デッサンのモチーフとしてよく使われる石膏像の知識をまとめてお伝えする石膏物語、今回はメディチ胸像です。実は本人とは似ていない極度に美化された像で、ミケランジェロ作品独特の味わいが出ています。
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メディチ像の由来と経緯について メディチ家の霊廟としてミケランジェロが依頼されたもの
この石膏像の元となった彫刻はメディチ家の霊廟としてミケランジェロが依頼されたもので、1519年ごろ制作されました。
メディチ家のロレンツォとジュリアーノの兄弟の墓という予定で制作されたのですが、当時既にジュリアーノはフィレンツェの内紛でフランチェスコ・デ・パッツィの手により亡くなっていました。ルネッサンス時代は暗殺毒殺が当たり前の時代でもあったのです。
ミケランジェロが依頼された時点で本像のモデルとなるジュリアーノメディチは亡くなっており、ミケランジェロはジュリアーノメディチの過去の絵画や彫刻作品を元に造形を作り上げていきました。
超美化された像。ミケランジェロは統治者にふさわしい気品と知性を表現することを目的とした。
ミケランジェロは非常に美化したメディチ像を造りました。ミケランジェロは統治者にふさわしい気品と知性を表現しようとしたのです。ミケランジェロは常に人間の尊厳をテーマに彫刻を作り続けており、ミケランジェロに依頼すれば美化して描いてくれるという評判もあったのでは?と思うほどです。
他の肖像画と比べるとミケランジェロの造形はかなり美化されていることがわかると思います。
力と尊厳を描くこと、これは古代ギリシャから続いている表現でもあります。すべてのものに尊厳を認めていく姿勢は古代の美術からきており、例えば戦争の敗者や悪魔もすべてたくましい姿で描かれています。戦闘で倒した相手が弱く描かれていたら、その勝利も半減されます。敵対する相手がいかにすばらしいか、力強いか、という尊厳を大切に描いています。そうした古典古代の伝統にミケランジェロはのっとっているわけです。
ミケランジェロのより具体的な造形的な特徴は、解剖学的で観念的。ボディービルダーが力をはったような、言い換えれば力を抜いた時には決して現れないような筋肉や筋を平常時にも描く、表現していることにあります。プラクシテレスとは真逆ですね。
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