今更ですが、「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」を読みました。2005年に発売された本で、2019年も後半になった今読むと隔世の感があります。
2004年以前のインターネットの世俗・風俗史をまとめた本としては最高レベルの文献
本書は2004年以前のインターネットについて主に日本のネットコミュニティの観点からまとめ上げています。かなり徹底的に調査され、過去のインターネット関連の文献や出典も豊富に示されており資料的価値はかなり高いです。中には国会図書館には無い本も中古で探しだし参考文献にしているというのですから、本書の完成までに相当な労力が掛かっていることが察せられます。
冒頭はどのようにインターネットが生まれてきたのかについて真面目に歴史を扱い、中盤から後半にかけて個人とインターネットとの関係から主に巨大掲示板群やアンダーグラウンドサイト、有象無象の日記をメインとした個人サイトや一斉を風靡したテキストサイトなどの日本のネットコミュニティに着目して歴史をまとめています。
中でもファイル共有ソフトであるWarezやP2P(ピア・ツー・ピア)といったアンダーグラウンドのトピックも興味深く、詳細に調査されているのが印象的でした。ダウンロードの通信量やサーバーなどの問題を乗り越えて、こうした表に出ないようなやりとりが行われていたとは・・・。今も昔も人間は日常生活で得られないような強い刺激を求めるものだな、と感じます。
匿名掲示板の由来についても面白かったですね。今で言う5ちゃんねるの前身2ちゃんねる、その源流のあめぞうという巨大掲示板サイト(あめぞう氏は高校教師というから驚き)。そしてその掲示板のシステムの由来となった海外のBBSのシステム。本書を読むと、常に移り変わるインターネットの世界でも、必ず元になる出来事やきっかけがあり歴史があるのだ、と思わずにはいられません。
本書の後半にはFlashとGIFの話題が扱われ、これからは動画の時代〜といった感じでまとめられています。Flashがサービス終了でもうすぐブラウザも対応しなくなる今読むと、もうこの本が出版されてから10年以上の年月が経ったのか・・・、と感じます。FlashやGIFが希望を持って語られている記述を読むと、高速通信が当たり前になり、Youtubeなどの動画メディアの登場や、SNSが発達して誰もがスマートフォンを持つようになってネットに繋がっているのが当然という環境がインターネットを劇的に変化させたのだと思います。
読んでいて当時の空気感を思い出す。
当時のあのよく分からない混沌としたインターネットの空気感を知る人が読むとまさにタイムトラベルしたかのような感覚が得られると思います。
私の場合は、子供の頃ナムコのRPG「テイルズオブシリーズ」を扱ったサイトの掲示板でブラウザクラッシャーを踏んでしまい、父親のパソコンをウイルス感染させてしまって青ざめた体験を思い出しました。リンク集ページのリンクという単語の意味も分からなかったので、ゼルダの伝説(主人公の名前がリンク)と関係があるのかと思ってクリックしたらよく分からない海外サイトに飛ばされて慌てふためいたりもしたり…。
個人サイトの掲示板に入り浸り、アクセスカウンターでキリの良い番号を踏むと祝われるキリ番文化もありました。個人でイラストを描いている人がホームページを持っていて相互リンクをたどっていたり、全く見知らぬ人の日記を読むのが楽しかった。
当時、私の中でインターネットというと個人サイトがメインでした。よく分からない有象無象の個人サイトが多くて、見知らぬサイトを求めて冒険したものです。個人的にはDTMsearch(?名前はうろ覚えで随分前に閉鎖)というサイトにお世話になって、ネット上にあるゲーム音楽の耳コピのMIDIデータを漁ったものでした。
そういえば昔はブログよりも今は無きヤフーのジオシティーズで、サイトを始めるといったらホームページビルダーを買ってジオシティーズで自分のホームページをアップロードする、というものでした。それが今ではSNSの発達で誰もがFacebookで実名でアカウントを持ち、形式的に整えられたブログを持ったり、動画を投稿していますからね。当時のあのなんとも言えないデザインの、いかにも手作りで作りました、という個人サイトは殆ど見なくなりました(昔のゲームの攻略サイトを検索すると発見できるぐらいか・・・?)。
更に今はGoogleがドンドン力を身に付け、アルゴリズムの変動やアップデートを繰り返して、情報もかなり整理されたものしか見つけられない印象を持ちます。
スマホネイティブの世代が読むと訳が分からない用語の連続で戸惑うかもしれません。スマホは持っているが、パソコンは持っていない人も増えてきているので、人それぞれインターネットとの付き合い方やイメージもまるで異なるでしょう。
インターネットが個人の歴史であるのは、個人個人でインターネットにどのように接してきたかがまるで異なるからでしょう。でも人生で初めてインターネットに触れたときのドキドキとワクワク感は誰にでもあるはず。今度人と会ったときにそうした個人のインターネットの歴史を聞いてみるのも楽しいかもしれないな、と思いました。
■「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」ばるぼら (著) 翔泳社 (2005/5/10)