【まとめと要約】「まんがで読破 雇用・利子および貨幣の一般理論」ケインズ(著)


まんがで読破 雇用・利子および貨幣の一般理論」を読了しました。これまで経済学について学んだことはありませんでしたが、結果として古典派経済学の問題点やケインズ経済学の概略や基本概念の理解ができ、教養を深めることができました。マンガだけどかなり骨太の内容です。

古典派経済学の問題点とは

本書はまず古典派経済学の問題点を指摘しています。古典派経済学とはアダム・スミスらによって提唱された、「個人が各々の利益を追求していれば、それはおのずと社会の利益に還元される」に代表される自由放任主義がベースとなっています。しかし、その自由放任主義では不況を解決することが出来なかったのです。「神の見えざる手」として知られる古典派経済学では世界恐慌による大量の失業者を救うことは出来ず、不況の為すがままにするしかありませんでした。

また、古典派経済学では失業者は存在しないことになっています。失業者の定義として、自発的失業(自分の意志で働かないこと)摩擦的失業(技術が足りないため、勉強しているから失業していること)の二つしか無く、働きたくても働けない失業者(非自発的失業者)は考慮に入れていないのです。結局のところ、古典派経済学では失業は自業自得であり、単に自分の意志で失業していると見なされています。

「供給が需要を生み出す」と考える古典派経済学では、供給を重視します。「セイの法則」と言われる「価値を生み出せば生み出すほど経済は成長を続ける」との考えの通りたくさんの製品が作られますが、実際には需要に合わない大量の供給で商品価値の低下を起こし、結果として不況に繋がってしまいます。生み出せば生み出すほどそのものの価値が低下し、結果として労働者の賃金も下がってしまいます。

不況の時、古典派経済学では労働者の賃金を下げることが解決策とされます。物価の下落と同時に賃金も下げることによって名目的な賃金は下がりますが、実質交換できる物の量は変わらないため実質賃金は変わらないから問題無いと考えるのです。しかし、実際に賃金が下がった労働者の心理はどうでしょうか?彼らは節約をしたり、家族の誰かが働きに出たり、社会労働力は増えるけれど消費を減らしてますます不況につながります。また物価が上がったとしても賃金の値上げに応じる企業は現実的には少ないでしょう。この古典派経済学に異を唱えたのがケインズでした。

ケインズ経済学とは

ケインズは古典派経済学の問題を踏まえ、以下の要素が重要だとしました。

■有効需要を活性化させる
ケインズでは「需要」を重視します。人々の物を買いたい気持ちを高めることで、物価も高まり企業が儲かることで雇用も増える。ケインズはこの需要のことを有効需要といい、有効需要を高めれば雇用問題は解決するとしました。

■GDPと消費と投資
まずはGDP(国内総生産)について知っておく必要があります。個人消費、民間投資、政府支出、純輸出という国内の消費を全て足したものがGDP(国内総生産)で、有効需要を高めるにはこのGDPを高める必要があるといいます。消費を理解するには所得や投資について理解しておく必要があって、所得とは消費と貯蓄を足したものです。そして所得が増加したときのもっと消費したいという気持ちを限界消費性向といいます。これは言い換えれば、所得が増えたときにお金を使いたい、贅沢したいという気持ちのことです。本書では色んな計算式が紹介されていますが、要するに社会全体から見ると、消費が増えれば増えるほど所得に還元されていくことがポイント。個人消費が増えれば増えるほどGDPの民間投資と政府支出が増加し、それらが増加することで個人の所得も増加するという循環です。

■利子率を下げることと個人の消費が増えることが重要
ケインズは政府の果たす役割を重要視しています。特にお金の利子率が鍵となり、利子率を下げることで全体的な経済の活性化をもたらすことが本書で説明されています。要するに、お金のある人はドンドンお金を消費して経済を回す必要があるとのことです。

また、人が現金を好む傾向は「流動性選好」と言います。現金は便利で使いたいときに直ぐ使えるため流動性が高いと言えます。長期的に預けることで利子が期待できる債権や株などに変えると必要な時に使いにくい欠点があります。投資をすることは流動性を失う代わりに利息を得ているといえます。

政府の公共事業では、予算をそのままにしておくよりも無駄な工事でも良いから仕事を産みだし、人件費としてお金を回した方が結果として全体の経済が活性化することが指摘されています。

要はみんなで消費をする事で経済を活性化することが大事であるとのこと。経済をよくするためには、デフレよりもインフレが大切だと言います。

総評

マンガ ★★★☆
教養  ★★★★★★★★★
満足度 ★★★★★★★+

経済は人の営みの結晶。マンガだからといって侮れない本格的な本でした。私は日本に住んでいて年度末の公共事業は無駄だな、と思っていましたがこの本を読んで見方が変わりましたね。

マンガの部分も絵は必要最低限のクオリティという感じでしたが、ちゃんとしたケインズ夫婦のラブストーリーとしてまとめられています。

自分が思っていた以上に内容が濃厚で、古典派経済学の問題点からケインズがどう自らの経済学を打ち立てたのかが理解できる良本でした。経済学の入門書としてはかなり良いのではないでしょうか。教養として経済学を知っておきたい人に是非お勧めします。かなり内容が濃いですよ。

「まんがで読破 雇用・利子および貨幣の一般理論」
ケインズ(著)
企画・漫画 Team バンミカス、トーエ・シンメ
イースト・プレス 2015/6/15

 
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