【書評・感想】科学的な適職 後悔しない人生選択をするための大きな助けとなる一冊。

【書評・感想】 科学的な適職 後悔しない人生選択をするための大きな支えとなる一冊。

【書評・感想】 科学的な適職 後悔しない人生選択をするための大きな支えとなる一冊。
サイエンスライター鈴木祐さんの「科学的な適職」を読了しました。人生で重要な仕事選び・キャリア選択に関しての心理学研究の知見を総括した一冊で、仕事選びやキャリアについて迷う人の大きな助けとなる一冊です。以下自分なりに本書から学んだことや気づいた事、考えた事などをまとめます。

職業選択にありがちな7つの大罪とは?

本書では7つの大罪になぞらえて、職業選択をする時に人が陥りやすい7つのポイントを「職業選択にありがちな7つの大罪」としてまとめています。

大罪1.好きを仕事にする
自分の好きを理由に仕事を選ぶ人もいますが、そうした人ほど現実の仕事を受け入れられず、燃え尽き症候群に陥る可能性が高くなり、結果として仕事が長続きしない研究が出ています。今ある仕事よりももっと自分に向いた仕事があるのでは?と疑念を抱いたり、自分の夢の職業についたのはいいけれど、現実は人間関係のしがらみもあったり、続けていくうちにマンネリ化してきたりして、その幸せは長続きはしないということです。さらに会社側に情熱を利用され、やりがい搾取の被害にあいやすくなり心身の健康を損なう一面も。一方で仕事は仕事と割り切る人が最も仕事について長続きするのは面白い発見でした。

大罪2.給与の多さで選ぶ
たくさんお金がもらえるから、という理由で仕事を選ぶのも問題です。行動経済学者のダニエル・カーネマンによれば、収入が増えることによる幸福の増加はおよそ年収850万円ほどで頭打ちとなり、それ以上所得が増えたとしても幸福の増加は微々たるもの。そもそも収入と幸福との関連性は極めて低いとするデータ(r=0.15)が出ており、大きく稼ぐ喜びは慣れてしまうため長期的な幸福に寄与しない結果が示されています。

大罪3.業界・職種で選ぶ
「これから伸びそうな分野だから」「自分が好きな分野だから」という理由で職業を選ぶものですが、専門家でも未来のトレンドを予測することは不可能に近く、また将来的に自分の興味が変化する可能性もあるのでオススメできない方法だとのこと。現在の価値観が絶対的なものだと考えてしまう傾向にあるため、5年後、10年後に自分の興味や業界の勢いが変化しても自分は後悔しないか?を考えることが重要だとか。

本書では大罪の一つに数えられていますが、個人的には入り口として好きな業界で選ぶのはアリだと思っています(新卒で業界選びをする時もみんなそんなものだと思う)。

大罪4.仕事の楽さで選ぶ
これは自分にとって楽な仕事であることを重視して選ぶものですが、実際は楽な職場ほど身心の健康を損なう確率が高いのだとか。これは実際私も経験があるのですが、社内ニートや窓際族ほど鬱になる環境はないですよ。やはり人間、健康のためにはある程度のストレスも必要。適切な難易度の仕事はフローにも入りやすくし、適度なストレスは仕事の満足度を大きく高めます

大罪5.性格テストで選ぶ
性格診断で自分の強みや性格特性を元に職業を選ぶこともオススメできないとのこと。そうしたテストも結局は職業適性・満足度の予測力がないことが示されています。

大罪6.直感で選ぶ
職業選択の場面では直感は役に立ちません。直感で選ぶ人ほど自己正当化する傾向があり、論理的に選ぶ人よりもストレスが高く満足度も低い結果とのこと。

直感は「ルールが厳格に決まっている、何度も練習するチャンスがある、フィードバックがすぐに得られる」環境でのみ有効に働きます。チェスや囲碁のゲームなどがそうですね。職業選択といった人生の重要な岐路となる場面ではより合理的、論理的に考えた方が良いと言えます。

大罪7.適性にあった仕事を選ぶ
これまでの仕事経験やインターンシップでの経験は将来の仕事の成功や満足度、適性を予測できないとのこと。意外な結果ですが、そもそも自分の強みと仕事の満足度との関係には疑問符がでており、例えば自分と同じ強みを持った人がすでにその職場にいれば満足度は下がりますし、逆にその組織に自分の強みを持った人がいなければ自分の価値が発揮できて活躍できるので満足度は高まります。仕事の満足度との観点で言えば他者との比較や組織内の人間関係の方がよほど重要とのこと。

以前当ブログで紹介したストレングスファインダーも結局はギャラップ社の独自調査でありエビデンスのレベルは低いそうです。あくまで自分の「強み」を参考にするまでのもので、適職探しという観点からは自分の「強み」は仕事の満足度を左右する絶対的な道標ではないのです。

仕事の幸福度、人生の満足度を高める要素とは?

では幸福になれる、満足できる種類の仕事にはどのような特徴があるのでしょう?本書では、自由、達成、焦点、明確、多様、仲間、貢献の7つのポイントを挙げています。

自由
自分の仕事に裁量権があることです。自分のペースで自由に仕事を進められる人ほど幸福です。会社の上層部にいる人ほどストレスも多いですが健康で幸福であるのは、立場が上の人ほど自分の仕事を自由に進めることができるからです。一方で下っ端ほど自由がきかず、ストレスを溜めがちになるのは、自分の発言がなんら影響もなく、ただ人から言われたことをこなす不自由さからきています。

達成
心理学者のスティーブン・クレイマーとテレサ・アマビールの「マネジャーの最も大切な仕事」でも言われているように、前に進んでいる感覚、達成感はモチベーションや満足度を大きく高めます。ポイントなのは、前に進んでいる感覚は嘘でもいいこと。喫茶店やとんかつ屋のスタンプカードはつい埋めたくなりますよね。前に進んでいる感覚を感じさせる何かをもつことが重要です。

焦点
人それぞれモチベーションタイプというものがあって、攻撃型と防御型の二つに分かれます。判別方法など詳細は本書を読んで欲しいのですが、攻撃型は進歩や成長を実感しやすい仕事、防御型は安心感と安定感を実感しやすい仕事がいいそうです。(ただこの検査、私が測ったらほとんど差が出なかったんですよね…。)

明確
自分がどんなことをすればいいのか、何をすればいいのか明確なほど良いです。上司の指示が一貫しないストレスは想像以上のもので、与えられた役割や今自分が受け持つ責任範囲がはっきりしているほど良いです。昇進や昇給、信賞必罰が明確なほど、目に見える形で実践しているほど良いそうです。

多様
これは仕事に変化があり、自分のいろんな能力を発揮できる機会があるかどうかです。ずっと同じタイプの仕事で同じ能力ばかり使っているよりは、多少毎日の仕事に変化があるとマンネリ化せずに過ごせるということです。

仲間
個人的に一番納得したのがこの仲間の項目です。職場になんでも相談できる友人がいるほど幸福度やモチベーションが極めて高くなります。失敗しても支えてくれる仲間や、叱責せずに受け入れてくれる仲間、笑って支え合えるような仲間がいるほど給料の高低や仕事の種類にかかわらず人生の幸福度が高まります。

貢献
誰かの役にたつ、世の中の役に立っているという貢献の感覚も仕事の満足度を高めます。人間は社会的動物として進化してきましたが、誰かの役にたった感覚を持つと脳内で快楽物質のドーパミンが放出されるそうです。いわばヘルパーズハイと言われる状態。自分のしている仕事が何に生かされ、どんな人の役に立っているのか実感できることがモチベーションを高めます。

仕事や職場で取り除くべき悪とは

人を不幸にし、消耗させる職場には共通点があります。全体的に不規則で長時間の負荷を強いるタイプの労働が厳しいようです。

最悪の職場に共通する8大悪
・ワークライフバランスの崩壊
・雇用が不安定
・長時間労働
・シフトワーク
・仕事のコントロール権がない
・ソーシャルサポートがない
・組織内に不公平が多い
・長時間通勤

ソーシャルサポートがない職場とは、ミスが許されず、問題を自分で抱えこむような萎縮させる職場ということ。ソーシャルサポートはチームメンバーに対する信頼感のことで、ちょっとミスやヘマをしても過度に咎められることがなく(安全で)他の人にサポートを頼むことができるという感覚です。私の経験で言うと、完璧主義で失敗を恐れる人ほど同僚に相談できず自分でなんでも抱え込んでしまいますが、失敗しても安心感がある感覚、他のメンバーに気兼ねなく頼ることができる感覚がソーシャルサポートの高い職場と言えるでしょう。

通勤時間は短ければ短いほどよく、通勤時間が長いほど離婚しやすく太りやすくなるそうです。

フリーランスの人は土日という概念がなく、働く時間が自由に選べる分、きっちりとした時間管理ができずにダラダラと働きすぎてしまうことがあります。その分仕事の裁量権(自由度)が増えるので、会社員とフリーランス、どっちが良い悪いではなく人それぞれ自分にあった働き方があるということです。

考察と実践

人が陥りがちな職業選択の罠と幸福な仕事の要素、これらを知識として頭にいれた上で、本書では様々な心理テストや質問項目などで自分の思い込みを外し、科学的に自分の適職が見つけられるように作られています。その詳細な手順は本書に任せるとして、以下自分なりに本書から得られた知見をどのように実践するのか考えをまとめました。

情熱は後からついてくるもの。なんとなくはじめて徐々に面白くなってくる仕事の方が長続きする。人がその対象に情熱を持つのはこれまで注いだエネルギーの大きさに依存しており、行動するほどその対象に情熱を持つようになる。

関連:行動をするからやる気が出る 作業興奮の原理は情熱にも働く

・給与の高低は適職探しの基準にはならない。

・いくら好きな仕事、夢の職場に就けたとしても、いずれ飽きがくる。大事なのは職場の人間関係や、貢献している感覚。

・適職を探すときや、新しい職場では自分と似た人物がいるかどうかを気にした方がいい。職場で友人が作れたら仕事の幸福度や満足度が大きく跳ね上がる。

・面接では仕事の裁量権やどのような評価基準があるのか、自分と似たタイプの人がいるのかどうか聞いた方が良い。未来の上司や同僚に遠慮して質問しないよりも、聞きにくいことでもしっかり質問することが幸福な職場選びに欠かせない。(→正しいことを聞いて悪印象となるようだったらそもそもその職場は選ばない方がいい。)

・週に40時間が心身に悪影響を及ぼさない労働時間の限度。それ以上働くと心身に悪影響が出てくる。プライベートと仕事を切り分けずに熱心な人ほど自分が働きすぎていることに気づかない。(→ブラック企業は論外として、やりがいや情熱に突き動かされて猛烈に働きすぎてしまうと反動で燃え尽きてしまう危険性があるからしっかりと休むことも重要)

・未来は読めず、人間にはバイアスや思い込みがある。一度良いと思うと他の面が見えなくなる。その逆も然り。科学的に適職を判断するとは、客観的に思考を書き出し、合理的に判断していく過程を実践すること

感想・まとめ ほとんどの失敗は視野狭窄から起こっている。自分の思い込みを除外し、正しく職業選択の意思決定を行う上で本書ほど有益な本は読んだことがない。

キャリア選択に迷った時の助けとなる一冊。

本書では自分にとって幸福な仕事選びのためのステップをAWAKEステップと題して体系的にまとめています。

AWAKEステップ
幻想から目覚める(Access the truth)→未来を広げる(Widen your future)→悪を取り除く(Avoid evil)→歪みに気づく(Keep human bias out)→やりがいを再構築する(Engage in your work)

要するに、

人間は未来予想が大の苦手で、その分野の専門家でも未来を正しく判断することはできない。
・人間は自分にとって都合の良い情報ばかり吸収し、自分を客観的に見ることができない。自分で自分を都合よく言い聞かせているので、客観的に自分を見ることが正しい判断のためには必要となる。

ということで、自分の思い込みから視野狭窄に陥り、自分に合わない職場に適応しようとしてしまうことが問題とされています。本書では人が陥りがちなバイアスと研究で得られた人に害となる職場の要因を総括し、自分で自分のバイアスを外して正しく適職が選択できるように丁寧に作られています。

キャリア選択の知識としては十分すぎる量が一冊に込められており、私は大学時代にキャリア心理学の講義を取っていましたが、本書一冊でそれ以上の価値があると感じます。全ての学校が進路相談室に購入するべき一冊でしょう。

一方で本格的で知識量が膨大で、プロコン分析やイリイスト転職ノートなど馴染みのない概念が出てくるので、本書で述べられている方法論を実際の行動に移すのが難しいと感じる人もいるかもしれません。その場合は、信頼できる家族や友人と一緒になって本書の内容を取り組んでみると捗るのではないかと思います。

著者の鈴木さんの本は可能な限り全てチェックしていますが、だんだんブックデザインが洗練され、上質さを感じるものになっているのも読者としては嬉しいですね。エビデンスに裏付けられた使える知識を一般読者に分かりやすく届ける、この点で著者の鈴木さんは日本でダントツだと思います。

具体的な心理質問項目やチェックツールについては本書の中に詳しくやり方が述べられているので、ぜひ手にとってみてください。キャリア選択に悩む全ての人に、年齢性別関係なく使える一冊です。

■「科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方」鈴木 祐 (著) クロスメディア・パブリッシング(インプレス) (2019/12/13)

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