経験から導き出される法則ヒューリスティックとは?+その問題点について

経験から導き出される法則ヒューリスティックとは?+その問題点について
心理学の世界では、これまでの経験から得られる洞察や法則ヒューリスティック(Heuristic)と呼んでいます。何かを意志決定する時や判断するときの拠り所となるヒューリスティック、今回はこのヒューリスティックについてまとめました。

ヒューリスティック(Heuristic)とは

ヒューリスティックとは経験則のことで、例えば
・面接の場面ではカジュアルな服装よりもカチッとしたフォーマルな服装の方が好ましいと考える。
・あの人はいつも赤いバッグを身に付けているから、赤色が好きなのだろうな、と推測する。
・自分にとって失敗が少ない言い回しの選択を選ぶ。例)「80%の確立で失敗する事業」よりも「20%の確立で成功する事業」を選ぶ。
・お金を稼ぐ人ほど有能で、人柄も良いと感じてしまう。

といったように、私たちがこれまで生きてきた経験から導き出される答えのようなものをヒューリスティックといいます。しかし、これらの判断が全て必ず正しいとは限らず、後で自分が後悔するような選択をしてしまったり、専門家でさえも間違った判断を下してしまうこともあります。意識的に自分でヒューリスティック(経験則)に従っている時もあれば、無意識・無自覚に流されてしまうときもあり、バイアス(思い込みや偏見)も含まれています。私たちがヒューリスティックに頼るのは脳にとっては効率的ですが、あくまでも個人の経験則なので不正確なところが問題です。

ヒューリスティックの問題点1.想起しやすいものが正解だと思ってしまう傾向

人は自分が直ぐに思い出せる=想起しやすい事柄を元に判断を下す傾向があります(想起しやすさ、利用可能性のヒューリスティック)。

相手が誰だが分からない時は相手の外見から受ける印象でその人の人柄を推測します。事実よりもその対象からうけるパッと見の印象の方が大事で、自分の記憶の中でぱっと思い浮かぶ情報で判断します

クレジットカードの無駄遣いとも関係があって、現金を失うという痛み(お金を失うというヒューリスティック)から距離を置いているから、沢山のお金を使ってしまいます。今は電子マネー化が進み、お金という物質の実態が薄れているので意識しないと無駄遣いが多くなってしまう時代でしょう。

関連「「思い起こしやすさ」の心理学 簡単に思いつくモノほど重要と感じる傾向

ヒューリスティックの問題点2.言い回しによる選択の違い

同じ結果をもたらす選択肢でも、言い回しを変えるだけでガラッと判断や受け取り方が変わる傾向のことです。ダニエルカーネマンらのプロスペクト理論では、人はリスクを避ける選択肢を好むという結果が出ましたが、人は利益よりも損失に対してずっと大きく反応します。

同じ事業でも、「80%の確立で成功する事業」と「20%の確立で失敗する事業」、伝えられ方で受ける印象はガラッと変わります。(ちなみにこうした情報の提示のされ方をフレーミングと言います。)

関連「損失回避の原則 「プロスペクト理論」 人は得より損失の方が2倍以上大きく感じる

ヒューリステックの問題点3.関連づけ

空に浮かんだ雲を見て動物を連想するように、私たちは常に何か秩序を見いだそうとします。株価に一喜一憂する一般投資家がそれで、大きな金融危機や大企業のスキャンダルが報道されると株を狼狽売りをして実態よりも自分の想像する破滅的な未来に駆られて行動します。(銀行が破産する噂が流れると、その噂を信じた全員が預金を引き出し本当に銀行が破産してしまう…など)。自分の想像や世間での騒動などとの関連付けで実態が正しく見えない、ということです。ネットやテレビで流された内容が全て正しいとする見方は危険、ということでしょう。

ヒューリステックの問題点4.確証バイアス

例えば自分のヒューリスティックが導き出した結論が間違っていたとしても、人はそれを埋め合わせるような情報を選択していつまでも自分の判断が間違っていた事を認めない傾向があります。

これは確証バイアス(確認バイアス)というもので、一旦その人の事を真面目だと判断したらその人の真面目な側面ばかりを意識してしまったり、企業の面接では面接官がすぐ辞めそうだという印象をもった応募者に対して以前の職場を辞めた理由を問いただしたりします。無意識に自分の最初に抱いた印象を強めようとしているわけです。

人は色んな情報から物事を判断しますが、こうしたヒューリスティック(経験則)は万能ではないですし、やはり正しい選択・意志決定をするのは難しいという印象を受けました。

参考・出典

・「選択の科学」 シーナ・アイエンガー 文藝春秋 (2010/11/12)
・「ファスト&スロー」上・下 あなたの意志はどのように決まるのか? ダニエル・カールマン 早川書房 2012
Why You Don’t See the Forest for the Trees When You Are Anxious: Anxiety Impairs Intuitive Decision Making

 
前の記事【美術の時間13】絵画の記録性について。写真の登場で絵画の記録性の役割は取って変わられたが、物語を描く役割は残っている。美術の役割の変遷。
次の記事アンカリング効果とは?直前の情報や数値を基準に判断してしまうこと。