今回は内向型の性格を持つ人の強さや長所について焦点を当てたスーザン・ケインさんの「内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える」をレビューします。現代の資本主義経済では外向型の人間を理想とする価値観が前面に押し出されており、内向型の性格を持つ人には生きづらさを感じる側面があります。本書を読めば、内向型の人がなぜ生きづらいのか?が分かると共に、内向型の持つ強みや長所など、内向型の性格について総合的に知る事が出来ます。
目次(Contents)
人の性格の二つの分類:外向型と内向型とは
人の性格には外向型、内向型の二つのタイプがあります。性格を分類する試みは、古くは古代ギリシャ・ローマに遡り、キリスト教の有史以前の記述物にも一部この性格類型について書かれており、この性格の二つのタイプは人類の古くから続くテーマでありました。
原型論・タイプ論で有名な心理学者カール・ユングによれば、
・外向型は外部の人々や活動に心惹かれ、周囲の出来事に飛びこんでいく。
・内向型は自己の内部の思考や感情に心惹かれ、周囲の出来事の意味を考える。
(カール・ユング「心理学的類型」より)
としており、彼らの心の充電の仕方も外向型は社会との関わりあいで充電し、内向型は一人きりになれるときに充電すると違いがあります。
こうした性格類型については多くの研究や議論が行われ諸説ありますが、一致しているのが外向型と内向型では外部の刺激反応レベルが異なるということです。内向型は外部の刺激に敏感でほどほどの刺激を求め、外向型はスキーで急降下するような激しい刺激を求めます。
注意しなければならないのは、内気と内向型は違うということです。内向型だからといって内気であるとは限りません。内気は人からどう思われているのか批判や悪口を怖がる性質のため、本質的に苦痛を伴います。また完全に外向型の人、内向型の人は存在しません。環境や状況によってどの性格の性質が強く出るのかは移り変わります。
本書では内向型の価値について扱っていきます。今の社会を生きる人々は、外向型の人間を理想とする価値観の中で暮らしており、幸せになるためには外交的で大胆でなくてはならないと思い込んでいます。
日本における学校や職場、就活でのコミュ力強調に見られるように、世間では何かと外向型が賞賛され、軽視されがちな内向型の性格。アメリカでもそれは変わらないようで、多くの人は本当は内向型の性格を持つけれど外向型のふりをしていることが指摘されています。内向型は善良さ、知性、思慮深さ、学術的、芸術的偉業と結びつくのですが、その良さは軽んじられている傾向があります。
外向型はなぜ理想となったか?「誰からも好かれる人」が理想とされる時代
今の資本主義経済では人前で堂々と話し、セールスできる人がもてはやされてきました。本書では自己啓発の古典を書いたあのデールカーネギーを例に挙げ、彼は貧しい農家の生まれでシャイで内向型性格でしたが、弁論術と社交性を磨いたことで大成功しました。彼は社会で成功するために外向型性格を持つことがどんなに大切かを説いています。彼の本はベストセラーとなり、日本にも「人を動かす」「道は開ける」が大ヒットしていますね。まさかこの本でデールカーネギーの名を目にすることになるとは…驚きました!
家族とともに働く時代から、多くの他人と働く時代に。そうした流れの中で「他人が自分をどう見るか」をみんなが意識する時代になりました。工業化の流れにあって、デールカーネギーの自己啓発は大きな転換点になりました。アメリカではこれまでキリスト教の思慮深く、規則正しく、慎ましくが理想とされてきましたが、デールカーネギーが説くような理想化されたセールスパーソンを次第にあるべき姿だと認識するようになりました。そして広告業界が理想とする男女像、外向型として描かれる映画スターの人気に見られるように、世間はまさに外向型の理想を体現する者を賞賛するようになりました。
見知らぬ社会集団と立ち向かっていくために外交的で自分を売り込むことが求められ、企業の理想的な従業員も職務内容に問わず外交的である事が求められる時代。内向的で控えめな人はそれを矯正するように要求され、人前で不安を見せてはいけないというプレッシャーが高まっていきました。
この外向型賛美の流れに意義を唱えるのが本書です。例えば企業のリーダーは外向型が理想とされますが、内向型のリーダーもとても活躍していることが分かっています。企業経営やリーダーシップの能力と外向型と内向型との相関関係は無く、経営者が直面する課題によって外向型がふさわしい時もあれば、内向型がふさわしい時があるのです。
この内向型リーダーシップについてより詳しく知りたければ「静かなリーダーシップ」という本があるので参考にしてください。
参考→「静かなリーダーシップ」まとめ&要約 感想
優れた創造性を発揮する人は内向型が多い。
優れた創造性を発揮する人物は内向型が多いことは多くの研究から明らかになっています。Microsoftのビルゲイツも世界初の商用コンピューターを作ったスティーブ・ウォズニアックも非常に内向型です。これは内向型を持つ人は単独で行動する孤独な状態が得意だからです。孤独は革新の触媒となり、創造性の土台となります。何かを生み出し、創り出すには一人の状態での集中的実践が出来るかどうかが重要で、内向型はこの集中的実践を得意としています。今はネットやソーシャルメディアの登場で内向型のリーダーでも活躍出来るようになりました。
性格は運命づけられているのかどうかについて
発達心理学者のジェロームケーガンさんの研究によると、生まれつき内向型か外向型はある程度決まっているといいます。それは外部の刺激に高反応か低反応かという違いから生まれ、高反応の子ほど外部の刺激からものを考えたり知的に思索するのを好み、低反応な子ほど大胆不敵に自信家に育ちやすいのだそうです。これは脳の扁桃体という感情のスイッチの反応の違いによるもの。高反応の子ほど扁桃体が活性化しやすく、外部の刺激や不安感情に過敏に反応しやすくなると思います。外向型性格か内向型性格はもちろん育成過程での様々な複合的要因が影響していることに留意しておく必要はありますが、その人の生まれ持った気質が将来の性格に与える影響は非常に大きいことは間違いありません。
どんなに頑張っても生まれつきの気質は変わらないが、ペルソナ(仮面)を被る事は出来る。そして性格の強みを活かす場を作ること。
生まれ持った気質は生涯を通じてその人の人格形成に影響を与えるもの。これは、離ればなれになった一卵性双生児の研究で、彼らがどれだけ接点の無いまるで異なる養育環境で育っても、性格の本質となる傾向(気質)はとてもそっくりであることからも示唆されています。
ただ、社会で生きて行く以上外向型に振る舞った方が良い場面もあります。その場合、内向型の人は外向型のペルソナ(仮面)を被ることがあります。本当の自分を偽ることは負担になるので、意識して自分にとって居心地の良い時間を過ごす、自分の素が出せる場所を作るなどの工夫が必要です。内向型の人が無理に外向型の性格に合わせることは自己否定に繋がります。無理をしないことが重要ですね。
研究では人間以外の動物にも内向型や外向型は見られることが示唆されており、状況によって有利になるタイプが変わってくるとのこと。内向型、外向型の二つのタイプがあるからこそ種は生き延びてきたともいえ、どちらかが優れているのではないのですね。
内向型の優れている所まとめ
本書で説かれている内向型の優れている特徴をまとめます。
・思慮深く、物事を注意深く考えられる。
・創造性が高い。
・気づく力が高く、観察者に向いている。
・リスクを注意深く判断し、不要なリスクを回避し決断できる。
・粘り強い継続力、コツコツ努力できる力。
・欲望を抑制できる力。我慢強く忍耐強い。
こうしてみると、内向型の強みは社会に欠かせない特性であることが分かります。地味で目立たないけれど物事の土台となる縁の下の力持ちというか。アーティストやプログラミングなどの分野では世界を革新する力にも成り得ます。
ただ、内向型が強みとなるのは集中的実践をしてこそ。ちゃんと行動出来る内向型が強みを発揮できるのでしょう。
まとめとレビュー
自分の持って生まれた気質についての理解が深まる一冊。私はバリバリの内向型だな〜と本書を読んで再確認しました。これを中学生の頃に読んでおきたかったですね。あの当時はどうして自分が他人と付き合うより一人でいるのが好きなのか?と社交的になれない自分に悩み、自己否定をしていました。自己否定は何も生みません。自分の持って生まれた気質を知り、どう活かすかについてのヒントを貰える一冊でした。
内向型人間のリーダシップについては「静かなリーダーシップ」という本も参考になります。ちょっと冗長で本書と比べると読みにくいかもしれません。
■日本語版「内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える」講談社+α文庫
■原著「Quiet: The Power of Introverts in a World That Can’t Stop Talking」
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