「華僑の大富豪に学ぶ ずるゆる最強の仕事術」を読了しました。華僑(かきょう)とは中国本土から海外に移住した中国人、および彼らの子孫たちのことで、華僑たちはどんな環境に置かれても自分らしく適応し、たくましく生きています。本書はそんな大成功した華僑の一人に弟子入りした日本人が実践に基づく形でその教えを著した実用書です。易経、菜根譚、三国志、戦国策、韓非子、史記・・・など、中国の古典からの引用を現代風にアレンジした教えが満載の一冊です。今回も自分なりに本書から学んだことをまとめてみました。
目次(Contents)
華僑の特徴 真面目な堅物では無く、周りの人間関係を操縦し、ずるく・緩く・賢く生きる
日本人は生真面目で自分で抱え込む人が多いのですが、華僑の場合はずるさとゆるさに要点が置かれています。周りの人間関係を重視し、お互いが利益になるように振る舞う。相手に勝たせて自分も勝つ。人生を柳のようにしなやかに上手に立ち回る知識を実践しているのが華僑の特徴です。そのルーツは中国古典の精神に在り、その古典の教えを現代に活かしたのが本書で言う華僑の教えです。
生産性を高めるにはやらないことを決める。
無駄なことをしない、やらないことを決めるだけで大きな差が付くのだとか。日本のサービス業で蔓延している過剰サービスも同様で生産性の観点からはやらなくても良いこととバッサリ。生産性を高めるには無駄を見極め、本当に必要な事に集中する必要があります。
そして自分だけで抱え込まないこと。何かを成し遂げるのに周りの人を巻き込むのも重視され、自分が出来ない事も他者の助けを借りて実現していきます。だからこそ、人間関係、コミュニケーションを良好にする知識や工夫が重視されます。
予習はしない、ぶっつけ本番の実践で体で覚える。
失敗を恐れ、完璧主義な人ほど念入りに準備(予習)をして仕事に臨みますが、結局ぶっつけ本番が一番とのこと。自分を磨くために本番を重ねることほど効果があるものは無く、特に想定外の事態が連続するビジネスの現場では予習することでかえって想定外の事態に焦ってしまうのだとか。基礎的な仕事の知識を学習したのであれば、後は本番での実践の復習を重視する姿勢が結果を出すことに繋がります。何かやらかしたらその都度修正していく態度が重要です。
自己主張せず、聞き役に回る。
ポジションを主張すると勝ち負けが付きまとい、確執を生みます。そもそも勝負に参加しなければ負けることもありません。不敗のポジションを好む華僑は人の意見などで自分を主張せず、自分の有利になるように虎視眈々と機会をうかがいます。
聞き上手は情報を多く手に入れることができます。知っている事でも知らないふりして聞き上手になる事で、相手を喜ばすことができます。
忙しい人は成功できない。
いつも忙しくしていると新たな機会が入ってきません。いつ重要な案件が入っても良いようにゆとりのあるペース配分を持つ事が成功に繋がります。
才能では無く、努力。誰かが成功したのなら自分も成功できる。
誰かが成功したのなら、自分も成功できると思う事。成功した人も自分と同じ人間。どんな人も未経験の状態から時間を掛けてその立場を獲得しました。であれば、同じ人間である自分にやってできないことはないでしょう。そして今自分の置かれている問題(状況)を、成功者の彼らだったらどのように対処するのだろうか?と成功者の内面を自分で想像してみるのも良いでしょう。
関連→【書評と要約】「やれば出来る」の研究「マインドセット MINDSET」キャロル・S・ドゥエック(著) 自分の変化と可能性を信じる力とは
「今は仕方が無い」がストレスからの回復力に繋がっている。
華僑で言う「仕方が無い」は「今は」仕方が無いという意味で、何も完全に諦めたわけでは無く、時期を見ていつでも再チャレンジする意図が込められています。今はダメなだけで、今後努力次第で挽回できる、という建設的な態度です。
「一回しかチャンスが無いと思うのでは無く、失敗しても何度でも挑戦できる」、というたくましさが華僑のレジリエンス(ストレスからの回復力)を高めているのでしょう。
成果は平凡でも継続する事。
100点の成果を一回出すよりも、40点~60点の成果でも良いから何年も継続する事が説得力や大きな繋がりを生みます。成果が出ない停滞期に努力を辞めない事が重要で、停滞期に入ったということは難しい事や状況に取り組める程に成長した証明です。
人に利用されることで、価値を示せる人間になれる。
まずは人から利用されることで、自分の価値を示すことが出来るようになります。自分の手伝いで誰かが出世をすれば、その人が自分を引き上げてくれることも。結果として自分が人を利用できるようにもなれます。
自分が勝とうと意気込むよりも、周りの人に「勝ち」を譲っておく。
自分の努力や成果を主張して出世しようと意気込むよりも、自分は負けても良いから一歩引く態度が周囲の信頼を生みます。以前まとめた「GIVE & Take」のギバーのように、自分の失敗談から得られた教訓を伝えたり、相手にとって得になる情報を教えてあげれば周りからの協力も得やすくなります。
交渉に関して。
交渉の場面では相手を勝たせることで相手の自尊心を満たしてあげることで警戒心を解くことが重要です。信頼を得られれば相手のニーズや本心を引き出すことが出来ます。
何かを交渉するときは情熱では無く安心感と納得感を優先すべきで、未来の展望を語るのでは無く、過去から納得感を引き出します。前例があるのであれば信頼性の根拠になりますし、前例が無ければ真新しいアイデアの根拠となります。
また、どんな人でも成長し変化するので、最初の印象からダメな人だと判断して付き合いを雑にするのでは無く、どんな人とも丁寧に接することが重要です。
悪口を言われることのメリット。
悪口を言われることは成長した証。
・悪口を気にしないことで「悪口を意に介さない」一つ上の態度が取れる。
・悪口は裏返せば「あなたには勝てない」というメッセージ。
・本当に強い人は自分より弱者の悪口を言わない。
・悪口は弱みの自己紹介。悪口の中に相手の弱み、劣等感が見えてくる。
感想・まとめ 東洋思想の実用書。少し肩の力を抜いて、柔軟な発想でビジネスを乗り切る覚書。
西洋の仕事関連の本ですと効率化ばかり追求するのですが、本書では効率化よりも自分独自の生き方を見つける事が重視されています。いくら効率を追い求めても、自分の人生を生きなければ意味が無いですし、効率化は未来のテクノロジーが人間の代わりをしてくれます。教えの元は中国古典なので、はるか昔から読み継がれてきた人間心理からの智慧は普遍的なものを感じます。
全体をまとめると、「ガツガツ出世しようと気を張り詰めるのでは無く、周りとの調和を大切にしながらゆるい態度で力を抜いて自分のするべきこと、周りにとって得になる情報を惜しみなく与えること、失敗しても今はダメなだけで後でいくらでも挽回できるという確信を持つ事」が神髄でしょうか。
特に失敗してもまた努力してやり直せば良いという指摘は完璧主義で行動出来ない人の背中を押してくれるでしょう。
部下のやる気を引き出すマネジメントに関しての知識も載っているので管理職の人にも参考になるかと。重要となるのは「できる事よりもやりたいことを優先すること」で、出来ることばかりやらせていては成長が鈍化するので本人のやりたい分野で挑戦させてあげることが部下の成長に繋がります。
生真面目に真面目に働き続けるのでは無く、ちょっと肩の力を抜いて、ずるく、ゆるく賢く生きるための知恵が詰まった一冊です。中国古典が好きな人ならハマると思います。
■「華僑の大富豪に学ぶ ずるゆる最強の仕事術」大城 太 (著) 日経BP (2017/8/31)
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