グッとくるCMや映像表現を感覚に頼らず理論で説明した「表現の技術 グッとくる映像にはルールがある」高崎 卓馬(著)を読了しました。CMは見ようと思って見るものではない。だからこそ面白く、人の心に残るものでありたい。広告分野に限らず、人に何かを伝え、何かを残すもの全てに共通する気づきが学べます。
目次(Contents)
表現の使命とは
表現には使命があると本書では言います。ではどんな使命なのか。
「表現の使命はひとつ。
その表現と出会う前と後で
その表現と出会った人のなにかを
1ミリでも変えること。
未知の場所にある
ココロという正体のよくわからないものに
ふれるために、
僕たちはそのために、
人生を削っていくのです。」
何かを表現する、伝える事で人の心と感情を動かして行く。広告に限らず、ブログなどでの文章表現、音楽や芸術といったアートの領域でも共通する考え方です。ジブリ映画の監督、宮崎駿さんが言っていた「映画を見てくれた人が1階から入って2階から出てくるような映画を作りたい」(出典「感動を作れますか?」久石譲)にも通じるものを感じます。
感情は振り子である
人の感情は振り子のようなものだといいます。そして、その振り子の揺れは驚き(オドロキ)から始まります。笑う前に必ず人は驚きの段階を踏んでいて、それが人の感情のスイッチとなっています。作り手は、見てくれる人のココロの中に驚きを作り出すために様々な工夫を凝らします。
時間軸を操るのは作り手の特権/ズレと面白さ
探したくなるCM。見ていないと学校で置き去りにされるような魅力を持った広告を作るにはどうすれば良いのか。
作り手の特権は時間軸を操ることです。見せる順番で相手に想像させて、「知りたい」と思わせる。「知りたい」という欲求が「面白い」という感情を産み、想像を覆されると予想外の展開になり、それが物語への「ワクワク」を産みます。起承転結の順序を変えるだけで印象はだいぶ変わっていくのです。この時間軸を操作することは作り手にしか出来ない基本スキルです。
一方で面白いとは何か?面白いものはズレを持ちます。常識や既存のもの、本来の暗黙の前提からかけ離れているほど効果的です。上司と部下の立場を置き換えたり、男女や子供と大人の立場が逆転したような感じです。
■その他のテクニック
そのほか本書から学べたオドロキを作り、面白いと思わせるためのヒントです。
・お笑いから学べる要素も多く、「関係の笑い」を作るような力を磨くことが重要。「関係の笑い」とは、ある物と人との間に勘違いや思い違いがあって、それが組み合わさりシュールな状況を生んだりすることです(本書ではただのケーキを回りの人が爆弾だ思って避けるような笑い、と紹介されています)。
・映像で説明できることをセリフで説明しないようにします。映像が活かせるようにセリフは別のことをすることが重要です。魚を釣ったときに、魚を釣った!と役者に言わせるのは芸がありません。あくまでセリフは映像の力を強めるため、映像で伝えたいことを映像以外の内容でより深く伝えるためにつかいます。
・円満で終わらず、主人公にプチ不幸を与えるのも効果的です。主人公が欠点を直すために能力を身につけたけど、今度はその能力が強すぎて、回りがついて行けず困ってしまうような、ちょっとした不都合を残すことが共感を与えます。
・対立や葛藤が映像という「物語」に深みを与えます。対立構造や乗り越えなければならない壁、罪悪感やこれでいいのか?という感情がドラマや共感の余地を与えます。
・空間で考えることは映像しか出来ないこと。二人の男女の背景に包丁を持った女性を配置するなど、観客のみが知っている未来を作り出す。
・テーマは単純明快でもOK。
・映像の設計図であるコンテは絶対に描く。そうすることでスキルが磨かれます。
作り手の意図や、物語の説明はしないことが肝要です。そうした作り手の意図が見えると、見ている人のココロが冷めてしまうからです。
目的=ミッションを見つけることの重要性
アートと広告の違いは、その表現が「目的・ミッション」をもっているかどうかです。広告の方がより強く見ている人のココロを動かす意図を込めなくてはいけません。
見ている人がその表現と出会って何を感じるか、何を考えるか、どう変化するのかを考えます。目的を達成するために、状況に応じて表現の方法は変わっていきます。例えば、働く女性のためのミネラルウォーターであれば、働く女性に愛されることがミッションとなります。ミッションは世の中との関係性や、立ち位置、製品が何をしたいのか?を突き詰めて考えること。ミッションさえ決まってしまえばそれを軸に展開することができます。
広告の場合は、ネガティブなものをポジティブな目線で捉えていくことも重要です。ノンアルコールビールなら、「お酒の場で飲めない」というネガティブに捉えられる状況から、「飲めなくてもいい」という状況に捉え直す。ガムの広告なら、「息がくさい」ことを解消する部分を強調しないで、おしゃれなファッションアイテムとして売り出す。
根本には、どういう変化を世の中に与えたいかをミッションを設定して実現していくことが重要です。だから誰かを傷つけるようなCMは要らないと力説します。
自分自身で面白いと思ったコンテンツがなぜ面白いのかを考えていくプロセス
面白いと思えるものに接した時、なぜ面白いのか?を徹底的に分析して、自分なりの面白さの法則を作り出すことが重要です。
例えば、映画のつくりかたなら「問題の提起→問題の複雑化(信じていたものが崩壊する。)→問題の解決」主人公がこれらの流れで成長する。というのが骨格だといいます。それに気づけたのも著者が自分なりに多くの映画を分析し、考えたからです。
論理と感覚を行き来しつつ作品を磨いていきます。左脳(=ロジック)で作ったものを右脳(=感性)で精査していきます。作り手の意図が見えないようにするのが大事です。そして、感じた違和感を大事にします。違和感は客観性の視点へと続いています。アイデアは制約があるからこそ生まれます。違和感を一気に解決するアイデアが良いアイデアです。
良いプレゼンは良い企画から生まれます。良い企画さえ思いつければ小声でプレゼンしても面白く聴こえます。面白い企画を考える事こそが最も重要です。つまらない企画をさも面白いものとしてプレゼンするほどつまらないものはありません。プレゼンしたくなるアイデアが最も重要。本質のクオリティを高める意識を持つことです。
総評
満足度 90%
人に教えたくなる、探してでも見たくなるコンテンツには何が込められているのかを知る大きなヒントとなる一冊。ボリュームもコンパクトにまとまって読みやすいです。感動の原則を感性に頼らず言語化した良著ともいえ、簡単なスケッチや絵コンテみたいなものもあって分かりやすいです。
広告やCMにも物語の力が重要なんだと再認識。15秒という広告の世界の物語を構築していく手法は、映画やゲーム、小説や絵画・音楽など他の分野にも通じる内容です。
ただ一点、広告を美化しすぎている面も。例えば本書では人を傷つけるものをつくる必要は無い、と強く主張していますが、実際には中途採用や即戦力採用のビズリーチなどのCMではエリート志向で差別的な表現と受け止めることもできるし、海外では露骨に競合他社と比較して優劣を宣伝するCMもたくさんあります。結局はCMは出資した会社のものであり、広告の力には限界があるのが現実だと私は思います。
良著ともいえる本書ですが、唯一違和感を持ったのが、著者欄の肩書き。
著者:電通コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 高崎 卓馬。カタカナで埋め尽くされてめちゃくちゃ長いですよね。著者の肩書きがこんなに長いのは読書人生で初めて。本書はこれだけが惜しい。なんで日本の広告代理店系の人は本の中でこんなに肩書きをアピールする必要があるのだろう?一気に薄っぺらく感じます。特に本書は内容がしっかりしていて良い内容だから尚更です。せっかく内容はいいのだから、会社の肩書きをこうまでアピールしなくてもいいのでは?と思います(著者が自信がないか、もしくは会社側の圧力?を疑うほど)。
文庫本も出ているので、内容は確か。実際に読んで見てください。クリエイティブを紐解くヒントがたくさん見つかりますよ。
「表現の技術―グッとくる映像にはルールがある」
高崎 卓馬 (著)
電通,朝日新聞出版 2012/5/18
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