黒川塾59 「eスポーツの展望とゲーム依存症を考察する会」に参加してきた【後編】ガチャと射幸性とゲーム依存

今回は「黒川塾59「eスポーツの展望とゲーム依存症を考察する会」に参加してきた」の後半記事です。eスポーツをテーマにした前半とは趣を変え、後半ではガチャと射幸性の話も含めたゲーム依存症の話がされました。ゲームと健康に関して、興味深い話をまとめます。

【前半】「eスポーツ」についての記事はこちら

本題のゲーム依存についての話の前に、EUにおけるガチャ課金(ルートボックス型アイテム課金)規制についての話がされました。

EUベルギーのガチャ規制の影響 ベルギーレギュレーション

つい先日(参考)、EUベルギーでのルートボックス型課金(日本で言うスマフォゲームのガチャ課金)はRMT(リアルマネートレード)の有無にかかわらず賭博規制の対象になることが決められました。これまでEUでのガチャ規制はダッチレギューレション(オランダで決められたガチャ規制)があり、そのダッチレギュレーションは、RMTの有無によって、賭博規制の対象とするかどうかを判断するものでした。

RMTとは

RMTとはリアルマネートレード(Real Money Trade)の略称で、ゲーム内データを現実世界のお金で売買する取引のことです。オランダで決められた規制の枠組みでは、このRMTの有無によってゲーム内データを現金化できるかどうかが焦点でした。

今回話題に出たベルギーレギュレーションはルートボックス型のアイテム課金をRMTの有無にかかわらず、課金形式自体を射幸心をあおりプレイヤーに望ましくない影響を与えることとして規制したのです。

このベルギーレギュレーションとダッチレギュレーションのどちらをEU議会が採択するかでEUにおけるゲームアプリ展開が大きく変わってきます。ベルギーレギュレーションが採択されるとすべてのゲームユーザーは自らのゲームデータを自由に処理できなくなります。これはすなわちゲームデータに対する財産権が認められないこと(財産権とは意のままに所有者が財産を処分できる権利)になります。ゲームデータに財産権が認められないとすると、ゲームメーカーは全ユーザーのアイテムデータ保全の義務が発生するため警戒しているのです。これはEUの人たちが日本のサーバーに接続して日本のゲームを遊ぶことも対象となり、罰金としてゲーム会社に全売上げの何パーセントもの罰金を払うことも可能性としてあるとのことです。EUのゲームユーザーのデータはEU専用のサーバーに移動しなくてはならないことになり、ゲーム会社としては負担が強まります

射幸性があるほど人は依存を深めてしまう。このため、世界ではガチャ課金(ルートボックス課金)が問題視される流れが広がっています。

ゲーム依存と依存の質の変化

WHO11条に新しくゲーム依存の問題が取り上げられ話題となりました(参考)。ゲーム依存は他のものよりも長い期間人間を拘束するのでその人の人生全体に不可逆的な損害(学業不振による留年、仕事を辞めてしまう)を与えてしまうことが大きな問題となります。

◆ゲーム依存性の質の変化

ゲーム依存は「お金と時間」の資源を奪い、深みにはまれば人生を破壊するものですが、過去と今では変化があります。かつてゲームと依存性が語られる文脈では、「関係性依存」が指摘されました。これはオンライン上に形成されたつながりに依存することです。例えばオンラインゲームFFXI(ファイナルファンタジー11)ではギルドメンバーに迷惑をかけないために深夜まで無理に起きてプレイしたり、実生活の仕事や学業を犠牲にしてでもメンバーのためにアイテム集めなどに時間をかけるなどの行為がありました。しかしこうした関係性依存は時間が代償となるものの、いつかは卒業するタイプの依存でした。今はガチャ課金の存在が大きくなったのでお金を使いすぎてしまうような、課金タイプの依存が増えてきました。中には借金をしてまでガチャのために課金をする人までいるとのこと。私の実体験からも言えますが、ガチャの射幸性はとても強烈なもので、ハマるタイプの人ほど知らず知らずのうちにウン十万、ウン百万もの大金をガチャ課金に消費してしまうこともあるのです。スマフォゲームの台頭により、ガチャ課金式のゲームは広く一般に行き渡りました。このため、ゲームは社会からの取り扱いがギャンブルにより近くなっているのです。

正しく実態を見ることの重要性

本テーマで一番興味深く聞けたのが依存症の文脈で語られた数字と実態の話でした。特に依存や中毒という問題点を指摘し、世論に向けてあおる人は数字を盛りすぎる傾向があるとの指摘が印象に残りました。

木曾さんはギャンブル業界で長らく経験したギャンブル依存の問題が今度はゲーム業界にもくるだろう、との見解を示し、パチンコ業界がたどった苦難のストーリーを話してくれました。

ギャンブル依存のストーリーは日本にカジノ導入が騒がれた2015年ぐらいから社会問題化し、ギャンブル依存症について活発に議論されました。先陣を切って推進してきた人の中に久里浜医療センターの樋口さん(参考)がおり、彼は依存症の開拓使としてアルコール依存、ギャンブル依存、ゲーム依存問題を社会にアピールし、予算を貰い精神科業界を盛り上げてきた人物です。そんな彼らが提示してきたギャンブル依存患者の数540万人はあまりにも大きな数字で新聞にも大きく数字が掲載され、この数字だけが一人歩きしてしまったそうです。ギャンブル依存の9割がパチンコであると言われ、数字的には490万人近くがパチンコ依存症と診断されていることになるます。ところがレジャー白書に基づく日本のパチンコプレイヤー数は1000万人であり、依存症を主張する団体が提示してきた数字を当てはめて考えるとパチンコをしている人の半分以上がパチンコ依存症となってしまいます

このあまりにも大きな数字はさすがにパチンコ業界も黙ってはおらず、どこから540万人という数字が出されたのかを調べたところ、ずさんなアンケート調査の実態がありました。そもそも依存症かどうかは医師の判断が必要なのにただのアンケート調査の得点だけで数字を出していました。更に期間を全く区切っておらず、一生のうちに一度でもハマった時期があれば数字として計上されてしまう仕組みでした。70歳の人が17歳の時ハマってそのあと50年以上一切パチンコに触れていないとしても、アンケートでは依存症の疑いありとされてしまうのです。一年後再度調査をしたところ、540万人だったのが290万人減り、更に一年後には70万人と大きく減ったとのことです。

こうした実態に基づかない煽るような誇張された数字はなぜ起こるのでしょうか。それは伝統的に依存業界にいた人たちが社会的に自分たちがクローズアップされるためであることが指摘されました。医学ではクローズアップされていない精神科医療、その中でも依存症に関係する業界は注目を集めてきませんでした。カジノ導入がきっかけとなり、依存症の回復施設の人たちも商売として盛り上げるためにこうした誇張が起こってしまうのかもしれません。数字を盛ることで対策費の支給も降りますし、そもそも問題解決のために存在を必要とされたいのかもしれません。

ハマる人は、パチンコだろうがAKBだろうがどんな対象にもハマる傾向があり、ただ熱を持つ対象が違うだけであり、あたかも熱中してハマること自体が新たな問題として発掘されたように扱われるのは何か違う、とのこと。

最近では「漫画村で4000億円の損害」と大々的に報道されていますが、よく考えてみればあり得ないほど大きな数字です。現実では、いくら何でもそれはないだろうという数字が一人歩きしてしまうのです。

ゲーム依存症の実態とその背景

これから「ゲーム依存」が概念として開発され、診療プログラムができてくるとして実際のゲーム依存症はどの程度存在しているのでしょうか。ソーシャルゲーム業界ではユーザーデータの中からヘビーユーザーの割合を逆算でき、これが約9万人。そして一年間支障をきたすぐらい、借金をしてでもゲームにのめり込み、仕事や学業にも悪い影響が出ている人を含めると、10万人弱とのことです。これを多いとみるか、少ないとみるかが重要とのこと。

そろそろゲーム業界の方でも自主的に、長く遊びすぎているプレイヤーに対して「長く遊びすぎていませんか?」とワンクッションのプロセスを置かないと樋口さんら伝統的な依存症業界にいる人たちにゲーム依存が問題として大きく煽られてしまう状態にあるといいます。パチンコ業界を騒がせた樋口さんはその後「ネット依存」を盛り上げ、今は「ゲーム依存」にターゲットを定めゲーム業界に足を踏み入れはじめているとのこと。ゲーム業界はパチンコと比べてゲームをプレイしている状況を目で確認しやすい上に、青少年に被害が行くこと、そして自分の子供にゲームをやらせたくない親御さんからの圧力など不安要素がたくさんあります。問題は問題として今いる約10万人のゲーム依存の人たちに対しては何かしら手当をしなくてはいけないでしょう。誇張された数字に煽られることなく、実態に基づいた対策をしなくてはいけません

これからゲーム業界は依存の問題についてどう向き合っていくか

人はそもそも「依存したい!ハマるものを見つけたい!」という欲求があり、結局のところハマる対象がそれぞれ違うだけのことです。eスポーツも人をハマらせる仕組み作りのことです。依存の問題については、これまでギャンブル業界で議論されてきたことがゲーム業界にもやってくるといいます。ゲーム依存の定義を適切に定義すること、そして依存から回復させるための仕組み作りは必須です。社会的にゲームのイメージをよくする取り組みは20年以上任天堂が取り組んできたことですが、ゲームにももちろんハマりすぎてしまう悪い面もあるので悪い面は悪い面として対応をきっちりしていくことが求められます

また、ガチャに関してはEUのルートボックス規制の流れをかんがみ、日本でのガチャの立ち位置をどうするかの議論が必要となります。ゲーム会社としてはソーシャルゲームのガチャ課金システムは家庭用と比べて少ないリソースで大きなリターンが得られるので、自分たちの利益を削ってでも射幸性制限をどう業界の中でやっていくかが焦点となります。

ポケモンGoやSwitchはライトユーザー拡大に貢献してきました。多くの人たちが手軽に遊べるものを開発していき、そこからハマりすぎないようにする学業、就労、本来自分がやるべき生産的な仕事を台無しにすることなく、一日の中で幸せな時間が増えるのが一番良いのです。社会にとってゲームはいいものなんだよって胸を張って言えるようにしたい、とのことでした。

今回の黒川塾も考えさせられ、ためになる話ばかりでした!

【前半】「eスポーツ」についての記事はこちら

◆参考

黒川塾59「eスポーツの展望とゲーム依存症を考察する会」
Yahoo!ニュース「ガチャ=賭博?:世界同時多発的なガチャ規制論が勃発」

 
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