【書評と要約】「美人の正体」越智啓太 外見的魅力と恋愛心理学についての包括的な知見が得られる

【書評と要約】「美人の正体」越智啓太 外見的魅力と恋愛心理学についての知見

見た目が一番で何が悪い?という刺激的な帯に目がとまる本書は、犯罪心理学者の越智啓太さんが書いた恋愛心理学の本です。恋愛心理学のテーマでは、主に人格や性格の側面が取り上げられていましたが、本書は外見にターゲットを絞って、人の見た目がどれほど他者からの評価や心理に影響を与えているのかを数多くの心理学の実験から明らかにしています。美人とはどういう特徴を持つ人なのか?ハンサムな人ってどういう人なのか?についての知見が読みやすくまとめられており、かなりお勧めできる一冊です。

外見的魅力は他のどの要素よりも人を惹き付ける。

私たちの社会では「外見は重要では無い、大切なのは人柄だ」と言いますが、実際は多くの人が外見で相手の事を判断します。

外見的魅力が高い人ほどデートに誘われる回数が多く、人格などの要因よりも強い相関があるとの調査が示されています(1*)。

相手の外見と魅力に関してのテーマは数多くの追試がなされ、それでも結果は趣味の一致や社会性といった性格要因よりも外見的魅力が最もモテる要因だとする結果が出ました。態度や性格、価値観の一致も相手の魅力を高めますが、外見的魅力はそれと同等か、それ以上に相手を魅力的に見せていたのです。(2*)

「人は見かけによらない、人の事を外見で判断してはいけない」という社会規範もあり、表立っては外見重視、面食いだとは言いづらいですが、事実として私たちは外見的に魅力的だと感じる人に強く心惹かれるのは間違いありません。自分では人格で相手を選んだと思っていても、実は外見的魅力が好みだったから、というのもあり得ることでしょう。

見た目がいい人ほど得をするのは疑いようのない事実。

がっかりする事実はまだまだ続きます。見た目が良い人ほど人生のあらゆる面で得をするのは疑いようのない事実のようです。

・美人やイケメンは性格が良いと思われやすい。これは最初の印象が良くなるからで、最初の好印象の影響はずっと残る。
・外見が良い人ほど幼少期に大人達から期待され、丁寧に育てられるから成績も人格も良い(ピグマリオン効果、教師期待効果)
・美人・イケメンであるほど仕事の出来が良いと思われ、評価される。
・明治時代の道徳の教科書である「修身」に説かれている美人ほど性格が悪いという記述。しかし実際は美人ほど性格が良いと思われる傾向が強く、性格が悪いというのは美人では無い人達からの、外見によって玉の輿に乗ったりして成り上がる人達への警戒があった。

美人である事が性格の悪さなどの否定的な言説に結びつくのは「天は二物を与えず」という言葉に表されているように、公正世界仮説という平等幻想を抱いている人が多いから。

「美人=性格が良い」と「美人=性格が悪い」という二つのステレオタイプが共存していますが、前者の性格が良いというのが事実に近いようです。美人である事で損をすることよりも、得をすることが多いというわけですね。

美人・ハンサムの正体 ゴールトンの平均顔仮説

では、美人・ハンサムと思われる人はどういう特徴を持っているのでしょうか。「進化論」のダーウィンのいとこであるフランシス・ゴールトンは、合成写真を使って特徴が平均化された人ほどイケメンになり、美人に見えることを発見しました。ゴールトンは凶悪犯の顔を合成すれば極悪人の顔が生み出せると推測したのですが、実際はイケメンができあがってしまったのです。

原因は平均的な顔ほど良く目にするので単純接触効果が働いていることと、平均顔は遺伝子的に危険な突然変異を犯していない=遺伝子的に優れていることを示していることが考えられています。

対称性も魅力的に映る

平均顔の他に、左右が対称的である事も魅力的に映る要素です。対称的である事は見る人の認知の労力が少ない事に加え、非対称である事は遺伝子的に何か問題がある=対称性を保った顔は遺伝的欠陥が少ないと知覚する所からきていると考えられています。

実際は自分の顔写真を半分に分け、反転して繋げて完璧な対称性を作ると違和感を感じるように、平均顔の方が外見的魅力を大きく左右します。

お肌すべすべ・肌の質感はとても重要

平均顔を作成する過程では、シワやシミなどの個人の顔の特徴も薄くなっていきます。つまり、肌がすべすべになっていくことで、肌が綺麗である事が人間の魅力を大きく左右する要因では無いかと考えられています(参考画像)。

肌が綺麗である事は平均顔に匹敵するぐらい外見的魅力を高める要素であると言えるでしょう。

平均顔よりも更なる美人顔は幼型化(ネオテニー化)の特徴を持つ

平均顔よりも更に美人とされる顔(スーパー美人顔)は、幼さを示す=幼型化(ネオテニー化)の特徴を持つ事が明らかにされています。

一般的な平均顔よりも美人とされる、美人コンテスト参加者や女優やアイドルグループの平均顔は
・おでこが広い(目の上下幅が大きい)
・目の左右幅が大きい
・目の間の距離が長い
・ほお骨の位置の顔の幅が長い
・目から眉毛までの距離が長い
・瞳孔が大きい
・顎の長さが短い
・鼻の面積が小さい
・ほおの幅が狭い

の特徴を持ちます。生まれてから成人するまでに顔の下半分が大きくなっていきますが、これに逆行する若返りの動きであり、これは幼型化(ネオテニー)と言います。スーパー美人顔はこの幼型化した特徴を持つ顔なのです。

なお、幼型化が魅力に繋がるのは女性においてだけで、男性では幼型化は魅力に繋がらないようです。

口の大きさは幼型化とは別に魅力的に見せる要素

女性は幼型化の特徴を持った人ほどモテますが、女優の中には大きな口を持つ人も多いです。大きな口は幼型化とは真逆の要素ですが、実際に大きな口を持った人でも魅力的な美人は多く居ます。これは笑顔の効果が大きく、口が大きいことで笑顔の効果である愛嬌の良さをアピール出来るからだと考えられています。

進化心理学の観点から男性からモテる女性像を考える。

幼型化の特徴を持った女性ほど男性からモテるのは、一つに進化論で言う種の保存の為であると考えられます。男性は若くて自分の子孫を残せる相手を本能的に求めます。幼型化の特徴を持った女性ほど若く見られ、若い女性ほど性体験も少なく男性の遺伝子を残すことができる、とする進化心理学的な説明がされています。

魅力的な女性のスタイルとは?

顔以外のボディ=スタイルと魅力はどうなのでしょうか。

WHR:ウエストのくびれは0.7 (マリリン・モンローが0.7)
BMI:スリムさの指標では15~20
バストサイズ:大きい程注目されやすい

という結果が示されています。ウェストがくびれているほど妊娠しやすさという観点から魅力的に映るそうです。人間も動物である以上、種の保存の観点から相手を魅力的かどうか判断する…ということですね。生物学的な要因が思っていたよりも大きい印象を受けます。

漫画やアニメ、ゲームのキャラクターのディフォルメは理想化された特徴を持つ?

本書の面白い指摘に、こうした理想化された特徴が漫画やアニメのキャラクター達のディフォルメに反映されている指摘があります。実際に巷に溢れる女性キャラクターを見ていると、目が大きく幼児顔だけれどバストが豊満なデザインのキャラに溢れていますね。これは生物学的に男性から魅力的に映る特徴を備えているキャラクターばかりです。一方で男性キャラクターは女性キャラクターほど幼型化していません。

男性が女性に若さや生殖力を期待するように、女性は男性に経済力を期待する。男性のモテる職業と外見とは。

男性から女性に向けては外見的な若さや生殖力(妊娠可能性のシグナル)という生物学的な要因が関わっていました。女性から男性ではこれは経済力ということになります。魅力的な女性と接するほど男性は無意識でステータス(高級車、収入など)関連の情報に敏感になるのだそう。

ちなみに恋愛観の違いは、男性は熱しやすく冷めやすい、女性は徐々に燃え上がっていくのが特徴だそう。

経済的に力のある職業がモテるのですが、実は同様にマッチョな職業に就いている男性も女性からモテます。男性は逆三角形の筋肉質な体型を持つ人がモテやすく、なよなよした男性はモテないという調査も示されています。

しかし現実はマッチョな男らしい男性が女性誌に載ることは少なく、女性的な特徴を持った男性が誌面を飾ることが多いです。これはどういうことかというと、女性は男性を選択するとき、「マッチョなタイプの男らしい男性」を求める戦略と「女性らしさを持っている男性」を求める戦略を使い分けているからです。

マッチョな男性ほど「やりにげ」の危険性が高く、子供をじっくり育てる長期的なパートナーとしては女らしさを持った男性を選んだ方が安心です。また、身体的に魅力的な特徴を持つ女性ほどマッチョタイプの男らしい男性を好む傾向にあるようです。生理周期によっても好みの男性像は変わり、ホルモンバランスによって短期的な関係=マッチョな男性、長期的な関係=女性らしさを持った男性、と求める男性像が変化するとのこと。

カップルの外見的魅力について。釣り合う相手ほど長期的に上手くいく。

相手を求める側の外見的魅力と相手に求める外見的魅力の関係はどうでしょうか。誰しも外見的魅力が高い相手を求めていますが、長期的な関係を見ると自分の外見と釣り合った相手を選んだ方が上手くいくそうです。自分と釣り合わない外見的魅力を持った人をパートナーに選ぶと、浮気の危険性が高まり、相手の浮気を防ぐために余計なコストが掛かるからだそう。また、他人から自分がどう思われるか気にする人ほど、相手の性格よりも見た目の華やかさを重視して相手を選ぶ傾向があることが示唆されています。

イケメン・美女であるからと言って幸せであるとは限らない

最後にイケメン・美女だからといって幸福であるとは限らないとのこと。妬みでの陰口や、勝手に期待され勝手に失望されることもあったり、印象は良いからモテはするけれども、実際には高嶺の花だと思われてアプローチされる機会は少なかったり、アプローチしてくる人達は短期的な関係を求める人たちばかりであり、自分と釣り合う長期的な関係を持てる相手と出会えない事が悩みであるとのこと。

恋愛過程を分析したマースタインによれば、外見的魅力は最初のきっかけにおいては有効だけれどその次の段階である自己開示し、価値観をすりあわせて関係を育てていく段階になれば外見の重要性は低下するとのこと。結局恋愛の醍醐味は価値観を共にし、長期的な関係を築いていけるかですから、美女やイケメンでは無くても十分に幸福な恋愛は出来るのですね。

感想・まとめ 外見はやっぱり重要!思った以上に生物学的理由が大きく影響していた。

本書を読むとやっぱり美人やイケメンって得するよなぁ、と実感します。少なくとも、損をするよりも全体として得をするのは間違いないかと。

全て心理学的(統計的)に実証的な根拠がある内容で、男女別にどういう人がモテるのかについての包括的な知見を得る事が出来ます。

どんなに口では外見は重要では無いと言っても、生物学的には外見的魅力はかなり重視されるという事実。普段なんとなく日常で感じていることを実証的に説明してくれた本で、豊富な恋愛心理学研究の知見は読んでいて知的好奇心をくすぐられます。

恋愛心理学の研究は軽んじて見られる事も多いそうですが、人間にとって恋愛はいかなる時代にも普遍的で大切なテーマです。本書を読むことで、ただの恋愛テクニック本や恋愛指南本では得られない恋愛に関しての科学的な考察&実践が出来るようになるでしょう。

参考・出典

・Walster, E., Aronson, V., Abrahams, D., & Rottman, L. (1966). Importance of physical attractiveness in dating behavior. Journal of Personality and Social Psychology, 4(5), 508-516.
・Byrne, D., Ervin, C. R., & Lamberth, J. (1970). Continuity between the experimental study of attraction and real-life computer dating. Journal of Personality and Social Psychology, 16(1), 157-165.

 
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