今回は数多くの起業家を支援してきた非営利ベンチャーキャピタル「エンデバー」を立ち上げたリンダ・ロッテンバーグさんの「THINK WILD あなたの成功を阻むすべての難問を解決する」を取り上げます。新たな価値を生み出す起業家=アントレプレナーの心構えとは。
目次(Contents)
最も起業家の心を挫くのは自分自身
良いアイデアや起業への発想が生まれても、最も難しいのは自分自身のGoサインを出すことです。自分自身が納得して、自分を信じていないと起業する事は難しいと言えます。こうした「心の壁」は起業家を志す人なら誰もが体験するもので、起業家精神とは自分自身を鼓舞し、勇気づけ、恐怖心に打ち勝つことです。
人と違う事を恐れるな
発明家エジソンの事を例に出し、どんなに周りから変人・クレイジーだと思われても、自分のアイデアを信じ、行動を起こすことが重要です。今ある成功したプロジェクトの多くは批判がありました。(Xbox、ポストイット、ウォルマート、MRIなど)
そういえば日本のカップヌードルの父・安藤百福さんも逆境の中ひたすらチキンラーメンの開発に専念していたというのですから、起業家には人とは違った考えやアイデアを信じる精神力が極めて重要であることが分かります。
理論よりも行動を重視する 完璧にならない 行動しながら修正していく
起業するために事業計画書を入念に書く必要は無く、考えすぎないで行動に移すことが大事です。動きながら、修正していけば良いのです。まずは完璧を目指さずに、試作品でも良いから市場に出す。そして、市場からの反応を見て修正していく。自分の理想とする完璧が出来てからリリースするのでは、いつリリース出来るのかも分かりません。実際にアニメーション大手のピクサーは事業計画に従わなかったし、インテルの事業計画書は161文字しかありませんでした。
一気に高い望みを叶えようとするのでは無く、少しずつ成果を積み重ねながら資産を蓄えていくイメージです。
リスクの取り方
起業家はリスクテイカーだと思われがちですが、実際はその逆で、取らなくて良いリスクは極限まで抑える必要があります。全財産を投資せず、日常生活を維持できる最低限の収入や貯蓄は覚悟した上でコツコツ努力することが必要です。
貧しい時には思考力や判断力、行動力が大きく低下する研究が多く示されていて、金銭的な不安は感じない程度に押さえることが肝要です。そして不安や緊張を感じつつも前に進んでいく感覚を持てるかどうかが重要になります。
本書では友人に反対されたアイデアが大成功したバナナ・リパブリック社の例を示し、友達や他人の意見は鵜呑みにせず、自分で考え自分で判断することが大事だといいます。リスクの取り方は自分で判断しましょう。
逆境こそが創造を生む。
逆境に直面したとき、どう乗り越えるか。ミッキーマウスの産みの親ウォルト・ディズニーは圧倒的不利な契約条件を飲み、当時人気だった「しあわせウサギのオズワルド」(参考)というキャラクターを断腸の思いで手放しました。しかし、そのあとでミッキーマウスという世界で愛されるキャラクターを生み出しました。
逆境から逃げずに、むしろ逆境の中に飛びこみ活路を見いだしていく胆力、不安や恐怖に押しつぶされない精神力、行動力が必要になります。
何をしないかを決める
しなくても良いことについてはやらない勇気を持つことも必要です。いかに無駄を切り捨て、シンプルに力を発揮できる場所を絞り込むか。まずは一つの軸を作り、それを幹にしつつ枝葉を伸ばしていくイメージです。本書ではアップルに復帰したスティーブジョブズの本当に重要なことにやることを絞り込むエピソードが印象的でした。
リーダーの素質と失敗加点方式の風土作り
優れたリーダーは失敗を受け入れられ(人に弱みを見せて困ったときにちゃんと人に頼れる)、部下との距離が近く、失敗を許容する態度を持つのが重要です。特に試行錯誤の回数は成功の確率を上げるので、挑戦を良しとする社風=失敗を加点する風土づくりがとても大事です。失敗が減点になるような、社員が挑戦におびえてしまうような社風は官僚的になり、イノベーションは起こしにくくなります。
日本でホワイト企業と特集された未来工業の故・山田昭男さんの事が思い浮かびます。
総評
教養 ★★★☆
装丁 ★★★★★★★★
満足度 40%
読み終えましたが、ボリュームが無駄に多く、理想論的過ぎるという印象でした。広く浅い本…という感想です。活用法としては、多くの起業家の例が乗っているので、彼らのストーリーを知ることが参考になる程度でしょうか。人それぞれ生まれも育ちも環境も違うので、万人に当てはまるような公式や理論はひどく抽象的で、実場面での応用が利きにくい感じです。読んで自己満足する類いの自己啓発を読んだ後みたいな読了感でした。
例えば起業家には強靱な精神力が大事なのは分かったけれど、それならどうやってその強靱なメンタルを身につければいいのか?については触れられていません。逆境を乗り越えることが大事だ!とはいっても、その乗り越え方に対する具体的行動に落とし込めるような内容は無く、「この力(心構え)は重要だ!」と投げているだけ。一緒に起業する仲間が大事なのは分かったけど、どこでその仲間を見つければ良いのだろう?(現実にはドラクエ3にある冒険者の酒場なんてないし…。)
中盤は起業家のタイプ別分析があるけれど、いまいちしっくり来ませんでした。運の要素は前提として、どんな人と出会って、どんな人が協力しているのかの方が重要でしょう。成功してから人は変化する可能性だってあります。
後半はビジョナリーカンパニー(働きがいといったお金以外の精神的価値)の事にも触れているけれど、ピンときませんでした。結局企業は利益を上げてなんぼなので、いくらきれい事を言ったとしても、結局はお金が基盤になると思います(その余ったお金で慈善活動をする)。ちゃんとした稼ぐシステムを構築しないと、いくらビジョナリーと言ってもそれはただの趣味だよなぁ、と思いました。日本ではデザイン業界などでやりがい搾取も問題になっています。
起業家に興味がある人は、アダム・グラントさんの「ORIGINALS オリジナルズ 誰もが人と違うことが出来る時代」を強くお勧めします。成功した起業家はどういう人なのか?の心理学的エビデンスに基づいた分析や、どう世間一般のレールを踏み出し前に進んでいくのか、そして良いアイデアはどう生み出していくのかについての具体的かつ実践的な、実生活にも応用できる智慧を身につける事が出来ます。
本書に関しては時間があれば参考までに目を通すだけで充分だと思います。成功した起業家ではなく、失敗した起業家ばかりを集めた事例集みたいな本があれば読みたいですね。
書誌情報
日本語版
・「THINK WILD あなたの成功を阻むすべての難問を解決する」 リンダ・ロッテンバーグ (著), 江口 泰子 (翻訳) ダイヤモンド社 2017/5/24 ブックデザイン:新井大輔
原著
・Crazy Is a Compliment: The Power of Zigging When Everyone Else Zags by Linda Rottenberg (Author) March 1, 2016
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