怒りのコントロール心理学 表出ではなく方向を制御せよ

誰もが人生で一度は自分でも抑えられない怒りの感情にとらわれてしまったことがあると思います。怒りをコントロールできずに人間関係が台無しになってしまう事もしばしば。怒りは強力なエネルギーですが、怒り故に発言と行動が失敗を導いてしまいます。今回はその怒りについてどうコントロールしていけばいいのか参考になる研究を紹介します。

怒りの表出は逆効果?サンドバッグ実験

怒りの表出についてのブラッド・ブッシュマンさんの研究です。学生たちを挑発し、怒りを感じさせた後に3つのグループに分けて実験を行いました。気を紛らわすためにサンドバッグを用いているのがこの実験の面白いところ。(日本でもこういう実験やればいいのに)

怒りの表出グループ:自分を罵倒した人間の写真を見ながらサンドバッグを殴らせたグループ。
気を紛らわせるグループ:体を鍛えることをイメージしながらサンドバッグを殴ったグループ。
ストップグループ:サンドバッグを使わずに2分間静かに座っていたグループ。

これらの怒りの対処をした後、被験者は「自分を貶めた人をどう思いますか?」と聞かれました。

その結果、怒りの感情表出をさせたグループが最も攻撃的でした。怒りを発散させてスッキリさせたはずなのに、怒りは持続し中には八つ当たりをする被験者もいたそうです。

怒りを発散しても怒りの炎は消えることなく、さらに燃え上がってしまいました。怒りは燃やせば燃やすほど加速する性質があるのです

サンドバッグを叩きながら気を紛らわせたグループは他の対処法を考えることができました。怒りから生まれたエネルギーを上手に行動に転化できたグループと言えます。一方でサンドバッグも殴らずにじっと座っていたグループは感情自体が落ち着いていったとのことです。

怒りをそのまま表出させるのは意味が無く、むしろ怒りに更なる燃料を注いだ結果になりました。これはなぜでしょうか。

理由として怒りの表出は自分に不当な行いをした人に意識が行き過ぎるのが問題です。その人のことを考えれば考えるほど報復のために怒りの炎を燃やし続けてしまうのが人間なのです。

では怒りという強烈なエネルギーを生む感情を有利に活かす方法はないのでしょうか。

怒りを建設的な力に変えるには「どれに目を向けるか」怒りの方向性が重要です。加害者に対して怒るのではなく、苦難を強いられた被害の方に目を向けると怒りを上手く生かすことができます。

共感的怒りをうまく活かす。

他者に対しての怒りは復讐心を生み、他者のための怒りは正義やよりよいシステムを生む

革命が行われた国では「首謀者を打倒せよ」と主張するよりも、「今ある現状に怒りを感じていないか!」と人々に訴えかけた方が多くの人の心を動かし、革命も上手くいったという調査が出ています。

これは、怒りを向ける対象を上手にコントロールした例です。ある対象を罰したい気持ちから、ある対象を助けたい気持ちへ。日本語で言えば義憤を上手に行動に活かすことで怒りは生産的なパワーを生み出します。「このままでいられるか!」という現状への怒りが困難を打破する行動へと駆り立てるといえます。

その他感情コントロールの考察

活動家を研究しているデボラ・マイヤーソンとモーリン・スカリーさんは怒りのコントロールについて、熱くなりつつ冷たくなる態度が理想であるとしています。怒りで熱くなることは行動と変化の燃料になります。そして冷たく冷静になることで怒りが生む行動力を論理的に着実に実行していくことが出来ます。

また、社会学者アーリー・ホックシールドさんによると、人々は不安や怒りなどの強烈な感情に対処する時に表層演技と深層演技で対処しているといいます。表層演技は表面的には穏やかですが、内面では怒りで燃えている状態です。感情を抑圧し、仮面をかぶっている状態ですがこうした態度はいつか燃え尽きてしまいます。

一方で深層演技は上辺だけではなく、内面の感情を実際に体験していく態度です。客室乗務員がクレーム客に対応するときに、客の不安や心配な気持ちを芯から想定して体験することで心からの同情や対応ができるようになります。自分が大きな挑戦に挑む時には、前回似たような体験を乗り越えた時の気持ち(例えば以前バンジージャンプで勇気を奮い起こしたことなど)を思い出して体験することで、逆境を乗り越える勇気を奮い起こしたりできます。

怒りにしろ不安にしろ今ある感情を上手に活かすことがよりよく生きることに繋がっています。

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参考・出典

「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」が出来る時代」 アダム・グラント (著) シェリル・サンドバーグ (解説) 楠木 建 (監訳) 三笠書房 (2016/6/24)
Brad J. Bushman, “Does Venting Anger Feed or Ext inguish the Flame? Catharsis, Rumination, Distraction, Anger, and Aggressive Res ponding,” Personality and Social Psychology Bulletin 28 (2002): 724–31
Brad J. B ushman, Roy F. Baumeister, and Angela D. Stack, “Catharsis, Aggression, and Pe rsuasive Influence: Self-Fulfilling or Self-Defeating Prophecies?,” Journal of Person ality and Social Psychology 76 (1999): 367–76
Brad J. Bushman, Angela M. Bona cci, William C. Pedersen, Eduardo A. Vasquez, and Norman Miller, “Chewing on I t Can Chew You Up: Effects of Rumination on Triggered Displaced Aggression,” J ournal of Personality and Social Psychology 88 (2005): 969–83.

 
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