刻は紀元前4世紀のアッティカ(現ギリシャのアテネ周辺)の彫刻家プラクシテレスによって原型が作られたと考えられています。アリアス石膏像はその原型の何代目かのコピーが日本に伝わったものです。

造形的な特徴はプラクシテレス派の彫刻であることを示す厳格な構造、角度表面の柔らかさの両立にあります。

基本構造は首と顔の角度が揃っており、角度がぎっちりして直線的、直角的。さらにコントラポスト(左右不均衡)がしっかり守られています。そうした厳格なガチガチ構造の土台の上に柔らかな表現、呼吸しているかのような、運動しているかのような動きの表現が施されています。

土台設計は堅いのに表面は柔らかいという作品の特徴はプラクシテレスを古典時代の頂点と評価する見方にも繋がっています。

土台の構成はきっちりしているが、表面は柔らかい。

土台の構成はきっちりしているが、表面は柔らかい。

・角度に意味がある造形
造形作品は角度に意味があります。直角というのは他の角度に比べて力強さや優位さを示します。

例えば現代アートでは立方体をテーマにした作品もありますが、長方形の中でも直角で構成された立方体は特別な力強さを持ちます。

角度には60度、90度などいくつかありますが、それぞれに強い・弱いの意味があって、それを利用するのが彫刻です。音楽でいうと「ドレミファソラシド」のスケール・音階であり、それが成立しなかったら曲が作れません。造形とは角度の意味を知り、強い角度と弱い角度を使い分けることです。

90度の直角というのはとても力強いもので、運動性も表現できます。直線も直角同様に力強い表現ですが、運動性が入りません。
現代彫刻で直角が多いのは完璧な形を求め、全てが直角で単位が同じという認識しやすいかたちが強い形と認識されるからでしょう。
他にも満月などの完全な円という一番認識しやすいかたちは強い優位性を持つ形と認識されます。自然界では直角や円は特異な意味を持ちます

アリアス石膏像はプラクシテレスが作った造形の特徴(古典のカノン)がこめられています。ローマ時代に模刻が作られましたが、土台となる直角ガチガチ構造が捉えられていない作品もあって、表面の軟らかい特徴のみを捉えたぐにゃぐにゃした作品になってしまったものもあります。

プラクシテレスの造形は基本設計に力強さがあり、表面は一切論理を拒絶するかのような柔らかさ、柔和さ、雄大な感じを持たせています。かっちりした基本構造そのままやるとカチカチになってしまうのに、表面の柔らかさで土台の構造を中和させています。これは理屈派のミケランジェロとは造形が真逆だとも言えます。(ミケランジェロは理想を表すために論理的なしつこさに特徴があって、本来要らない、ありっこない場所にスジを置いたり、シワを置いたりしています。ねじり、ひねりを出すためにこの位置にシワがあるに違いない、と理屈を優先して造形していく姿勢です。)

・プラクシテレスは最初にオールヌードのビーナス像を作った人
プラクシテレスは最初に全裸のビーナス像を造った人として知られています。今で言う女神のシンボリック的なイメージはプラクシテレスが作りました。自分の力量に相当自信があったのでしょうね。

神話の知識:ギリシャ神話のデュオニソスはローマ神話のバッカスと結びつき、陶酔と芸術の神に。


デュオニソスはギリシャ神話のブドウ酒と酩酊の神でしたが、ギリシャがローマ帝国の一部となると、ローマ神話のブドウ酒、お酒の神であるバッカスと結びつきました。

デュオニソスは同じギリシャ神話のアポロンと対比される存在でもあります。

アポロンは整然とした規則正しい美を代表していて、音楽でいえば調和を求める器楽的なものです。

一方でデュオニソスは陶酔の神で、演劇や舞踏舞踊、歌などの芸術に代表されます。デュオニソス祭では、ギリシャ悲劇などの催し物が開催されています。お神楽みたいな、おまつりや恒例行事を司り、こうした人を酔わせる陶酔的な芸術の守護神でありました。

デュオニソスの持つ陶酔という要素がよっぱらい=お酒の神様とつながって、ローマのワイン酒の神バッカスとつながりました。結果としてバッカス(デュオニソス)は文化芸術の守護神となりました。

今回のテーマであるアリアス像はバッカスを現していますが、表情がお酒と陶酔の神様である割に落ち着いていますよね。これは人間にとって平安こそが最高の恵みだと考えられていたからだと言われています。古代ギリシャは神が調和や法の精神を表すものとして神々の像には調和を求めて造形しました。これに対して感情で喜怒哀楽を示すのが人間です。これは何も西洋の像だけの話では無く、仏像にも共通している表情で、神々の微笑み・・・と言えるものなのかもしれません。

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