世界は平等で予測可能であるという思い込み 公正世界仮説が認知を歪める

皆さんは「公正世界仮説(just-world hypothesis)」という人が持つ認知の傾向をご存じでしょうか。公正世界仮説とは「世の中は公平にできている」と考えたがる人々の傾向(バイアス)のことで、社会心理学の分野でメルビン・ラーナーが最初に言及したとされています。

ラーナーは、一般に人間は「世界が予測可能、理解可能であり、したがって自分の力でコントロールできると考えたがる」と述べました。

これはつまり人は「世界が公平で、コントロール可能で予測可能であって欲しい」という願望のようなものを持っている事を意味します。

予測可能な世界観は、ルールに従った者は利益を得られ、悪は罰せられるような世界観です。多くの人は「良い行いをすれば報われ、悪い行いをすれば罰が当たる」と思い込んでいます。私たちも子供の頃からそう教育されてきます。しかし、この世界の捉え方は時として認知のゆがみをもたらします。

認知のゆがみの例 成功者崇拝と被害者批判

例えば私たちは成功者や富や権力を手にした人を見るだけで、「その人はその富を享受するのにふさわしい行動を何かしたのだ」と考えてしまいます。その人があまり社会的に認められないやり方で成功していたとしても、無条件に何かしら人として優れ、尊敬に似た感情を抱いてしまいます。

逆に、不遇な境遇に置かれている人に対しては「ああいう目にあっているからには何か原因があるはずだ」と推論してしまいます。これは被害者批判、過度な自己責任論につながり、例えば夜に出歩いて襲われた女性に対して、「夜中に出歩く女性のほうが悪い」などと、本来攻めるべき加害者では無く被害者のほうに批判が向いてしまいます。

高身長のイケメンや美女は周囲から仕事が出来るように思われやすい傾向も、良い特徴を持った人は他の部分でも能力があるというハロー効果のような認知傾向を私たちは抱いています。

「世界は公正で、何らかのルールで回っている」と認知したい傾向は、人がより良く生きていくのに必要だと言えます。真面目にコツコツ生きている人は、法律に隠れて悪いことした人に天罰が当たることを期待しますし、悪人が罰を受けること無くのさばる世界など認めたくないでしょう。

努力や良いことをした分だけ報酬や報いを期待してしまったり、何か悪いことをした人には罰が当たるに違いない、と思い込むのはごくごく自然なことだと言えます。

権力を持ち、状況をコントロール出来る人ほど幸福だ

この公正世界仮説バイアスが健康に影響を及ぼしていることを示唆している例があります。それは、経営者や社長は高いストレスとプレッシャーにもかかわらず長生きの傾向があることです。権力を持ち、今の自分の立場や状況を意志決定できる範囲が多い人ほど、世界をコントロールしている感覚が高まります。そのため自分が世界を動かしているという感覚を得ることが出来、その感覚が人の健康や活力を増進させるのです。

アルバイトや派遣、単純労働はストレスや責任も少ない分、自分が状況をコントロール出来ないので鬱屈や疲労をため込みやすくなります。いかにして自分の人生のハンドルを自分で握っている感覚を得られるかが人の幸福に大きく影響をもたらすのです。

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参考・出典

「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳) 日本経済新聞出版社 2011/7/21
ハロー効果(Wikipedia)
公正世界仮説(Wikipedia)

 
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