逆境を乗り越えろ 不安と緊張の心理学

今回は逆境や人生の大勝負に直面したときにどう乗り越えていくのかについての心理学研究を紹介します。まずは2つの心理戦略(マインドセット)の違いによる対処法の違いを見ていき、次に緊張した場面でどう対処したらいいのかを見ていきます。

二つの心理戦略

心理学者ジュリー・ノレムさんによれば、人には人生の大勝負に対処する際に二つの心理戦略があるといいます。

戦略的楽観主義」:最高の結果を予測し、冷静を保ち、目標を高く設定する。
防衛的悲観主義」:最悪の結果を想定し、不安を感じながら、起こりうるあらゆる悪い事態を予測しておく。

一見すると戦略的楽観主義を持った方がいい感じがしますが、実はこの二つの心理戦略によってパフォーマンスの差は無いそうです。ただ、どの心理戦略を持っているのかで有効なアドバイスが変わってきます。

戦略的楽観主義を持つ人は、大勝負の前に励まされたほうがパフォーマンスが向上しました。プラスのエネルギーを持っているため、それを加速してくれるような、ある意味自分に都合が良い面を強調された方が本来の力を発揮できました。

逆に防衛的悲観主義を持つ人は自信が無く不安が強いために、用意周到に準備し、結果として良い成果を出すタイプです。こうした人たちはなんと、よい結果をイメージしたとき、リラックスしたとき、励まされた時にパフォーマンスが低下しました。防衛的悲観主義を持つ人は、悪い結果を思い描いた時の方がパフォーマンスが向上したのです。不安が強くて悲観的だからこそ結果を出せるタイプと言えるでしょう。

防衛的悲観主義を持つ人は不安や恐怖、心配を克服するために大惨事を想定して不安を増幅させ、その不安をモチベーションに変えて行動に変えていきます。自分の想定する大惨事をなんとか回避せねばという気持ちに突き動かされて細部のありとあらゆることに気を回します。こうすることで事態をコントロールできると実感出来、すばらしい結果を残します。

ちなみに私はガチガチの防衛的悲観主義のタイプです…!不安が強い人は不安を否定するのではなく、それを活かすべきです。ただ私の経験上、防衛的悲観主義にも弱点はあって、不安が行動に結びつかないほど強くなったら、誰かに相談するなどして不安を減らした方がいい場合もあります。不安は諸刃の剣だと思います。

「落ち着け」というアドバイスは間違い

人が恐れる対象として、「死」よりも多くあげられるのが「大勢の前で話すこと」だそうです。

ハーバードビジネススクールの准教授アリソン・ウッド・ブルックスさんは実験で大学生に「なぜ職場で自分はいい仕事ができるのか」という趣旨でスピーチをしてもらいました。(日本の就活対策でもこういう訓練ありそうですね…)

具体的なやり方はスピーチの前に「私は落ち着いています」「私は興奮しています」のうちいずれかを声にだしてもらいました。たったそれだけの違いで学生のスピーチの質が変わりました

自分の感情を「興奮している」と声に出した学生のスピーチは、「落ち着いている」と声に出した学生のスピーチよりも説得力が17パーセント高く、自信は15パーセント高いと評価されました

何が起こったのでしょうか。

この背景には不安や恐怖を興奮に置き換えることが起きています。以前取り上げたリアプレイザルの手法ですね。

この感情の置き換えをした学生たちはスピーチのやる気が高まりスピーチ時間も長くなったといいます。実験では、平均して27秒も長くステージにとどまる勇気が湧いたそうですから、かなりのものです。

別の実験では数学のテスト前に「落ち着いてごらん」と言われた時よりも、「張り切ってやってごらん」といわれた時のほうが得点は22パーセントも高かったという結果が出ています。

感情をどう捉えるかでパフォーマンスが変わるのです。なぜこの感情の置き換えは効果的なのでしょう?

恐怖心は強烈な感情です。この状態で恐怖心を否定し、リラックスさせようとするのは車が時速160キロで走っているときに急ブレーキを掛けるようなものだと言えます。

こうした強烈な感情は抑圧するのではなく、違う感情にすり替えた方が簡単です。恐怖が持つすさまじいエネルギーを生産的な方向に向けるのです。

まとめ恐怖の原因と向き合い方

恐怖の裏側には将来の不確かさがあります。人は分からないものに対して恐怖やストレスを感じます

人は多くの場面で「何か自分の身に悪いことが起こるのではないか」と不安になりますが、その不安が的中することは少なく、良い結果に終わる場合もたくさんあります。

そのため、活力や行動力があるときは、不安を逆境を打破するための前進力と置き換え、前へ進むべき理由に目を向けてアクセルを踏み込んだほうが充実な人生を送れるでしょう

しかし、人生にはどうしても調子が出ない場面もあると思います。行動を起こすエネルギーがないときにネガティブに考えるのは危険です。不安を増幅し、ますますブレーキをかけてしまうのが人間です。不安を感じているとき「不確実であること」は実際に起こるネガティブなことよりも恐ろしいものです。いったん具体的な最悪の事態を思い浮かべられた方が対処法や心構えも見えてくるので状況をコントロールできると感じられます。

そのため、調子が出ないときはたっぷり睡眠を取るなどしてしっかりと休み、行動を起こすためのエネルギーを蓄えましょう。エネルギーがチャージされたら、戦略的楽観主義と防衛的悲観主義のマインドセットを使い分け、襲いかかってくる不安と向き合います。恐怖を受け入れることで不安を前に進む力に変えていきましょう。

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参考・出典

「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」が出来る時代」 アダム・グラント (著) シェリル・サンドバーグ (解説) 楠木 建 (監訳) 三笠書房 (2016/6/24)

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