多くの人は自分がどんな仕事に向いているのか、どのような仕事についたら良いのか悩むと思います。私もそうで、大学時代にはよく図書室にこもり仕事やモチベーションについての本を読んだものでした。仕事は人生の大部分を占めるもの。だからこそ失敗したくないし、正しい選択をしたいと思うのが人というもの。今回は幸福な人生へと繋がるような、やりがいを感じられ、長続きする仕事についての知見をまとめてみました。
目次(Contents)
仕事に取り組む3つの志向性の違い
人には仕事に取り組む際、大きく3つの志向性があり、この3つの要素のどれが強いかで同じ仕事でも仕事が長続きするかどうかが変わってきます。
アイデンティ志向:仕事と自分のあり方を同一視するタイプで、仕事に情熱ややりがいを強く求めるタイプ。私にはこの仕事しかない!と自分と仕事とを同一視する傾向があって、自己の実現のために自分にしかない天職を追い求めるタイプ。
貢献志向:自分はこの仕事で誰かに貢献する、社会や世界を変えることにやりがいを求めるタイプ。仕事において誰かの役に立つことを重視するタイプ。
実践志向:あくまで仕事は仕事と割り切るタイプ。別に好きでもないけれど、自分がやった方が他の人がやるよりも効率が良いからやる、みたいな仕事に情熱などを求めないドライなタイプ。
実践志向こそが最も長続きしていた。情熱がある人ほど仕事が長続きしない。燃え尽きの危険性。
上記の3つの志向の中で仕事が最も長続きしたのは実践志向でした。仕事は仕事と割り切った方が仕事が長続きし、結果としてスキルも身につき成果も出るのです。
仕事に理想を高く求める人ほど理想と現実のギャップに苦しみ燃え尽き症候群のようになって、途中で力尽きてしまいます。貢献志向は自分よりも他者の人生を優先しすぎてすり減ってしまう危険も考えられますね。
自分の身の回りのことを思い出して、最初は熱心にやる気に満ち溢れていたが、ふとしたきっかけで情熱がなくなり仕事を辞めてしまう人は多いのではないでしょうか。
「仕事に夢を持とう」というアドバイスは自己啓発本など古くから喧伝されていますが、実際には仕事に過度に理想を持ちすぎるのはかえって不幸になるということです。
最初はやる気や情熱にあふれていても、実務ではつまらない退屈な作業も多いです。ほどほどに仕事と距離感を保ち、仕事は仕事とドライに割り切る点を見いだすことが仕事を継続するコツと言えます。
情熱は後からついてくるもの。情熱(やる気)の適合タイプと成長タイプ。
仕事のモチベーションにおいて、よく同じ文脈で言われるのが仕事の情熱(やる気)に関するテーマです。仕事と情熱のテーマはよく研究されていて、以下の二つのタイプがあります。
適合タイプ:やりがいのある仕事を最初から求めるタイプ。
成長タイプ:やりがいは仕事を通じて後から自分で育んでいけばいいと思うタイプ。
多くの人は適合タイプで、仕事を選ぶときに自分にとってやりがいのある仕事に執着しがちですが、この二つのタイプとも長期的な仕事の成果・幸福感などには違いがありません。
その理由として、適合タイプはやりがいのある仕事を求めるあまりに現実の仕事とのギャップに苦しみ、ジョブホッパーのように転職を繰り返して不安定になりがちです。またやりがい搾取といって、仕事へのやりがいを餌にブラック企業で低賃金長時間労働の害を受けやすいです。デザインや照明、アニメや映像、ゲームなどのクリエイティブ業界には特に多く見受けられます。
一方で成長タイプの場合は自分に向かない仕事も長期にわたって努力し続けられるし、成果も出ますが、仕事自体への満足感は適合タイプほど多くはないタイプです。しかし同じ仕事を惰性で続けるあまり、転職もしないため、他の分野での自分の才能や気づきを得られない可能性があります。
どちらもお互いの長所と短所が相殺して同じような幸福度になるので、長期的に見ればどの仕事を選んでも自分の心構え次第でそれなりに幸福にはなれる、という見方ができます。
仕事に重要な要素とは?カル・ニューポート(Cal Newport)の職人マインドセット(the craftsman mindset)について
やる気や情熱、夢という抽象的な尺度ではなく、もっと具体的にどのような要素が大事なのかについて学業とキャリアについて研究しているカル・ニューポート(Cal Newport)さんが職人マインドセット(the craftsman mindset)を提唱しています。以下の特徴を持つ仕事はやりがいを感じられ、継続可能な成功するキャリアにつながりやすいとのこと。
・自分の能力を成長させる機会がある:今の自分の仕事から成長を感じられ、成長している実感が人のやる気を高めます。自分のしている仕事が自分の技能を高め、砥石を研ぐように自分の能力上達を実感できる要素はやりがいをもたらします。
・自分の意思で行動できているかどうか?:人からやらされる仕事ではなく、自分の主体性、自分の意思で仕事の量やペースをコントロールできるかどうか、つまり仕事への裁量の大きさががやりがいをもたらします。経営者や権力者ほど高いストレスやプレッシャーにさらされても元気で活力があるのは、仕事の内容や状況、進捗などを自分でコントロールできているからです。
・社会の役に立てるかどうか:自分のした仕事が社会で役に立っている感覚はあるかどうか、エンドユーザーとか消費者に良い影響を与えているかどうか自分で認識できることが重要です。何かしら人の為になっていると感じられることがやりがいを高めます。
つまり情熱はあとからついてくるものとして、まずは情熱ではなく誰かの役にたつ職能(スキル)を磨く感覚を持って仕事を選ぶと、だんだん継続しているうちに誰かから感謝してもらえるようになり、技術のおかげで独立もできるようになり、キャリアもうまくいきやすいということでしょう。
前に進んでいる感じがないと情熱は感じられません。また誰かにやらされてやっているような仕事も難しく、自分の意思で仕事をしたいと思えるかが重要です。理想の仕事をいきなり見つけるのではなく、自分が投下した努力の量に応じて情熱が高まっていくので、自分がこれはと思った分野はまずやってみて上記の特徴を見出してみるのがいいでしょう。
まとめ 天職についた人の多くは偶然の産物だという。視野を狭めずチャレンジの幅を増やして行動を続けていくことが天職への道。
天職についた人の大半はたまたまついた仕事だといいます。これは本当に実感することで、ある人との偶然の出会いや、その時の時勢、運など様々な要素が絡み合って続けていくうちにいつしかそれが天職になっていた、という人が多いのです。
少し一般の人にはわかりにくい例を述べると、私はゲームのBGMを作るゲーム音楽作曲家(有名どころはドラクエのすぎやまこういち、FFの植松伸夫さんなど)に憧れと敬意を抱いていますが、彼らもまさか自分らがこんなに世界的な人気を得るとは思っていなかったでしょう(ニッチな分野で日本のゲーム音楽作曲家は世界的にコアなファンを持つ)。彼らのインタビューを読むとなんとなくの流れでその仕事に就いたが、仕事を続けていくうちに徐々にファンもでき、人気ができていたといいます。
最初から情熱を仕事に求めるのではなく、たまたま就いた仕事を続けていたら情熱があとから湧いてきた、というのが正しいのです。人生の目標を事前に決めて突き進むのもいいですが、あえて決めずに流れにのって今自分のできることに取り組みつつ、偶然の出会いを見つけるのもむしろアリだということです。仕事は続けていればそのうち好きになれるだろうという気軽な気持ちで、いろんな分野の仕事にチャレンジする心構えが未来を切り開くのでしょう。
参考・出典
・Negotiating the Challenges of a Calling: Emotion and Enacted Sensemaking in Animal Shelter Work→動物保護施設で働く人のやりがいについての研究。長時間低賃金でも続けていられる人は何が違うのか。3つの仕事への向き合い方タイプ(calling paths)の違いで同じ仕事でも結果が異なることを示した。
・“I Put in Effort, Therefore I Am Passionate”: Investigating the Path from Effort to Passion in Entrepreneurship→最初から情熱があるのではなく、何かに取り組んだことであとから情熱が湧き出てくることを示唆。
・Cal Newport Grand 2012 So Good They Can’t Ignore You.→学業とキャリア(集中力など)の研究で有名なカル・ニューポートさんの本。
・Finding a Fit or Developing It: Implicit Theories About Achieving Passion for Work→事前に仕事にモチベーションを期待するのと、後から育てていくことの違いに注目した研究
・Becoming a Craftsman: A Book Review and Analysis of “So Good They Can’t Ignore You” by Cal Newport
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