「権力」を握る人の法則 要約&まとめ 感想 権力は健康長寿につながる。上司に好かれ、積極的に周囲にPRし働きかけることが肝要

権力を握る人の共通点は何かを徹底的に調査した「権力を握る人の法則」を読みました。前回紹介した「静かなリーダーシップ」は目立たず裏舞台で思索や戦略を張り巡らせて徐々に行動半径を広げてリーダーとしての地位を向上させていく内容を扱っているのに対して、本書は積極的に自分からアクションを起こすことで立身出世をしていこうとするアクティブな本です。個人的には静かなリーダーシップよりもこちらの方がしっくりきました。以下その内容のまとめと感想です。

「権力を握る人の法則」/原著「Power Why People Have It-And Others Don’t」
ジェフリー・フェファー著(Jeffrey Pfeffer)
村井章子[訳]
日本経済新聞出版社 2011/07/20

権力や地位があるほど長生き

本書では「堂々とした権力志向」になることを薦めています。実際に、権力や地位が高い人ほど寿命が長く、健康であるとの調査結果が紹介されています。ロンドン大学のマイケル・マーモットさんらのイギリスの公務員の健康状態を調べた調査によると、地位が低い人ほど寿命が短かったそうです。一方で権力を持った人ほどストレスやプレッシャーが大きいのにも関わらず健康で長寿だったとのこと。これは、今自分の状況や環境をコントロール出来るという実感がメリハリのある生活、健康長寿へと繋がっていることを示唆しています。

もちろん権力に伴うコストもありますが(本書後半で紹介される)、自分の人生や状況を自分でコントロール出来るか出来ないかは抑圧や鬱屈に悩まされるかどうかを大きく決める要因だと言えます。

私たち日本の文化では「出る杭は打たれる」と言われる通り、権力を持とうと目立つ人を抑圧するような雰囲気があり、自分で権力を持ちたがることを隠したがる傾向があると思います。本書ではそうした声に染まること無く、堂々と権力を求めることがよりより充実した人生を送る上で大切であるといいます。

権力があれば社会での地位や名誉、金銭面での豊かさや人脈も増えます。「貧すれば鈍する」というように、貧困は判断力も低下させます。権力は無いよりも有った方がずっと幸せになれるのです。

参考→ルドガー・ブレグマン 貧困は「人格の欠如」ではなく「金銭の欠乏」である TED動画

世の中は全く公平ではない

先進国に生まれた私たちは「世の中は公平である」と思いがちですが、本書ではハッキリと世の中は公平ではないことを前提にしています。人には「公正世界仮説」という、世の中は公平であるべきだ、という思い込みがあり、よい暮らしをしている人はそれなりの徳を積み、悪い報いを受けている人はそれなりの業を犯したのだろう、と思い込む偏見があります。

実社会では「清く正しく美しく」といった事例は非常に少なく、それで出世できるのはほとんどファンタジーの世界です。これまでのリーダーシップ本や経営者の本にあるような事例は眉唾ものであるとバッサリ切り捨てます。なぜなら、それらの本には既にリーダーの地位いる人が上手くいったところだけ抜き出したもので、現実にあるようなその地位に就くためのきれい事だけでは済まされない泥臭い根回しや努力が書かれていないからです。

以下、本書で述べられている出世するための具体的要点について見ていきましょう

出世で何よりも大事なのは上司との関係

出世で最も大事な要素は上司との関係です。いくら自分に実力や能力、実績があっても、それだけでは出世できないのが現実です。出世するためには上司に好かれる必要があり、実務的な能力ではなく「自分よりも地位が高い人に好かれる能力」こそが出世への近道であると断言しています。

一人でコツコツ地道に能力を磨いたとしても、上司に気に入れられなければ出世する事は出来ません。「能力さえ在れば後は大丈夫だろう」、というコミュニケーションや組織で働くのが苦手な人が陥りやすい罠を指摘しています。一人で黙々と頑張っても、それを認めてくれる他者がいなければ立身出世は望めない訳です。出世を決めるのは自分では無く上司だからです。

多くの人は自分自身で人生のキャリアを設計できると考えがちですが、実際には職場環境、直属の上司が最も影響しているのです

印象深い人になれなければ出世できない

権力を持つ地位に昇るためには、何よりも印象に残らなければなりません。優れた能力があっても、それをPRし人々の印象に残らなければ意味がありません。記憶に残らなければ無かったことと同様です。

謙遜は美徳とされることがありますが、出世という観点から見ると悪徳になります。実社会はずうずうしいまでに自分の能力を誇示できた方が出世します。アピール上手になることが出世への第一歩となるのです。

現実社会では立派な業績を上げれば自動的に出世するということはありません。自分の業績や能力を頻繁にアピールして、上の立場の人間に伝えていかなくてはなりません。むしろ気に入れられなければ能力の高さは出世の障害ともなります。能力よりも上司に好かれるかどうかです。

今権力を手にしている人の印象に残り、彼らが自分を引き上げてくれる気持ちにさせていくことが権力を掴むための絶対の条件です。

権力を持つ為の素質

権力を得るためには以下のマインドセットが必要とのこと。

困難に挑戦する意志:困難を乗り越える決意、エネルギー(活力)、自分の分野への集中力
その意志を目標達成に結びつける意志:自己省察での感情コントロール、自信、共感力(対人スキル)、闘争心(負けん気)

共通しているのが意志を高く保つことです。自分から権力を求めなければ、向こうから権力や地位がやってくることはありません。

その他要点/権力のコストと失うきっかけ

以下本書の中で重要となる箇所をまとめました。

・人脈ネットワークが財産となる。人脈はこまめな努力の積み重ね。一緒に食事をしたり、時間を共に過ごす機会を持つ。
・人への頼まれごとは案外聞いて貰える。人に頼むことでコネクションが生まれる。
・相手に気に入られたいのであれば、まずは相手を褒める。
・相手との共通点を見つけて親密になる。
・既にあるルールは、今権力を持った人達が作ったルール。それに従う必要は無く、自分で新たにルールを作れば良い。
・「時間と関心」という誰もが持つリソースを相手に与える事で相手との関係性を深める事が出来る。
・ネットワークの中心になれると権力に繋がる。会食のテーブルでは真ん中に。
・劣勢でも自信を持ち、堂々としている態度が人の心を動かす。話し方や立ち振る舞いに気をつける。
・後悔や失望では無く、怒り(義憤)。権力者に共通する態度自体が権力を連想させる力を持つ。
・第一印象は重要。
・露骨な自己PRではなく、他者を介在させる。

人と人との関係性が権力を作り、権力のあるところに人は集まります。「時間と関心」は誰もがもつリソースであり、相手の話をよく聞き、相手のことに対して興味を持つことです。これはネットワークを形成する基礎となり、権力への土台となっていきます。そして普段からの立ち振る舞い(態度)を堂々と力強い感じに変えるだけでもだいぶ印象は変わります。

本書の後半は権力の代償や、権力を失うきっかけについて考察されています。

権力の代償
・時間の自由が無くなる
・周囲に監視される
・時間とエネルギーを取られる
・人を直ぐには信じられなくなる。
・権力中毒になる

権力がある分、色んな人に注目され立ち振る舞いに気をつけなければならないほか、周りからチヤホヤされたり大きく組織を動かして行くのが中毒となって、退職後に魂が抜けるようになってしまう人もいるとか。

権力を失うきっかけ
・自信過剰になり、油断が起こる
・周囲の人のアドバイスを聞かなくなる
・近寄ってきた人間を軽率に信頼してしまう
・自制心を失い、正確な判断ができなくなる。(主に怒り)
・燃え尽きてしまう
・時代の変化に取り残される

権力を失うきっかけは油断や慢心からくるものや、常に立場を狙われる地位に居るので色んな厄介な人間が寄ってくるので細部まで気を抜けない疲れから来ています。また、頑張りすぎて燃え尽きてしまい、仕事への情熱が無くなってしまうことも。引き際を美しくすることが肝要とのこと。

権力は人にとって心地よいものですが、上記のようにコストも伴います。自分にとってどの程度までの権力があれば幸せなのかは考えてみる必要があるでしょう。

評価・感想

読みやすさ ★★★☆
充実度   ★★★★
満足度   ★★★★★+

権力について包括的かつ実践的に学ぶことが出来る一冊です。本書の後半は権力を持つ事による悪影響や、権力を失う事になる原因なども考察されています。本書で紹介されている事例はどれも現実にある事例を元にしており、戦略的に出世を考えている人にはどれも参考になるでしょう。

海外では大学の専攻が重視されるので、大学の専攻とは違った職種に就くのは至難の業ですが、人脈とコネを戦略的に活かして文系からIT大手の管理職に就いた人の事例もあり、印象に残りました。

露悪的に権力志向を説いた本なので、こうした内容に嫌悪感を抱く人もいるかもしれないですね。もちろん出世は良くないという考え方もありますが、少なくとも現代の資本主義社会に生きるのであれば、ある程度の権力や影響力は持っていた方が生きやすくなるのは間違いないです。競争社会=実力主義社会の到来に備え、戦略的にこれからの社会を生き残っていくためのサバイバル術を指南してくれる本だと言えます。

こうした「権力」についてのケーススタディが海外のスタンフォード大学で真面目に学問として研究されているのが面白いですよね。

目立たず集団的協和を重んじるなら以前紹介した「静かなリーダーシップ」が参考になります。静かなリーダーシップは既に組織での立場(権力)を手にしてからの処世術ともいえます。本書は何もない状態から自力で権力を獲得していく方法について論じた本と言えます。

関連記事

「静かなリーダーシップ」まとめ&要約 感想
組織を変えるための「特異性信頼」についてのまとめ
世界は平等で予測可能であるという思い込み 公正世界仮説が認知を歪める
最大の敵は自分自身!? セルフハンディキャッピングの罠

 
前の記事最大の敵は自分自身!? セルフハンディキャッピングの罠
次の記事考えているつもり「状況」に流されまくる人達の心理学 要約&まとめ,感想