社会や学校に行くとなぜか嫌なヤツが上司で権力を持っている…どうしてあんな人が権力を持っているのだろうか?と思った事は誰しも一度はあると思います。本書「悪いヤツほど出世する」は以前当ブログでも紹介した「「権力」を握る人の法則」の著者ジェフリー・フェファーさん(スタンフォード大学ビジネススクール教授、組織行動学)のリーダーシップに関しての本の続編です。今回は本書を読んで考えたことなどをまとめたいと思います。
目次(Contents)
アメリカはリーダーシップ教育が盛ん。
実際にアメリカに留学した経験がある私からすると、とかくアメリカはリーダーシップについて意識する人が多いな、という印象を持ちます。名門大学に入るためにボランティアなどの課外・社会奉仕活動が重視され、弁論大会なども盛んでリーダーシップの素養がある学生は歓迎されます。大学も次のリーダーとなる人材を養成する機関としての意識も高く、社会で出世する為にはMBAなどの学歴が高く評価されます。
本書の冒頭は、まず現状のリーダーシップ教育についての疑問から始まっています。アメリカは誰にでもチャンスが与えられる国ですが、一方で学歴社会でもあります。多くの人が出世のために大学院(ビジネススクール)へ行き、そこでMBAを取得するために時間とお金を費やしています。
本書はそうしたビジネススクールなどの「リーダーシップ教育産業」を冒頭でバサッと切り捨てています。
リーダーシップ教育産業が失敗している現状について
・起業家を調べた調査では、成功しているリーダーはごくごく一部で、多くの場合は失敗をしたり、トップのとんでもない決定によってむしろ業績が悪化し人材の流出が止まらない会社がある。
・失敗するリーダーが多すぎて、成功しているリーダーはとても少ない。
・優れたリーダーが少ない証拠として、従業員のやる気が無い職場が多すぎる。
要するに多くの資金と労力がリーダーシップ教育に費やされているけれど、それに見合った効果は得られていないということです。リーダーシップ教育の効果について実証的に測定することも行われておらず、現状はこうあるべきというリーダーシップ像が一人歩きし、実態に見合わないリーダーシップが教えられているそうです。
理想とされる謙虚なリーダーはとても少ないのに、あたかも現実に即しているかのように語られている
理想とされるリーダーは謙虚で、誠実で、思いやりがある…とされていますが、実際にそうしたリーダーはとても少ないといいます。むしろ実際はドナルド・トランプのような自分に自信があり、ナルシストさを持ったリーダーの方が出世するのだそう。リーダーに多いのは自信過剰、ナルシストで行動出来る人だそう。
この点、アメリカでも謙虚さをもったリーダーが理想とされているのに少し驚きました。日本では謙遜は美徳ですが、個性を大事にするアメリカ人から考えても理想のリーダーは謙虚さが求められているのか…。
本書を読むとずうずうしくも自分を売り込み、行動出来る人が出世できるタイプ、と考えることができます。
自分らしさを売りに出すオーセンティックリーダーシップ像は理想論。現実は自分を押し殺したリーダーの方が上手くいく
自分らしく、本当の自分らしさをリーダーに発揮することを求めるオーセンティックリーダーシップという考え方が賞賛されています。でも実態は臨機応変に自分を押し殺したリーダーの方が上手くいくのだそう。本書はこんな感じで理想のリーダーとされているものをことごとくぶっ壊していきます。
感動のサクセスストーリーは後付で用意されたものだとバッサリ。
優れたリーダーはハロー効果で他の側面も良く見えてしまうもの。本書でもその点が指摘されており、どんなに立派な人でも人間的には完璧な人間はいないのだから、優れたリーダーが人格的にも優れている訳ではないだろう、ということを指摘しています。リーダーに感動のサクセスストーリーを期待してしまう人間の性が垣間見えます。
誠実なリーダーはいるにはいるが、とても少ない。二枚舌リーダーの方が多い。
誠実さも理想とされるリーダーの特徴の一つですが、実際に真実を語るリーダーは少なく柔軟に嘘をつくリーダーの方が多いのだとか。まぁ、少し考えれば馬鹿正直は憂き目を見ることは想像出来ますからね。ただ、こうした美化されたリーダーシップ像が理想とされているのが問題。
むしろ耳にさわりが良い心地よい嘘をつくリーダーの方が求められていると言います。人は自分の見たい物を見、聞きたいことを聞くと言うことか…。
リーダーに信頼は要らない
信頼もリーダーシップを語る文脈で外せない概念です。とかく社会に出ると信頼こそが重要だと言われていますが…。
実際はリーダーには信頼も必要ないとのこと。戦略的に立ち回り、行動出来ることのほうが重要みたいです。
リーダーには思いやりも要らない
部下を思いやるリーダーが理想とされていますが、現実には自分第一のリーダーがとても多いのだそう。自分の損得が最も大事で、自分の利益に繋がる事ばかり考えているリーダーばかりということです。Amazon創業者のジェフペゾスの評伝を読むと確かにそうだろうな、と納得。
自分の身は自分で守らないといけない
総じて、世の中のリーダーとされている人は美化されがちですが、実態はそうでは無く、人格的にも問題があることが多いということです。誰もが自己利益のことばかり考えているから、自分もずる賢く立ち回り、自分の利益を考えていこうというというメッセージが読み取れます。
なんだか見たくない現実を突きつけられているような気分になりますね。本書の言うリーダー神話を捨て現実に生きよ、とはまさにこの直視したくない現実と対峙することでしょう。
感想・まとめ リーダーシップは性悪説に捉えた方が上手くいくかもしれない。リーダーは聖人君主では決して無い。ずる賢く立ち回る必要性を気づかせてくれる一冊。
簡単に本書の要点を伝えると、リーダーや権力を持っている人は神格化されて賞賛されがちだけれど、実態はそうではないから、ちゃんと事実を見て自分で上手く立ち回ろう、という事でしょうか。
本書を読むと、一気に気持ちが性悪説に傾くような感覚が…。いわゆるいい人とされるほどこうした自分に都合が良い、自分の損得ばかり考える行動出来るナルシストから振り回されるのだろうな…とも思ったり。
現実は公正世界仮説のようにはならず、人は自分の見たい物を見て、聞きたいことを聞きます。自分の理想とする色眼鏡をかけて世界を眺めているということ。
馬鹿正直に教科書通りの理想のリーダーシップを信じてまうと有象無象の社会ではむしろ通用しなくなる事実。
本書の構成としては殆どが具体例なので、重要なエッセンスを掴みながら飛ばし飛ばし読むことをお勧めします。
どちらにせよ、リーダーシップに必要なのは戦略性と行動力だよな、と本書を読んで思いました。嫌なヤツは嫌なヤツだからこそ、彼らの持つずうずうしさとずる賢さ、行動力でのし上がれたのでしょう。
■日本語版「悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫) 」 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳) 日本経済新聞出版社 (2018/3/2)
■原著「Leadership BS: Fixing Workplaces and Careers One Truth at a Time」 Jeffrey Pfeffer (著)