「赤を身につけるとなぜもてるのか?」まとめ&要約レビュー “身体化された認知”への招待

赤を身につけるとなぜもてるのか?」を読了しました。日本語の俗っぽいタイトルとは裏腹に、数多くの心理学実験に裏付けられた身体と心の働きに関して考察した真面目な本です。原著タイトルはSensation The New Science of Physical Intelligence(身体の知性)。これまでの心理学は自分がどう考え感じているのか、主に心(頭脳)の働きを軸に展開してきました。しかし本書では「身体化された認知」、つまり体で感じている五感が私たちの普段の日常生活の中で無意識に考え方や気分に大きく影響を与えていることを実験で証明しています。以下、本書のまとめ要約レビューです。

「赤を身につけるとなぜもてるのか?」/原著「Sensation The New Science of Physical Intelligence」
タルマ・ローベル著(Thalma Lobel)
池村千秋[訳]
文藝春秋 2015/8/10

温度の影響


温度と気分は私たちの感情と密接に関係しています。コップの温度と気分に関しての実験では、暖かいコップを持たされた人は許容力が増して優しくなり、他人が親切に見えて、頼まれごとにもOKをしやすくなります。一方で冷たいコップを渡された人は目の前の人に冷たい印象を覚え、どこかよそよそしく孤独感を感じる割合が高くなりました。

その時の気分によっても温度の感じ方は変わります人から疎外されたり、冷たく扱われたと感じている人は部屋の温度を冷たく感じ、誰かと一緒にいて楽しい気分の人は温かく感じます。パーティー会場で知り合いが全くいない人はコートを脱がないことが実験で示されていて、孤独感が強い(場が慣れていない)人ほど上着を脱がない傾向が示されています。

誰かと距離を縮めたいときや、こわばった心をほぐすのに暖かい飲み物を提供して共有することは心理学的にも理にかなった行動と言えます。

手触り


触覚も大きく私たちの感情や気分を左右します。ゴワゴワして堅い物は緊張と冷たさを連想させ、一方でフワフワして柔らかいものは優しさと安心を生みます。子供達に柔らかいぬいぐるみを買ってあげることは不安の多い時期を乗り越える助けとなります。

人とのふれあいは他者への信頼感を増やすことを実験が示しています。ウェイトレスが軽くお客さんにタッチすると貰えるチップの額が増えたり、難しい頼み事をする時に体にわずかに触れた方が信頼して聞き入れて貰える傾向が高まりました。

イスの材質も重要です。何か難しい交渉ごとをする時は、ソファに座って貰った方が柔軟な対応を期待でき、OKを貰いやすくなります。一方で、堅い椅子だと頑固な態度になりやすくなります。柔軟な姿勢で交渉に臨むには、堅い物をさけ、柔らかい物に囲まれているほうが良いのです。人の気分は今触れているモノの肌触りから大きく影響を受けているのですね。

重さ


荷物の重さも人の気分に重大な影響を与えます。重い荷物を持った人ほど、目的地までの距離が遠く感じ、気が重くなり、目の前の仕事や目標、計画が困難であると感じる傾向があります

一方で、重さは権威と関連付けられます。人事が履歴書を評価するとき、重たい用紙を使っている履歴書ほど信頼でき、対象者も適格な人物であると判断される傾向が出ています。

モノだけに限らず、心理的に何か秘密や嘘を抱えているとそれが精神的重荷となり、集中力や活力といったパフォーマンスの低下が見られます。心が重いと体も重くなり、実際に持ち上げる荷物も重たく感じるようになります。

外出するときはいかに荷物を軽くするかを重視した方がいいでしょう。可能な限り荷物を軽くすれば身軽になり、神経質さも減って気分も活力も向上するのです。心の秘密といった精神的な重荷は書き出したり、信頼の出来る人に話すなどして軽くすることもより良い毎日を送るために必要なことです。

赤色の心理学的効果

本書の日本語版タイトルにもなっている赤色が人の心に及ぼう影響についての知見です。赤色は異性に対して絶大な効果を発揮します。女性は赤色を身につけることで男性から魅力的(セクシー)に映り、男性の場合は権威や高い地位があると見なされます。アメリカのトランプ大統領が勝負どきに赤いネクタイを好むのもまさにこの心理的効果を狙ってのことでしょう。赤色は古今東西問わず、人類共通の性的魅力を向上させる強力な色なのです。

赤色の影響は平均的な容姿レベルを持つ人ほど効果てきめんで、元々高いレベルの美男美女を逆転させるほどの効果は無いものの、侮れないレベルであることが示されています。

また、スポーツや運動の分野でも赤色は有利に働きます。ユニフォームが赤色のチームほど勝利回数が多く、審判から反則を受ける確率も低かったた調査があります(黒色が最も反則行為と結びつけられた)。

しかし、一方で赤色が不利に働く場面もあります。学業分野と言った知的頭脳を使う場面では、赤色は明確に成績や集中力を下げる効果が調査結果によって明らかになっています。赤い色のノートや文房具を使っている生徒はそうでない生徒に比べて成績の低下が顕著にみられました。集中力や頭脳労働をする時は、青色が良い影響をもたらします。(私はこれを知って、パソコンのペルソナ5の壁紙(参考)を辞めて青色系のものにしました…)

光と気分


光の量も人の気分を大きく左右する要素です。冬になると気持ちが沈み、鬱になる人が増えるのは日照時間が少ないためです(季節性感情障害SAD(Wikipedia))。

明るさは幸福感と結びつけられ、暗さは陰鬱とした気持ちの落ち込みと結びつけられます。白と黒は特別であり、白い服を着た人は親切で優しい人に見えて、黒い服を着た人は近寄りがたい印象をもたらします。黒はファッションの分野で上品さと結びつけられますが、一方で犯罪や暴力とも結びつき、黒を着た人はそうで無い時に比べて暴力的になるという実験結果も出ています。サングラスをかけた人は普段よりも不正を働きやすくなるそうです。

明るさの感覚は心の状態も反映していて、明るい気分の時は実際に明るく感じ、暗い気分の時は世界が暗く見えます。以下の図のチェッカーシャドー錯視の例にあるように、明るさを感じる時は光の量以外の要因が大きく影響しているのです。

チェッカーシャドー錯視 AとBは同じ色 画像出典:Wikipedia

また、人は薄暗い場所ほど不正行為をしやすい傾向があります。人生全体の感じ方も、日当たりの良い場所で過ごす時間が長い人ほど人生への満足度が高く、暗いところで過ごす人ほど不安やストレスに悩まされる傾向にあります

空間と距離

空間や距離も心理的な意味を持ちます。物理的な距離が近くに居る人ほど親切で良い人だと認識する傾向があります。ミーティングの場面では、テーブルの距離が離れているほど冷静に話し合うことができ、近くに接近しているほど感情的なやりとりになる傾向があります。

人は誰しもこれ以上近寄られると不快に思うパーソナルスペースを持っています。このパーソナルスペースが破られた場合、人はより自分の個性をアピールするようになります。自分は他の人達とは違うんだ、ということを証明するような行動をとりやすくなります。具体的にはより自分を主張するようになったり、攻撃的になったり、服を選ぶときなどで個性が出るような服を選ぶようになります。

至近距離に近づけられると人の不安を司る脳の領域である扁桃体が活性化するとのこと。脳の扁桃体が損傷した人は、至近距離でも不快な感情を抱かなくなります。

近年はメールやSNSでのやりとりが増えており、こうした物理的距離が意味を持たなくなった文字情報しかないやりとりは実際の会話よりも攻撃的に受け取られることが分かっています。テキストでのコミュニケーションはより繊細な配慮を持つ必要がありますね。

距離感を意識するだけで感情が操作できるので、相手の感情を引き出したいときは至近距離で話し、冷静に判断して貰いたいときは距離を置くなど、会話の内容によって距離感を変えることを意識すると良いでしょう。

高さと大きさ、上と下の印象


背が高い人ほど仕事が出来て、実際に収入も多いという調査結果が出ています。体の大きい、小さいは成功や身分の上下関係に結びつけれていて、力関係の強さ&弱さと関連づけられます。

選挙で勝った政治家や権力を持っている会社の重役などは、実際の身長よりも高く見られます。子供の頃、おじいちゃんや学校の先生の身長が高く感じたのは権力と背の大きさが私たちの認知の過程で結びついているからです。

カメラの構図では、上から見下ろした角度は対象を小さく弱くみせ、下から見上げた角度は対象を力強い威圧的な人にみせます。海外の出会い系サイトの印象調査では、男性は下から上に見上げたアングルの写真が好まれやすく、女性は見下ろした角度の写真が好まれるとのこと。それぞれ異性に求める役割のような要素を写真から無意識に判定していることになります。

天国は上、地獄は下と関連づけられているように、上には聖なる良いイメージ、下には不浄で程度の低いものというイメージが結びつけられています。こうした傾向は人類共通で人が本質的に持っている感性であると言えそうです。

浄めと罪悪感、道徳性

浄めの儀式は実際に人間の心理に強い影響を与えます。私たちは体を洗うことで罪悪感や過去の選択で積もったものを洗い流すことができます。古来宗教では水と浄化が結びつけられてきました。実際に水で洗い流すと言った浄化の儀式は人の心を落ち着かせ、罪悪感や重荷をとり去る効果があります。

個人的に本書の中でも凄く驚いたのですが、お風呂やシャワーを浴びた後は、カンニングといった不道徳な行動をしやすくなるそうです。これは体を洗ったことで罪悪感が減り、よからぬ事をするのに躊躇が無くなるからだそうです。実際にお風呂上がりに大きな買い物をしてしまう事があったので、なるほどなぁ、と感じました。

人は罪悪感といった心理的な汚れを感じたときは、物理的にその箇所を洗いたくなります。何か悪いことを口走ったりした時は口をゆすぎたくなり、海外の調査では、子供のお金を稼ぐシングルマザーの売春婦は仕事終わりに自分の子供達と合う前に念入りに長時間シャワーを浴びるといいます。

また、私たちは清潔さと道徳性を結びつけています。スーツに汚れがついた人の薦めた商品はどこか信頼が置けず、綺麗にスーツを着こなした人が薦めた商品は信頼が置けるものと考える傾向にあります。私たちの感じる道徳的なものは、見た目や環境によってこうも簡単に影響されているのです。

匂いの影響と甘さ


匂いが持つ人の気分に与える影響は多大です。甘い匂いは気が緩み、穏やかでリラックスした気持ちになります。甘い物が好きな人にはいい人も多いそうです。実際に初デートの時は甘い物を一緒に食べると距離を近づけることができるとする研究もあるので、匂いや甘さの影響は思ったよりも直に人の感情に訴えるものなのでしょう。

マーケティング戦略では匂いが多分に使われていて、バニラの香りは購買力を強めるそうです。チョコレートを模した製品を売るときはチョコレートの香りを漂わせることが効果的だとか。ラベンダーの香りで客の滞在時間長めたり、ダンスクラブではペパーミントの香りを流すことでよりお客さんを活動的にさせたりと幅広く使われています。

ネガティブな感情と結びつくのは魚のにおいです。魚の匂いは疑いと疑念を連想させ、自分が疑心暗鬼の時は魚の匂いに感づきやすくなります。

本書での言及はありませんが他の匂いに関しての調査では、集中力を上げるときにはカモミールの匂いが効果的で、

リラックスや就寝前にはラベンダーの香りが効果的とされています。

閃きと環境

新しい発想や閃きがどれだけ浮かぶのかについても環境の影響が大きいとのこと。蛍光灯よりも白熱灯の部屋の方が閃きが湧き出ることが実験で示されています。また、机に向かって集中するよりも、自由にどこかを歩いているときにアイデアは出やすくなります

嫌な思い出は紙に書いて封筒に入れて封をすることで忘れられ、頭がスッキリします。モヤモヤした思考をモノとして見える化(身体化)し、処理することで実際の心身に侮れないレベルで良い効果があります。

また、電球など創造性のシンボルとされるものに見たり触れたりしたときにも創造性の能力が高まるそうです。おそらくこれは脳のシナプスのアイデアの領域が活性化されるためではないかと私は考えています。

総評

読みやすさ ★★★★★★+
教養    ★★★★★
満足度   98%

著者はイスラエル人の女性心理学者。イスラエルは男女関係なく従軍の義務があり、従軍していた時の経験から「環境や状況の変化が人の心理にどう影響を与えるのか」に興味を持ったといいます。一見すると信じられないような結果ばかりですが、どれも複数の実験によって証明されたものだというから驚きです。一見すると嘘のような話。でも、よくよくこれまでの私たちの行動や思考を振り返ると、なるほど、と納得出来ると思います。

本書は非常に読みやすく、親切に章ごとに内容のまとめリストまで用意されています。日本語のタイトルが薄っぺらいモテ本のような印象なのが勿体ない。巻末に参考論文リストも掲載されており、立派な心理学書です。

日本語タイトルにある赤といった色彩心理学は一部で扱われており、五感が人間心理にどう影響を与えるのかについて全般的に扱った良著。視覚や触覚から無意識に多くの情報を受け取って、それが気分に絶大な影響を与えていることは、いかに普段過ごす生活環境が大事かを意味しています。

本書のテーマである五感で感じる身体的認知の知識は実社会でも広く応用が利く分野で、これから先も研究が進んで行くでしょう。黒は悪と結びつき、赤は魅力的に映るといった心理学の知見は個人的にも興味があるキャラクターデザインなどにも応用できそうです。

参考・出典

チェッカーシャドー錯視(Wikipedia)

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